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元ヒステリックブルーのナオキが出所を前に獄中12年の心情と事件の真相を手記に綴った

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元『ヒステリックブルー』ナオキの獄中手記

罪と償いについて考える 赤松直樹

山形刑務所では毎年4月に「観桜会」が実施される。もっとも、その名称ほど大仰なものではなく、運動場の片隅に数本生えている桜の木の下にブルーシートを広げ生菓子を喫食するという10分15分の行事だ。

冬の間ずっと不機嫌だった太陽がようやく顔を出した昨年の観桜会。春風にあおられた花びらが小躍りする様を眺めながら、「交談禁止」のため黙々とプレミアムスイーツ『ふんわりワッフル(4ケ入り)』を食していた。脳内再生されていたBGMはオリビア・ニュートンジョンである。その瞬間、私は確実に小さな幸せを噛み締めていた。生クリームとともに。

税金で犯罪者にそんな贅沢させるなという意見もあるだろう。しかし、単調な生活を送る毎日にあって、このような行事が受刑者に与える心理的影響は決して小さくない。幸せを感じると同時に、改めて気付かされるのである。

――ああ、幸せだ。社会からは忌み嫌われるべき存在でしかない犯罪者のオレが、こうして美味しいお菓子を食べさせてもらいながら桜を眺め幸せを感じている。でも、オレの被害者の人たちは事件以降こんな幸せさえ感じることができなくなってしまったのかもしれない。彼女たちは事件の傷とどう向き合い、どう乗り越え、あるいは乗り越えられず今も苦しんでいるのだろうか。本当に、本当に申し訳のない、取り返しのつかないことをしてしまった……。

2004年3月4日、私は建造物侵入及び強制わいせつ容疑で逮捕された。事案は、マンション内の共用廊下に立ち入り、その場で女性にわいせつ行為をしたというもの。その後、余罪を自供し、強姦1名を含む計9名に対するわいせつ・強姦事件で06年6月に実刑判決が確定した。

〈そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。〉(太宰治『人間失格』新潮文庫)

逮捕から12年、受刑者としてはちょうど10年の節目を迎える。償いとは何か。被害者の方々に罪を償うにはどうすればよいのか。それをずっと考えてきた。……いや、ちょっと待てよ。その問いの背景には、何らかの方法によって償うことができるとの前提が隠れているのではないか。「償える」と思うことが被害者の苦しみを過小評価した加害者側の傲慢さの表れではないのか。そもそも、加害者(しかも性犯罪)が被害者に対し償うこと自体可能なのか。答えは否である。たとえ死んでお詫びしたところで被害者の傷が癒えるわけでもない。ならば私は償うことさえ叶わない大きな罪を犯したのだという自覚を持ち、一生それを背負って生き続けなければならないのだ。

懲役刑に服するということはあくまで社会治安を乱したことに対する国家への償いでしかなく、むしろ服役を終え自由を手にした後こそが真の償いの始まりである。自分の被害者に対して償えないのであれば誰に対して償うのか。まずは「未来の被害者」なのだと思う。今はまだ被害に遭っていないが将来何らかの事件に巻き込まれるかも知れない存在。つまり私自身が再犯に至らないことを大前提として、その上でなお、新たな犯罪を防ぐことができないだろうか。

統計数字を見る限り、そして私自身の経験からも、刑務所とは「矯正施設」ではなく「再犯者養成所」である。適切な運営と教育により大きく再犯率を下げることができるにも関わらず。

加害者も被害者も、受刑者も刑務官も、市民も政府も、それぞれ立場は異なるものの「新たな被害者や加害者を生み出さないために何ができるのか」との一点においては同じ目的を共有できるのだと信じたい。

こうして私が自分なりに罪と向き合うことができているのには、ふたつの大きな要因があるからだろう。ひとつは通称「R3」と呼ばれる更生プログラムを受講したこと。そしてもうひとつはキリスト教の信仰を得たことだ。

全員というわけではないが、多くの性犯罪者は服役中にR3の受講を義務付けられる。これは認知行動療法に基づいたプログラムで、週2回、半年かけて実施される。受講者8名(固定メンバー)と臨床心理士・教育部門スタッフなど計10名前後で行われ、各自が課題として作成したワークブックの内容について発表し、ディスカッションするグループワークだ。私はこれを2009年に受講した。

このプログラムの効果は昨年度版『犯罪白書』で明らかにされ、出所後の再犯率はR3受講者が9・9%、非受講者は36・6%とのことである(出所者全体では47・1%)。

R3では感情統制方法など様々なスキルを学ぶこともできるが、私にとって最も効果があったのは「心を開くことができるようになった」ということだ。

元来私はそれができず、常に本音を隠して生きてきたように思う。その結果、親友なるものができたことはなく、また、人に弱音を吐くことができないためひとりでストレスを抱え込むこととなる。それが極限まで高まったのは2002年だった。 (略)

女性に困っていたわけでも特殊な性癖があったわけでもない。もしかしたら性犯罪ではなく薬物や暴力だった可能性もあったかもしれない。今更ながら身勝手極まりなく、被害者の方々にはお詫びのしようもない。

二度と犯罪に関わりたくないというのは、多くの受刑者が持ち合わせている願いだ。私も、自身の再犯防止のため、R3の効果を最大限享受したいと思い受講に臨んだ。そしてそのために、これまでずっと閉じてきた心の扉を常時オープンにする必要に迫られた。なんせこれまで本音を見せずに生きてきた人間が、幼少期から現在に至るまでの自分史や当時の感情、性の芽生えや性的嗜好などを人前で発表するのである。

しかし受講を重ねるうちに気付いてきた。自分を晒け出すことに何の不都合もないのではないか、と。むしろこちらが心を開けば相手も同じように接してくる。距離が縮まる。そんな当たり前のことや対人関係の築き方を30歳(当時)にもなって初めて知ったのだ。逆に、なぜこれまでの人生においてあんなにも頑なに心を閉ざしてきたのか疑問にさえ思った程である。

心を開く対象は他人だけではなく自分自身をも含む。本当は傷付いて生きてきたにも関わらず傷付かない振りをして、あるいはそれを認めたくないから意図的に目を逸らしていたのだろう。自分の痛みに向き合えない人間が他人の痛みを想像することなんて決してできない。だからこそ簡単に人を傷付けることができた。    (以下省略)

手記は『創』8月号に掲載

手記は『創』8月号に掲載http://www.tsukuru.co.jp

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