記事

陰謀論「田布施システム」とはなにか -三宅洋平氏が信じる日本近現代史とユダヤの陰謀論

3/3

「田布施システム」の一員とされてしまった秦郁彦氏

ところで、この鬼塚氏が敵対視する歴史研究家に秦郁彦氏がいる。

昭和史を精巧な資料研究をもとに独自の視点で語ってきた秦郁彦氏は、この鬼塚本ではもう格好のターゲットである。つまり彼らは見るべきものを見ていない・・・と。まあ、心霊写真を「発見」するように、状況証拠をつなぎあわせて、都合の悪い事実はスルーしていくということをしていけば、確かに鬼塚氏には視えて、我々には視えないものもあろう。

だが、秦氏への攻撃はそれだけではない。

正当な歴史家には非常に申し訳ない話なんです。というのは、ある時私の所に電話がありました。

「もしもし鬼塚さんですか」
「はい」
「私はあのー歴史をやってるもんですが」
「何ですか?誰ですか?」
「秦(はた)といいます」
「秦って、先生あのー、秦郁彦(いくひこ)先生ですか?」
「そうです。あなたは、あなたの書いてる本の中で大室寅之佑を明治天皇と書いていますが証拠はあるんですか?」

と言われますから、私は数々の証拠を言いました。すると彼はこう言いました。

リンク先を見る
「大室寅之佑の戸籍を見たことがありますか?」
「いやありません」
「戸籍が無い人を、どうして明治天皇だったと言えるんですか?大室寅之佑は本当に存在したんですか?」

で、幾度も同じ質問をするので色んな面から説明したけど、彼は納得しませんでした。
で、それで今言ったように、田布施を中心とした付近から出てきた人も喋り、

「先生、宮本賢治も、野坂参三は少し場所が離れますけど、同じ山口出身ですよ」

と言ったら、彼はポッと言いました。

「鬼塚さん、私はそのことは詳しいよ」
「先生、どうして詳しいんですか?」
「私もその一族だ。田布施の川の近くで私は生まれ育った」

それで私はぴんと来ました。そうか。
歴史を隠そうとするべく現代史の大家になったのかと。
一時間くらい色々喋りました。結局、彼は最後まで

「大室寅之佑の戸籍が無いのに、どうして存在するのか?」

と言って最後は話が別れました。

DVD『鬼塚英昭が発見した日本の秘密』成甲書房より

どうやら、秦氏も「田布施システム」の一員とされてしまったらしい(笑)

本件について、お忙しいところ恐縮だとは思ったが、秦郁彦氏本人に聞いてみることにした。

「うーん、確かに電話したことはあったかな。ただ事実関係を説明できるような証拠は聞けなかったかなと記憶しているんだけどもね」

鬼塚氏の著作にこういうことが書かれているのだが、という当方からの質問に秦先生も実に困惑している。

大室寅之佑=明治天皇説について聞いてみると

リンク先を見る
「戦後に熊沢天皇というのがいて、これについて書いたことがあるけど、それと同じような話じゃないかな」

熊沢天皇とは、名古屋の雑貨屋の主人が自分が南朝の天皇子孫であると自称していたが、それがひょんなことからライフのアメリカ人記者に存在を知られ、そのために有名になったという話。もちろん出自の根拠はない。

「いずれにしても、大室寅之佑の戸籍がないというんだから、研究の対象にはならないねえ。名前が出てきているという、あの西郷隆盛などと写っているという写真(「フルベッキ群像写真」)も間違いだったわけですよね。あれは佐賀藩のフルベッキという学者の弟子たちということになっている。」

これが大室寅之佑の実在の証拠とされている写真なのだが、専門家から見るとどうにもこうにもこのような維新の志士が大挙して写っているのはありえないそうだ。

画像を見る

(最前列中央に写っているのが「大室寅之佑」とされている「フルベッキ群像写真」)

「当時フルベッキがいた佐賀藩は長州と対立していたし、その中であれだけの人達が一同に会するというのも考えにくいしなあ」

リンク先を見る
秦氏のいうとおり、もうこの撮影は明治元年10月8日のものとほぼ特定されていて、そうするとこのメンバーがこの場所に集まっていることは考えられない。なお、大室寅之佑が明治天皇に入れ替わったというなら、その頃は天皇になっていたはずで、ここに写れるはずもない。

最後に、田布施川の近くに生まれたというのは本当なのかとも聞いてみた。「田布施一族ということになっていますが本当なのでしょうか」、という確認である。答えはもちろん×。秦氏は確かに山口県の生まれだが、田布施とはかなり遠いところで生まれ育っている、とのこと。ちなみにwikipediaの秦郁彦の項目をみると、田布施町の生まれとなっているのだが、これはきっとこの鬼塚DVDをそのまま信じ込んでしまった人が書いたのだろう。

偽史は放置できない時がある

「江戸しぐさ」について触れたこともあるが、捏造された偽史というのは否定するのはそれなりに大変だ。ただし、これを否定しないと思わぬ広がり方をしてしまうことがある。もちろん歴史に「正史」など存在するのかという根本的な疑問はあるにしても。

ユダヤ陰謀論もそういう広がり方をしている。そして、それを放置していくどのようなことが待ち受けているか。血統論や民族陰謀論は、レイシズムにたやすく結びつく。エセ科学や偽史をバックグラウンドに20世紀に悲劇を巻き起こしたのがナチズムだ。いったん悪と認定されれば、それは認定した当人の思いとは別の破壊力をもつ。感染力といってもいい。

鬼塚氏も、その「田布施システム」を信じる三宅洋平氏も、このユダヤが世界を牛耳るという説や田布施システムに差別的な意図はないとしている。だが、そうしたエクスキューズは成立するものなのだろうか。

明日、参議院選挙投票日。

自分のまわりには、三宅洋平の支持者がことの他多い。この人なら新しい発想で何かを変えてくれる・・・というようなナカマ意識で支持している人が多いのだろう。

その主張に自分も各論で賛成できるところはあるし、そういう期待を受ける候補が必要というのもわかる。しかし、それよりなにより、こんな学術的に価値ゼロで低劣ともいえる血統陰謀論を唱える人というのはどうなんだろうか。残念ながら自分には否定的な感想しかない。

もちろん、その型破りなパワーや何かを変えてくれるという期待を集めていることはわかる。だからこそ残念なのである。

人間、変わることが出来る、ましてや思想や政治意見はもっとたやすく変わることが出来る、というのが自分の持論です。選挙結果がどうでるかはともかく、電波や陰謀論をこれ以上吸収してしまうことがないよう三宅洋平氏には希望します。

あわせて読みたい

「三宅洋平」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。