- 2016年07月07日 15:43
なぜ各政党は対中政策について思考停止に陥るのか――日中の「立憲主義」の現状をめぐって - 梶谷懐 / 中国経済
4/4おわりに
冒頭で述べたように、安倍政権は今回の参議院選挙では改憲を争点にしないという姿勢を明確にしています。しかし、自民党の選挙公約では「普遍的価値を共有する国々との連携を強化する」ことがうたわれています。この「普遍的価値を共有する国々」の中に当然ながら中国は含まれていません。
その自民党がむしろそのような「普遍的価値」に否定的な中国憲法にその発想が似通った憲法草案を掲げ続けていることは明らかに矛盾した行為であり、きちんと説明責任を果たす必要があるように思います。
一方、安倍政権を批判するリベラル勢力の方もこういった点を明確につく議論を展開できていないように思います。中国の人権問題について、日常的に批判の声が聞こえてくるのも――幸福実現党のマニフェストを引くまでもなく――むしろ保守勢力の方からであり、リベラルな政治勢力からこの問題について積極的な発言が行われる様子はあまりありません。
このように、保守もリベラルも、中国の台頭という現実について一種の「思考停止」に陥っていることが、すでに述べたように対中政策が各党の間で「似たり寄ったり」の状況になっていることの背景にはあるのではないでしょうか。
本稿でこれまで述べてきたようなことは、どちらかというと抽象的なことで、直接に選挙の争点になるようなことではないかもしれません。しかし、台頭する中国と関係をどう再構築していくのか、ということはいずれ日本の国内政治にも影響を与える大問題です。
立憲主義と民主的意思決定の間にある潜在的な緊張関係、あるいはその根底にある人権概念の嘘くささ、といった問題群は、程度の差はあれ、日本や中国のような非欧米社会において必ずついて回る問題だと言えるでしょう。
そのことを踏まえたうえで、これらの立憲主義に伴う難問をどう乗り越えるのか。これからの日中関係を再構築していくうえでも、ひとつのカギになっていくのではないかと私は考えています。
参考文献:
・浅羽通明(2016)「本当は怖ろしい立憲主義の話全五講」(『「反核・反戦リベラル」はなぜ敗北するか』ちくま新書、著者直送付録コラム)
・石塚迅(2012)「岐路に立つ憲政主張」『現代中国研究』第31号
・伊藤真(2014)『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』大月書店
・稲葉振一郎(2016)「プロセス的憲法理論から共和主義へ?」『αシノドス』Vol.186+187
・大屋雄裕(2016)「立憲主義という謎めいた思考」『αシノドス』Vol.186+187
・鈴木賢(2014)「中華人民共和国:7解説」(初宿正典=辻村みよ子編(2014)『新解説世界憲法集第3版』三省堂)
・鈴木賢(2016)「自民党草案の反立憲主義的性格について—中国憲法との比較の視点から」ACADEMIA JURIS BOOKLET 2015, No.35
・高見澤磨=鈴木賢(2009)『叢書・中国的問題群3中国にとって法とは何か―統治の道具から市民の権利へ』岩波書店
・張千帆(2015)「中国における憲政への経路とその限界」(石井知章編『現代中国のリベラリズム思潮』藤原書店)
・長谷部恭男(2006)『憲法とは何か』岩波新書
・舛添要一(2014)『憲法改正のオモテとウラ』講談社現代新書
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