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仲裁裁判所が否定した九段線とは?

中国が南シナ海全域に管轄権を主張して引いた「九段線」について、フィリピンが仲裁裁判所に提訴していた裁判で、仲裁裁判所は一二日中国側の主張する「九段線」に法的根拠がないとする判決を下しました。

【マニラ=向井ゆう子】中国が南シナ海で主張する「九段線」は国連海洋法条約に違反するなどとして、フィリピンが2013年に提訴した仲裁裁判で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は12日、「九段線」について歴史的権利を主張する法的根拠はないとする判決を示した。
中国「九段線」に法的根拠なし…ハーグ仲裁裁判
これを受けて中国が反応するかがこれから注目されますが、黙って従う可能性は低く、今後さらに問題が加熱するかもしれません。

さて、この裁判関連の報道でよく見かけるのは、「九段線」という言葉です。これは、中国が管轄権が及ぶと主張する領域を示す地理上の概念ですが、南シナ海のほぼ全域に渡っており、下の図の赤い線が九段線になります。

佐々木健「中国の南シナ海進出と国際社会の対応」参議院事務局企画調整室より

中国も加盟している国連海洋法条約では、沿岸国の基線(領海の基準となる線。おおむね海岸線と思って下さい)から12海里(約22km)以内を沿岸国の主権が及ぶ領海とし、200海里(約370km)以内を排他的経済水域(EEZ)として、沿岸国に資源や開発の排他的権利を与えています。

ところが、九段線の範囲は、仮に南沙諸島を中国が領有すると認めたとしても、EEZでもここまで広くはなりません。'''九段線の範囲は現行国際法上の何に基づいているかが不明'''なのです。中国は南沙諸島の領有権、領海やEEZに加え、今回裁判で否定された南シナ海の「歴史的権利」を持つとしていますが、それで何が得られるかが曖昧なのです。

そもそも、九段線の元となる線を最初に引いたのは、現在の中国(中華人民共和国)ではなく、戦前の中華民国政府でした。

1930年に中華民国政府が発行した地図で南シナ海の島嶼の領有権が主張され、続いて1947年に「中国の権威が及ぶ範囲の限界」として、南シナ海に11の区画線からなる「11段線」を引きました。1953年には2つの線が削除され、現在の九段線の形になりました。つまり、現在の中国は、かつての中華民国の立場を受け継いでおり、中国のネットサービスの地図にはデカデカと九段線が描かれています。

ところが、この11段線、九段線を引いた側の中華民国(現在の台湾)も、中華人民共和国も、九段線の法的な意味を未だに明らかにしていません。誤解されがちですが、領有権の主張ではなく、「管轄権」であり、これが具体的にどういう権利を主張しているのか、よく分かっていないのです。

この九段線の法的意味合いについては、中国内外でも議論されてきましたが、その中で出ている意見に、「外交に戦略的曖昧さを持たせることで外交で取れる行動の幅を拡げるため」という推測があります。最近になって、これを裏付ける発言が、6月に開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)に参加した中国政府関係者から出ています。

 姚云竹少将は「シャングリラ対話」の一環として4日に開かれたセミナーで「中国にとって、そしてその他の領有権主張国にとって、曖昧さが良いことかもしれないと今なお考えている」と発言。「その結果、中国など領有権主張国にとって動ける余地が広くなり、妥協する余地が広くなる」と述べた。
ウォール・ストリート・ジャーナル「南シナ海「九段線」、曖昧さはいつまで持つか」

つまり意図的に曖昧にすることで、出せる手札を多くするという手のようです。

もっとも、今回の判決で国際的には中国の歴史的権利は否定されました。この後、中国がどのような反応を見せるかですが、南シナ海の緊張が高まるかもしれず、注視が必要です。

日本では尖閣諸島の問題ばかり注目されがちですが、南シナ海は周辺国家にとっても重要なのはもちろん、日本を含む東アジアの国にとっては、中東・ヨーロッパからくる船のほとんどが通過する重要な海域です。平和安全法制の審議で例に出されたホルムズ海峡以上に重要な海域なのは自明で、一国がここの管轄権を主張する事態は日本の安全保障上の重大問題になり得ます。せめて、尖閣並に注目されてもよいのではないでしょうか。


【参考】

吉田 靖之 「南シナ海における中国の「九段線」と国際法」海幹校戦略研究 2015 年6 月

佐々木 健 「中国の南シナ海進出と国際社会の対応 」参議院事務局企画調査室

上の2論文はネットで見られる中で、南シナ海問題の整理に役立ちます。特に上は国際法上の議論や歴史的権利にも触れており、大変参考になりました。


李克強「中国と周辺国家の海上国境問題 」『境界研究』No.1

また、現在中国共産党序列2位の李克強首相が副総理時代に書いた論文は、中国の主張の整理に役立つと思います。

【関連書籍】

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