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実感できないけど、景気は本当に回復中? (塚崎公義 大学教授)

アベノミクスが始まって3年以上経ちましたが、庶民は景気回復を実感出来ていません。そんな中で株価が大幅に下落していて、ますます景況感は悪化しています。景気予測の専門家たちは、景気は回復中だと言っていますが、本当に景気は回復中なのでしょうか?

■力強さを欠く景気

景気が回復をはじめて3年も経つと、通常であれば経済は相当の活況を呈していて、消費も設備投資も増え、庶民の生活も改善し、多くの人が好景気を実感できるようになっているはずなのですが、今回はそうなっていません。

雇用は増えていますが、消費は増えていません。消費も輸出も増えないので工場の稼働率が高まらず、したがって設備投資もそれほど増えていません。一時期は深刻化していた建設労働者の不足も、最近では落ち着いているようです。なにより、経済活動を総合的に捉える指標であるGDPが増えていないのです。

一方で、失業率や有効求人倍率や雇用者数などを見ると、雇用情勢は非常に好調ですし、企業収益も円高による一時的な減少はありますが基本的には好調です。円安なのに内需主導で景気が回復している、という不思議なことが起きているわけです。

■水準はともかく方向は上向き

景気を語るとき、専門家は「景気が上を向いているか否か」という方向を問題にします。それは、景気というものは、一度良い方向に動き出すと、そのまま改善を続けて行く力が働くからです。もちろんリーマン・ショックのような外からのショックがあれば別ですが、今回はその話は触れないことにしましょう。

「物が売れると企業は増産のために人を雇います。すると雇われた人は給料をもらって物を買います。」「企業が儲かると設備投資をします。銀行も黒字企業には積極的に融資をします。」「地方公共団体は、景気回復で税収が増えるので歳出を増やします」等々のメカニズムが一斉に働くわけです。

今回は、現時点では消費は増えていませんが、雇用が増えて雇用者所得が増えていますから、時間が経てば消費も増えてくるでしょう。設備投資も、少しずつですが増え始めているようです。

筆者は、省力化投資に期待しています。バブル崩壊後の長期停滞期、日本企業は省力化投資を怠ってきました。失業者が大勢いたので、省力化投資をしなくても安価な労働力が容易に得られたからです。ということは、現在の日本経済には、「少しだけ省力化投資をすれば、大幅に労働力が削減できる余地」が随所にあるはずです。

そうした中、最近は労働力不足が深刻化しつつあります。一方で企業は潤沢な資金を持っていますし、銀行も融資に積極的なので、設備投資には資金面からの制約もありません。そうなれば、一気に省力化投資が本格化する可能性も期待されるところです。

■景気は水準より方向が重要

一般の人は「景気が良いか悪いか」という水準を問題にしますが、景気予測の専門家は「景気が上を向いているか否か」という方向を問題とします。それは、たとえ景気が悪くても、景気が上を向いていれば、そのまま景気が改善を続け、いつかは水準としても好景気になるからです。

そして、現状の景気は緩やかな回復を続けていて、今後も続けると思われています。これは、ある意味で素晴らしいことかも知れません。これ以上景気回復の速度が速まると、人手不足が深刻化してしまいかねないからです。緩やかに景気が回復し、少しずつ労働力不足が深刻化していき、省力化投資が行なわれて少しずつ労働力不足を緩和して行き、両者の速度が釣り合いながら、インフレでもデフレでもない息の長い景気回復が続いて行くかも知れないからです。

余談ですが、政府が景気回復宣言を出すのは、景気が最悪期を脱して改善を始めたタイミングですので、景気の水準は決して良いとは言えません。そこで、一般の人々から「景気は少しも良くないのに景気回復宣言を出すなんて、政府は間違っている」といった批判が出て来るのですが、これは見ているものが違う(政府は方向、一般人は水準)ことによる誤解なのです。

■サラリーマンの給料が上がらないと景気回復は実感しにくい

今次景気回復においては、回復のスピードが緩やかで、なかなか水準が高まらないため、一般の人々にとっては景気の回復が実感しづらい状況が続いています。加えて、庶民の所得が向上していないことも、景気回復を実感しづらい要因となっています。

今次回復の初期に恩恵を受けたのは、株を保有している富裕層でしたが、その後は仕事にありついた元失業者が恩恵を受け、最近では低収入に甘んじてきた非正規労働者が恩恵を受け始めています。非正規労働者の待遇は、労働力需給を素直に反映するからです。つまり、経済的に恵まれていない人々が恩恵を受けているわけで、大変望ましいことなのですが、多数派である庶民には恩恵が及んでいないのです。

かつて、会社が「従業員の共同体」であった頃は、会社が儲かれば株主への配当ではなく社員への賃上げが行なわれたものでしたが、最近では「会社は株主のもの」といった風潮が広まりつつあり、少なくとも利潤の分配に関しては儲かったら賃上げではなく配当を増やすという会社が増えつつあるのです。

今ひとつ、消費税率が5%から8%に上がったことも、庶民の生活を圧迫しています。これはアベノミクスとは関係ありませんし、景気が悪いから生活が苦しいというわけでもないのですが、やはり人々の景況感にはマイナスに作用しているようです。

景気が更に回復し、サラリーマンの給料も上がるようになってくれば、庶民も景気の回復が実感できるようになると期待されます。今暫く時間がかかるかもしれませんが、景気の方向が上を向いている以上、いつかはそうなるでしょう。気長に期待して待ちましょう。


【参考記事】
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■株価が下がるほど売り注文が増える恐怖 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48993614-20160706.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授

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