- 2016年07月15日 00:00
舛添騒動で得たものと失ったもの - 田中辰雄
2/3炎上を抑制する余地はあったか
炎上の程度を抑制し、もう少し落ち着いて議論をしたうえで辞めさせることは可能だっただろうか。そもそもそんな議論の余地はあっただろうか。舛添辞任時にはどのメディアもネットも舛添叩き一色であり、とても議論は成立しなかったように思える。しかし本当に人々の意見は一色だったのだろう。これをみるために、都民に対して簡単なアンケート調査を行った。問いは、都議会が舛添知事を辞めさせたことについて、辞任させるべきだったと思うか、辞任させなくてもよかったと思うかを問うたものである。図1がその結果である。調査日は2016年6月30日で知事が辞職した2週間後の時点で、サンプルは東京都在住の2400人である。(注4)
(注4)調査モニターは「アンとケイト」のモニターである。この会社のモニターの信頼性は不明であるが、得られた結果は一貫しているので大きなバイアスはないだろうと推測する。以下、この推測の下で議論を進める。
図1
辞任させるべきだったを選んだ人が74%で圧倒的に多数派であり、予想通り舛添辞任すべしの世論は動かない。しかし。辞任させなくてもよかったを選んだ人が15%存在する(後に見るようにネットが情報源の人に限るとこの比率は20%程度に上昇する)。この数字なら議論は成立するレベルである。議論をしても舛添辞任すべしの結論は動かないだろうが、政治資金の支出のあり方についての議論が深まり、次の都知事期選に悪影響が出ないような決着がつけられたかもしれない。
論点はいろいろある。政治資金の使途を制限すると政治活動の自由を侵さないのか、公私混同の公私の区別をどうつけるのか。区別がついたとして適用は過去にどこまでさかのぼるのか。違反したときのペナルティをどうするのか。政治資金の使途についてはこれまでルールがなかったので、論点はさまざまに考えられる。舛添知事を辞任させるべきという側と辞任させなくてもよいという側が議論すれば、おのずからこれらの論点に話題が及び、議論が深まることになる。
ちなみに辞任させなくてもよかったと考える人がなぜそう思うのかはあまり知られていないので、自由記入で書いてもらった。すると「選挙するとかえってお金がかかる」「彼は有能であり、無給でやると言っているからやらせた方がよい」「似たようなことは他の政治家もやっており、彼は金額が小さく、大した問題ではない」の3つが大きな理由である。
一方、辞任させるべきという理由はすでに多くの人が表明しているように、せこい、公金を私的に使うなど信頼できないなど政治家としての資質に関する指摘が多い。辞任させるべきと考えている人は公私混同にあきれ、彼の資質に見切りをつけているのに対し、辞任させなくてもよいと考えている人は、他の政治家も同じことをしており、そのなかで彼は能力的にましな方だと考えているようである。
炎上が拡大した理由
意見の分布としては議論は成立しえただろう。では、炎上を抑制し議論の場をつくることができただろうか。炎上が抑制できたかどうかまではわからないが、今回の事件が大きく炎上した理由を二つ指摘できる。ひとつはテレビが炎上を主導したこと、もうひとつは舛添氏の対応が大変まずかったことである。
まず、すでに述べたように今回の炎上はネットではなく、テレビが主導した点に特徴がある。週刊文春が調査で先導したが、これを大きく取り上げ、世論をつくりだしたのはネットではなくマスメディア、特にテレビであった。これを確かめるために、図1の舛添氏が辞任すべきだったかどうかについての回答を、回答者のメディアの利用時間別にみてみよう。
図2で横軸はメディアの利用時間、縦軸は辞任させなくてもよかったと答えた人の割合である。上図はネット系メディア3種(Twitter, Facebook, 2チャンネル等の掲示版)の利用時間別で、下図はテレビと新聞の利用時間別である。利用時間はいずれも平日の利用時間である。
上図を見るとネットメディアでは利用時間が増えるにつれて辞任させなくてもよかったという人が増えている。全体平均15%に対し、ネットメディア利用時間が1時間以上の人では20%程度の人が辞任させなくてもよかったと答えている。特にFacebookを1日に1時間以上利用する人では、舛添氏を辞めさせなくてもよかったと考える人が26%にもなっている。一方、マスメディアの利用時間に関しては下図に見るように横ばいで変化はない。
図2 辞任させなくてもよかったと思う人の割合
図3は、逆に辞任させるべきだったという人の割合である。上図のネットメディアの場合、すべて右下がりであり、ネットメディアの利用時間が長い人ほど辞めさせるべきだったという人が減っている。特にfacebookとtwitterユーザーでその傾向が強く、利用しない人に比べて10%ポイント近く辞めさせるべきという人が少ない。
図2とあわせて考えると、ネットのヘビーユーザは相対的には舛添氏に対し容認的だったことになる。一方、下図のマスメディアでは右上がりであり、テレビ・新聞というマスメディアの利用時間が長い人ほど舛添氏を辞任させるべきだったという人が増える。したがって、ネットのヘビーユーザよりもテレビ・新聞などマスメディアのヘビーユーザの方が舛添氏に批判的であることになる。これは炎上の主舞台がネットではなく、テレビ・新聞であったことを示唆する。
図3 辞任させるべきだったと答えた人の割合
炎上の場合、マスメディアが攻撃側に参加するかどうかの影響は大きい。炎上はネット内だけにとどまっている限りは影響力が限られるが、マスメディアに取り上げられると急激に威力が高まるからである。昨年の五輪エンブレム事件が大事件になってエンブレムの撤回に至ったのも、ネットだけで無く、テレビ等のマスメディアがいわゆるパクリ騒動を取り上げたからである。今回の炎上事件では最初から主役がネットよりもテレビであり、それゆえ炎上の威力が非常に強まったと考えられる。



