- 2016年07月07日 15:43
なぜ各政党は対中政策について思考停止に陥るのか――日中の「立憲主義」の現状をめぐって - 梶谷懐 / 中国経済
1/46月22日公示、7月10日投開票の第24回参議院議員選挙。選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから最初の投票となります。シノドスでは「18歳からの選挙入門」と題して、今回初めて投票権を持つ高校生を対象に、経済、社会保障、教育、国際、労働など、さまざまな分野の専門家にポイントを解説していただく連載を始めます。本稿を参考に、改めて各党の公約・政策を検討いただければ幸いです。今回は、自民党憲法法案と中国憲法の類似性について、梶谷懐さんにご寄稿をいただきました。(シノドス編集部)
各党、似たり寄ったりの対中政策
7月10日の参院選に関して、SYNODOS編集部より、18歳以上の高校生向けに、日中関係をめぐる論点について、解説するような原稿を書いてほしい、という依頼をいただきました。しかし、正直なところ、参院選で日中関係が争点になることはほとんどなさそうです。各党の選挙公約に目を通してみても、中国との関係について書かれた記述自体がそれほど多くありませんし、しかもその内容は与党も野党も似たり寄ったりです。
たとえば、自民党の選挙公約では、「V.国の基本」という項目の中で、国際協調主義に基づく積極的平和外交のもと、地球儀を俯瞰して戦略的な外交を展開し、日米同盟を基軸に、豪州、インド、ASEAN、欧州など普遍的価値を共有する国々との連携を強化するとともに、わが国の領土等に関し必要な主張を行いつつ、戦略的利益を共有する韓国をはじめ、中国、ロシア等の近隣諸国との関係改善の流れを一層加速し、地域や国際社会の平和、安定及び発展に一層貢献することを選挙公約として述べています。
また公明党のマニュフェストでは「5.日中、日韓関係の改善」という項目を設け、2015年の日中首脳会談等を踏まえて、継続的な首脳会談をはじめハイレベル交流などを活性化させるとともに、議員交流、青少年交流などの人的交流や経済、環境など様々な分野の実務的協力を進め、戦略的互恵関係を発展させます
中国による海洋進出に対しては国際法に則った対応を求めていくとともに、日中間の偶発的な衝突回避のため、「海空連絡メカニズム」の早期運用開始など、不測の事態に対する未然防止の仕組みをつくります
と述べています。
要は、これからも対話を通じて中国との関係改善を図っていく一方、尖閣諸島をめぐる問題など安全保障にかかわる領域については米国などと協調しつつ中国を牽制する、というのが与党の基本姿勢であると言ってよいでしょう。
では、これに対して野党の方はどうでしょうか。民進党の選挙公約では、中国という国名を明記した記述がそもそも見当たりません。ただし、「国を守り、世界に貢献する重点政策」という項目では、
尖閣諸島などで武力攻撃に至らないグレーゾーン事態が発生した時に備え、警察・海保と自衛隊が連携して迅速に対応できるよう、領域警備法をつくります。米軍に対する自衛隊の後方支援については、日本の「周辺」という概念を維持しながら、公海上における対米支援任務を拡大するなど重要影響事態法を改正し、日米の共同対処能力を高めます。
と述べています。もちろん、安全保障関連の法整備に対する考え方は与党とは異なりますが、「関係改善を図りつつ、安全保障については米国と協調しつつ中国を牽制」するという対中政策の基本姿勢については与党とほとんど変わらない、ということがここから見てとれるでしょう。
他の政党についてもこれは似たり寄ったりです。ただし、選挙公約の中で明確に中国を脅威として名指しし、
中国の人権状況を調査して、国際社会に中国の横暴による自由の危機を訴えるとともに、中国の民主化を促します。香港の民主化勢力を支援すべく、国際世論の形成に尽力します。
とうたっている幸福実現党を除けば、ですが。
一方で、安倍政権が一時期改憲に積極的な姿勢を明確にしていたことから――選挙前になって安倍首相は改憲を争点としない姿勢に転じましたが――改憲議論があちこちで盛り上がっています。
昨年夏の安保法案が違憲であるとの批判がある中で成立したことや、政権党である自民党が2012年4月に公表した憲法草案がいくつかの点で立憲主義に反するのではないか、という批判があることから、改憲をめぐる議論が「立憲主義」をめぐるそれと並行して行われていることが昨今の状況を特徴づけている、と言っていいでしょう。
その自民党の憲法草案(以下、「自民党草案」)が、中国の憲法と発想が似ている、というと驚かれるかもしれません。現行の中華人民共和国憲法(以下、「中国憲法」)は1982年に制定されたものがベースになっていますが、そこには民主主義的集中制という、われわれにとってなじみのある三権分立とは異質の原理が採用されています(鈴木2016)。
たとえば、中国憲法の前文には、「四つの基本原則」(社会主義、人民民主主義独裁、共産党の指導、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想)を憲法の指導原理とし、その堅持が「中国の各民族人民」の法的義務であるとしています。つまり、人民の利益を代表する「前衛党」である共産党に権力を集中させ、他の機関によるチェック・アンド・バランスの対象としない、ということです。
この考え方が、西洋近代的な立憲主義の考え方とは相容れないことは言うまでもありません。その中国憲法と自民党草案が似ているというのは、どういうことでしょうか。
というわけで、以下では、日中関係に関する従来の議論とは少し見方を変えて、日本国内における憲法や「立憲主義」をめぐる議論を出発点に、これからの中国との関係をどう考えていけばよいのか、中長期的な視点から考えてみたいと思います。



