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イラン周辺国の核武装の可能性 - 岡崎研究所

ブルッキングス研究所上級フェローのアインホーンが、6月2日の同研究所のサイトで、イラン周辺国が核武装したり、核兵器能力を取得する可能性は当面ない、と述べています。論説の趣旨は、以下の通りです。

最も核武装の動機があるサウジ

 イランの核合意に関して、イランが合意を守るのか、合意期間後イランが大規模な濃縮活動を行うのではないかと言った疑問が提示され、イランの周辺国が核武装する恐れがあるのではないかとの見解が見られるが、イラン周辺国のうち、核武装の可能性があると言われる4か国の事情は以下の通りである。

 最も核武装の動機があるサウジアラビアは、イランを地域の宿敵と考えており、他方安全保障で米国に頼らざるを得ないことを知っている。サウジは核武装のための資金は十分持っているが、自らの核計画を実施するための人的、物理的インフラを得るには何年もかかる。核武装のためパキスタンに頼るとの憶測がある。確かにパキスタンは自身の核武装に際し、サウジから寛大な資金支援を受けた。パキスタンがサウジの核武装を支援すると約束したとのうわさは絶えないが、それは多分何年も前の具体的細目を欠く口頭の保証だったのだろう。

 アラブ首長国連合(ア首連)は、サウジ同様、イランを脅威と考えるが、サウジ同様、結局は米国との安全保障の結びつきを危険にさらしたくない。その上、ア首連は韓国の支援を受けて4基の原発を建設しようとしている。核武装すれば原発計画が水泡に帰すことを知っている。また、米国との原子力協定で濃縮と再処理能力は取得しないことを約束している。

 エジプトは、ナセルの時代に核武装を考えたことがあるが、イランを直接の軍事的脅威とは考えていない。エジプトの関心事は、シナイ半島の過激派の活動、イラクとシリアの分断、リビアの混乱であり、これらが国内の治安に及ぼす悪影響である。しかしこれらの問題が核武装で対処できるものではないことは知っている。

 トルコは、過去10年、技術力・経済力をつけ、地域で影響力のある国になる野心を持っていることから、トルコも潜在的核武装国であると考えられている。しかし、トルコとイランとの関係は悪くなく、トルコはエジプト同様、イランを直接の軍事的脅威とは考えていない。トルコの安全保障にとっての主たる関心は、シリアの紛争のもたらす不安定とテロであり、核兵器はこれらの懸念に対処するのに適当とは考えられない。2015年11月のトルコによるロシア戦闘機撃墜事件で、ロシアとの緊張が高まっているが、トルコは、NATOとの関係は紆余曲折あったが、危機に際してはNATOに頼れると考えており、核武装でNATOとの関係を危うくしようとはしないだろう。

 その他のイラク、リビア、シリアは、過去に核武装を試みたことがあったが、現状ではとても試みるのは無理だろう。

 結論として、イランの核合意の結果、中近東諸国が核武装の選択肢を考えるインセンティブが著しく減った。少なくとも当面、核兵器や核兵器能力を追求しようとする国はないだろう。

出 典:Robert Einhorn ‘Iran’s regional rivals aren’t likely to get nuclear weapons—here’s why’ (Brookings, June 2, 2016)
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2016/06/02-proliferation-risks-middle-east-einhorn

 アインホーンは、イラン周辺国で核武装の可能性が考えられうる国として、サウジ、ア首連、エジプト、トルコを挙げましたが、このうち可能性があるのは、アインホーン自身が述べているように、サウジだけです。サウジの核武装の可能性は、イランとの核交渉以前から話題とされています。

 2011年、サウジのトゥルキ・ファイサル王子(元駐米大使)が、リヤドで行われた安全保障会議で、「イスラエルとイランからの核の脅威に晒されている今日の状況が続くのであれば、サウジとしてもやむなく両国に倣わざるを得ないかもしれない」、「核兵器の保有を含むすべてのオプションを検討することが国家と国民に対する我々の義務である」と述べたと報じられました。

 2013年には、BBCがNATO高官の話として、サウジのためにパキスタンの核兵器がいつでも引き渡せる状態にあると報じ、パキスタンは「根拠がない」と全面否定し、サウジは否定はしなかったと伝えられました。

 本年1月には、ケリー国務長官が「サウジは核兵器の購入が、彼らの安全を高めることなどないばかりか、頭痛の種になることを知っている」、「サウジはNPTを尊重すべきだ」と述べたと報じられました。サウジが、イランの核の脅威を念頭に、核武装の選択肢を考えても不思議ではありません。しかし、サウジの核武装のシナリオは描きがたいものです。

残された選択肢

 まず、サウジは、核兵器物質を作る濃縮、再処理の技術は持っておらず、自前で開発するには何年かかるか分かりません。その上、濃縮、再処理は、核拡散防止上機微であるとして、原子力供給国グループのガイドラインで、その資機材、技術の供給が禁止されていますので、他国からの導入は極めて困難です。

 残された選択肢は、時に指摘されるように、パキスタンから核兵器を導入することですが、いくらパキスタンが自らの核開発でサウジから寛大な資金支援を受けたからと言って、核兵器は他国に渡せるようなものではありません。たとえ渡したとしても、核兵器がサウジに渡った後の管理の責任も取らなければなりません。またサウジは、イランに対し抑止の効果を上げるためには、核兵器を取得したことを公にしなければならず、その場合はNPTの脱退や、米国との戦略的決別も覚悟しなければなりません。この選択肢の政治的、物理的リスクはあまりにも大きいと言わざるを得ません。

 したがって、サウジは、イランとの対抗上折に触れ、核武装をほのめかすかもしれませんが、その可能性はまず考えられないと言ってよいでしょう。

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