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消費税率引き上げの総決算-景気は想定外の悪化も、企業収益、税収は好調 - 斎藤 太郎

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3――生産、雇用、物価、企業収益、税収の動向

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1鉱工業生産
鉱工業生産指数は1997年度の前年比1.1%に対し、2014年度は同▲0.4%と前回増税時の伸びを下回った(図表13)。前回増税時は1997年4-6月期が前期比▲0.5%、7-9月期が同0.5%と消費増税後もしばらくは横ばい圏の動きが続いたが、その間に在庫が大きく積み上がったことがその後の生産調整を深刻なものにした面があった。

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今回は早い段階で生産調整に踏み切ったが、国内需要の落ち込みが想定を上回り輸出も伸び悩みが続いたことから、在庫は前回増税時と同様のペースで積み上がってしまった(図表14)。鉱工業生産指数は消費増税後に2四半期連続で低下した後、2014年10-12月期、2015年1-3月期と2四半期連続で上昇したが、在庫調整の遅れを反映し、2015年4-6月期は前期比▲1.5%と再び減産となった。

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2雇用情勢
実質GDPや鉱工業生産の低迷が示すように景気全般は前回増税時よりも厳しいものとなったが、こうした中でも雇用情勢は堅調を維持した(図表15))。その背景には人口減少、少子高齢化が進展する中で企業の人手不足感が極めて高いものとなっていることがある。

雇用関連指標は景気の遅行指標であるため、前回増税時も失業率、有効求人倍率が悪化し始めたのは1997年秋から1998年初めにかけてであった。2014年4月の消費税率引き上げから1年以上が経過したが、雇用情勢は悪化することなく改善を続け、失業率、有効求人倍率ともに約20年ぶりの水準にまで回復している。消費税率引き上げを起点とした雇用情勢の悪化は回避されたと判断される。

3消費者物価
日本銀行は消費税率引き上げの1年前に当たる2013年4月に「量的・質的金融緩和」(異次元緩和)を導入した。当時、消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は小幅なマイナスだったが、2012年末頃からの大幅な円安に伴う輸入物価上昇を国内物価に転嫁する動きが進んだことから、2013年6月に1年2か月ぶりのプラスとなった後、上昇ペースが徐々に高まった。消費税率引き上げ前の段階で消費者物価上昇率は前回増税時よりも1%近く高くなっていた(図表16)。

消費税率引き上げ時の価格転嫁率は前回がほぼ100%だったが、今回は100%を若干上回った6。消費税率が引き上げられた4月の品目別の価格転嫁率を確認すると、前回は価格転嫁率が100%以上の品目が46%だったが、今回は61%と50%を大きく上回った(図表17)。今回の増税に際しては、政府が消費税の転嫁拒否や消費税分を値引きする等の宣伝・広告を法律で禁止するなど、円滑な価格転嫁を促進する姿勢を明確に示したことが企業の値上げを後押ししたとみられる。このことが企業の値上げに対する抵抗感を小さなものとし、これまで十分に転嫁できていなかった円安によるコスト増を消費増税分に上乗せする形で製品、サービス価格に反映させた企業も多かったと思われる。

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コアCPI上昇率は消費税率引き上げ直後の2014年4月には1.5%(消費税率引き上げの影響を除く)まで高まったが、その後は増税後の景気減速に伴う需給バランスの悪化、2014年秋以降は原油価格急落に伴うエネルギー価格の上昇率低下から伸び率の鈍化傾向が続き、2014年度末にはほぼゼロ%となった。一方、前回の増税時には消費増税後の景気減速ペースが今回よりも緩やかだったこと、円安に伴う輸入物価上昇により国内物価が押し上げられたことから年度半ばにかけては上昇率が高まった。年度全体のコアCPI上昇率は1997年度が0.7%、2014年度が0.8%と同程度となった(ともに消費税率引き上げの影響を除くベース7)。

4生産、雇用、物価の事前予想との比較
政府、民間の経済見通しではGDPに加えて、生産、雇用、物価についても予測値が示されている(日銀見通しは実質GDPと消費者物価のみ)。そこで、これらの項目について実績値を見通しと比較すると、政府、民間ともに鉱工業生産は実績値が見通しから下振れ、失業率は見通しから上振れ(失業率の水準は下振れ)となっている。また、消費者物価については政府、日銀、民間ともに実績値が見通しから下振れしたが、乖離幅は日銀が最も大きくなっている(図表18)。

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5企業収益は好調を維持
ここまで見てきたように、2014年度の景気はかなり厳しいものとなったが、そうした中でも企業収益は好調を維持した。財務省の「法人企業統計」で経常利益の推移を確認すると、前回は増税直後の1997年4-6月期から5四半期連続で前期比減少となったが、今回は消費増税の影響で若干弱含む局面はあったものの、基調としては回復傾向を維持し、2014年10-12月期にはリーマン・ショック前を上回る過去最高水準を更新した(図表19)。年度ベースの経常利益は1997年度が前年比▲7.8%の減益だったのに対し、今回は同5.9%と増益を確保した。

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今回の増税時において景気が全般的に前回増税時よりも弱かったにもかかわらず企業収益が好調を維持した理由はいくつかある。

ひとつは大幅な円安にもかかわらず輸出数量は伸び悩んだが、契約ベースの価格を維持することで円換算の輸出金額は高めの伸びを続けたことである。過去の円安局面では、企業は契約通貨ベースの価格を引き下げて輸出数量を伸ばすことにより海外市場シェアの拡大を図る傾向が強かったが、2000年代半ば以降の円安局面では価格の引き下げ幅は小さくなっている(図表20)。これは海外生産シフトが進み国内の生産能力が頭打ちとなる中、企業が輸出数量を伸ばすことよりも価格を維持することで金額ベースの収益を確保する傾向を強めていることを反映したものと考えられる。

また、国内においても売上数量は大きく落ち込んだが、円安などによるコスト増を比較的スムーズに価格転嫁できたことが金額ベースの売上、収益増につながった。日本銀行の「製造業部門別投入・産出物価指数」を用いて、製造業の価格転嫁率(産出物価上昇率/投入物価上昇率)をみると、2012年7-9月期から2014年7-9月期までの2年間の価格転嫁率は70%程度と過去に比べてかなり高くなっている(図表21)。

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非製造業にとって円安はコスト増を意味するが、前述したように最近は国内の最終製品への価格転嫁が比較的スムーズに進んでいることが収益の悪化を食い止める形となっている。さらに、円安が大幅に進んだことで海外子会社からの配当、海外金融資産からの利子の受取額が膨らんでいることも企業収益の改善を後押しした。

2014年度の全産業ベースの経常利益を要因分解すると、売上数量の落ち込み、人件費の増加は押し下げ要因となったが、交易条件の大幅改善によるプラス効果がこれらを上回ったほか、海外からの利子、配当も含む金融費用要因がプラスになったことも収益の押し上げ要因となった(図表22)。

6税収は大幅に上振れ
2014年度の一般会計の税収(決算見込み)は53兆9707億円となり、前年度よりも7.0兆円(前年比14.9%)の大幅増となった(図表23)。もちろん、この中には消費税率引き上げによる増収分も含まれているが、消費税率引き上げに伴う増収分を差し引いても、2014年度の税収は2.5兆円(前年比5.3%)増えていた計算になる。1997年度は消費税率引き上げによる消費税の増収(前年比3.3兆円)はあったものの、企業収益の悪化により法人税が大きく落ち込んだことなどから、税収全体の前年度からの増加幅は2.1兆円(前年比4.3%)にとどまった。

2014年度の税収の内訳をみると、名目ベースの雇用者報酬が比較的高い伸びとなったことや配当、株式譲渡益の増加から所得税が前年比8.1%の高い伸びとなったほか、企業業績の好調を反映し法人税も5.1%の増加となった。また、消費税収は前年から5.2兆円増の16.0兆円となった。財務省によればこのうち4.5兆円が消費税率引き上げによる増収分となっている8が、この部分を除いても消費税収は前年比0.7兆円(前年比6.1%)の増加となる。

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ただし、2014年度の個人消費が急速に落ち込んだにもかかわらず消費税収が増税の影響を除いても明確な増加となったことにはやや違和感もある。消費税は主として個人消費にかけられる税9であるため、個人消費との連動性が高い。2014年度のGDP統計ベースの個人消費は名目で前年比▲1.1%、実質で前年比▲3.1%であった。通常は消費税の伸び率は名目の個人消費の伸びとの連動性が高いが、2014年度の名目個人消費の伸びは消費税率引き上げによって嵩上げされており、その分を取り除くと前年比▲2%強のマイナスとなり、消費税収の実績とは大きな乖離がある。

また、2014年度の消費税収は当初予算から0.7兆円(4.5%)上振れした。通常は政府見通しにおける名目個人消費の見通しと実績値のズレは税収見通しと税収実績のズレと方向が一致するが、2014年度は個人消費の実績が見通しから大幅に下振れしたにもかかわらず、消費税収は大幅に上振れしており、両者の関係がちぐはぐになっている(図表24)。

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この理由のひとつは国内の個人消費として扱われない訪日外国人の急増10で個人消費の伸び以上に消費税収が増えることだが、それ以外にいくつかの可能性が考えられる。(1)免税事業者や簡易課税選択制度により発生する益税の規模が小さくなっている可能性があること、(2)税率引き上げによる増収分の多くが2014年度に前倒しで納付されている可能性があること、(3)現時点では、GDP統計の2014年度の個人消費は速報値であり、確報値で上方修正されることにより税収との乖離が縮まる可能性があること、などである。

このうち、(2)については消費税の納付が前倒しされているのであれば、その分2015年度の消費税収が少なくなるはずであるが、このことを知るためには2014年度と2015年度の消費税収を合わせてみる必要がある。また2014年度のGDP統計の確報値は2015年末に公表される予定となっている。2014年度の個人消費と消費税収の関係が明確となるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。

4――2017年4月の消費税率再引き上げに向けて

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本稿では、消費税率引き上げによる日本経済への影響を様々な角度から検証した。総じてみれば、実質GDP成長率や鉱工業生産に代表される景気は前回の消費税率引き上げ時の1997年度、あるいは事前の見通しを大きく下回った。しかし、景気が急速に落ち込む中でも雇用情勢は改善傾向を続け、企業収益も堅調を維持したため、景気が総崩れとなることは回避された。また、税収は企業収益の堅調や株式市場の活況などから大幅に増加し、当初見込みからも大幅に上振れた。その意味では消費税率引き上げの重要な目的である財政再建に向けて一定の成果を上げたという評価はできる。

しかし、その一方で消費税率引き上げによって家計部門は想定以上の大きな痛手を受けたことも見逃せない事実である。2015年の春闘では前年を上回る賃上げが実現したため、消費税率引き上げに伴う物価上昇の影響が一巡する2015年度入り後には実質賃金が大幅に上昇することが期待されていたが、直近(2015年5月)の実質賃金は前年比0.0%と消費税率引き上げ後に急速に落ち込んだ2014年度入り後と同水準にとどまっている(図表25)。この結果、個人消費の水準も依然として消費税率引き上げ前を大きく下回ったままとなっている。

消費税率は2017年4月に8%から10%に引き上げられることが決まっている。次回の増税に際しては、家計部門への悪影響をいかにして軽微なものにとどめるかが重要な視点と考えられる。まずは、2014年度に始まった賃上げが裾野の広がりを伴いながらどれだけ加速するかが鍵となるだろう。2014年度は名目賃金の伸びが緩やかにとどまる中で前回を上回る幅の税率引き上げを実施したため、実質賃金は大きく減少してしまった。次回の増税までに税率引き上げによる物価上昇を吸収できる程度まで賃金上昇率を高めておくことが必要だろう。幸いにも、企業収益は消費増税にもかかわらず堅調を維持しているため賃上げの余力は十分にある状態が続いている。再増税までに残された2年弱の間に企業部門から家計部門への波及がさらに本格化することが期待される。

また、賃金上昇以外にも家計の負担を緩和するための何らかの措置が必要となるだろう。2014年度の増税時にも臨時福祉給付金、子育て世帯臨時特例給付金など一定の給付措置がとられたが、数千億円規模にとどまっており、約8兆円という家計の負担増に比べれば極めて小粒で、個人消費の悪化を食い止めることはできなかった。

また、消費税率引き上げ時には年金生活者への配慮も必要だろう。2014年度の年金額は前年度の低い物価上昇率が用いられたことに加え、特例水準の解消(▲1.0%)が実施されたことから▲0.7%の引き下げとなったが、2014年度は消費税率引き上げもあって消費者物価上昇率が3%近く上がったため、実質ベースでは4%近いマイナスとなった。勤労者世帯以上に年金生活者の実質所得が大きく目減りしてしまったことが、個人消費の落ち込みを一段と大きなものにした可能性が高い。年金改定額は前年の消費者物価上昇率などをもとに当年度の支給額を決める仕組みとなっているが、消費税率が引き上げられる年度に限って税率引き上げ分の物価上昇率を当年度の年金支給額に反映させるといった措置を検討する余地もあるのではないか。

次回の消費税率引き上げまでに残された時間はそれほど多くない。今回の増税によって明らかとなった問題点を整理したうえで、財政再建と景気回復を両立させるための方策についての議論を深めることが求められる。

1 日本銀行の見通し(展望レポート)は実質GDP、消費者物価しか示されていないため、ここでは政府、民間の見通しと実績値との乖離について記述している。
2 2014年1月時点では国際収支統計見直し後の結果が判明していなかった。
3 伸び率でみれば住宅投資、設備投資のほうが下振れ幅が大きいが、個人消費のGDPに占める割合は6割近いため、成長率の下振れへの影響は個人消費が圧倒的に大きかった。 4 内閣府では今回の住宅着工戸数の駆け込み需要は前回の3分の2程度だったと試算している
5 1998年1-3月期から10-12月期まで4四半期連続で減少した
6 消費者物価に占める非課税品目や経過措置で新税率の適用が5月以降となる品目の割合を考慮すると、消費税率引き上げにより2014年4月のコアCPI上昇率は1.7%押し上げられる計算となるが、実際の上昇率は3月から1.9%ポイント拡大した。
7 消費税率引き上げの影響は1997年度が1.4%、2014年度が2.0%とした。
8 財務省は2014年4月の消費税率引き上げによる増収分6.2兆円のうち、2014年度が4.5兆円、2015年度が1.7兆円(いずれも一般会計)としている。
9 消費税は住宅投資、政府支出の一部にもかけられるが、ウェイトは個人消費が圧倒的に高い。
10 GDP統計では訪日外国人による日本国内での消費はサービスの輸出に計上される。


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