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「ジブリ大博覧会」は宮崎・高畑監督の作品ではない~2大監督と2大プロデューサー

7月7日から六本木ヒルズで第三弾となる「ジブリ大博覧会」が開催される。

オフィシャルに「1984年の「風の谷のナウシカ」をはじめとする作品群がどのように生み出され、いかにして世に出て行ったのかを、ポスターやチラシ、企画書など、広告展開を中心に膨大な資料で振り返ります。」とHP・ネット記事にあるので、筆者はスタジオジブリが世界展開に成功した経緯を垣間見れるのだと、とても期待してしている。

 しかし気になるのが、<ラピュタからの汗と涙の30年を展示>と、謳った宣伝コピーだ。

「ポスターにあるナウシカの展示が楽しみだけれどナウシカ制作は1984年の32年前だ」

「カリオストロの城はさらに前の制作作品では?」

「ハイジや赤毛のアンは?」

と、なるジブリファンはかなり多いのではないか?

 そう、スタジオジブリ初の制作映画は「ラピュタ」(86年)であり、実は高畑勲監督は「風の谷のナウシカ」でプロデューサーだった事はあまり知りていないだろう。

 筆者は、今回のジブリ大博覧会の一年前に「THE 世界名作劇場展」を見て、高畑・宮崎監督のジブリ以前の仕事を堪能してきた。これに基き、今現在の<世界の高畑・宮崎監督>に至るまで、(僅かだが)周囲で切磋琢磨した作品制作関係者達について書きたい思う。

 高畑・宮崎監督がアニメ業界に入って以来、東映動画→Aプロダクション→日本アニメーション→テレコム・アニメーション→スタジオジブリに至るまで、一貫してきた姿勢は「子供の為の作品つくり」である。

中でも、「アルプスの少女ハイジ」は高畑・宮崎の共同作品として、テレビアニメ史上における金字塔であり、ジブリに至るこだわりのスタート地点である。

 アニメーションで丁寧に日常を描いていくリアリズムにあふれた演出、生き生きとしたハイジの動き、背景の圧倒的なアルプスの大自然、どれをとっても、過去のテレビアニメの枠を超えた一級品。子供が夢中になる娯楽作品であり、大人も納得する総合芸術作品だ。

その道筋を作ったのは、日本アニメーションのあの中島順三プロデューサーである。


 中島プロデューサーは「世界名作劇場」など多くの作品の制作に関わり、手がけた作品は「ハイジ」以降も「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」「未来少年コナン」など高畑・宮崎のTVアニメーション時代の名作揃いだ。しかし、中島プロデューサーこのような発言もしている。

「高畑・宮崎監督に、妥協させずに納得のいく作品創りに集中させたい。しかし、アニメの制作には莫大な時間と大変な労力がかかる。」

 国内のTV番組の枠だけでは、経費を回収することはできず大赤字になってしまうのだ。

そこで思考錯誤した中島プロデューサーの赤字回避の資金回収戦略は成功した。

それは『キャラクター商品による著作権収入』と『欧州はじめとする海外への作品展開』だった。

 その資金で、欧州の視聴者が観ても違和感のないレベルにするために、高畑・宮崎監督達ハイジ制作チームのスイス取材を実現させたのだ。このスイス取材は過去に例が無く、それまでのアニメの常識を覆す拘りが、見事に作品の質に反映されたのだ。

澄んだ空気と青い空、アルプスを横切る雲の影、藁草のベッド、炎でとろけるチーズ・・何もかもがとてもリアルであった。日本の子供達はアルプスを身近に感じたし、欧州の子供達は日本人が作ったと気づかないまま「ハイジ」を自然に受け入れたのだ。

こだわりは、フィルム規格にも及び、通常16ミリフィルムで撮影されていたTVアニメにもかかわらず「アルプスの少女ハイジ」はすべて映画と同等の35ミリフィルムで撮影され、さらに音声もすべてステレオで録音された(当時ステレオ放送は無かった)。

「子供たちに最高の作品を届けたい」

というこだわりからであったが、そのためにDVD化ハイビジョン化にも耐える映像と音声を持ちえたのだ。

当時、視聴率に対する過大な期待やプレッシャーはなく、とにかくいい作品を作ってくれと一社提供のスポンサーであったカルピスも、日本アニメーションに任せてくれたそうだ。

高畑勲監督の下で場面設定を担当していた宮崎駿(当時アニメーター)は、全盛期を迎えようとしていた。そんな宮崎に中島プロデューサーはTVシリーズ「未来少年コナン」の監督を任せてきたのだ。

監督を断固固辞した宮崎が監督を引き受けるにあたり、引き合いに出した条件は無理難題であった。

なんと条件に「ベテランの大塚康生を作画監督にさせること」を譲らなかったのだ。

 大塚康生氏は、旧ルパン三世の作画で有名なシンエイ動画の役員だ。「他社役員を作画監督へ」など到底無理な話しなのだが、中島プロデューサーはこれもまた見事交渉を成功させ、大塚康生役員を出向扱いで「未来少年コナン」の作画監督として参加させたのだ。

一体どのように中島プロデューサーが大塚康生役員と交渉したのか?日本アニメーションとシンエイ動画との間の取引は?

その件に関して、我々は全くもって知る手立てはないのだが、まさに作家のこだわりに応える名プロデューサーといえよう。

そうして宮崎はテレビシリーズ監督としてコナン終了後、作画監督大塚康生と共に「ルパン三世カリオストロの城」制作のため、日本アニメーションを離れテレコム・アニメーションに移籍するのである。初の劇場監督作品「カリオストロの城」は興行的には今一つだったものの、業界的には非常に高い評価を受け、多くの映画関制作関係者へ影響を与えた。

 宮崎監督の才能に注目した徳間書店のアニメージュ誌は漫画「風の谷のナウシカ」依頼、連載をスタートさせ、劇場アニメーションとして「風の谷のナウシカ」が制作が提案されることとなった。   

当時の制作スタジオ「トップクラフト」は寄合所帯。宮崎監督にしてみれば、非常に不安が残る体制であり「高畑勲がプロデューサーならナウシカの監督を引き受ける」と、またもや難しい条件を出してきたのである。 

 この際に、プロデューサー就任を固辞する高畑への交渉役を担当したのは、あの徳間書店編集者でナウシカ制作委員であった鈴木敏夫である。

「プロデューサーとは何か?自分がいかに向いてないか」

を、高畑勲監督は大学ノート一冊にびっしりと書き込み説明してきたのだが、

「あなたは宮崎さんの友人でしょ。その友人が困っているんですよ。そんなときに、あなたは力を貸そうとしないんですか!」

と、怒鳴りつけ了承させたのは徳間書店編集者出身の鈴木らしい逸話である。

このような経緯で高畑監督がプロデューサーとして腕をふるった劇場版「風の谷のナウシカ」(84年)はヒットし、アニメ映画監督としての宮崎駿が広く世に知られる足がかりとなった。その後「天空の城ラピュタ」(86年)を制作する際に、作品制作の受け皿として高畑の発案で発足させたのが<スタジオジブリ>である。

ここからスタジオジブリは始まった。

  「となりのトトロ」は宮崎監督の子供のためのアニメーションの集大成となり、制作後に、「自分が本当にやりたかったアニメーション作品を作り終えてしまった」と語っている。子どもたちに何を語るべきなのか確信を持てないままに、制作されたのが「魔女の宅急便」である。

「アニメーションは子供のためのもので、大人のものを作ってはいけない。」

一貫してアニメを児童のために作ることを自分へ課してきた宮崎監督に、大人のためのアニメ「紅の豚」を作らせたのが、高畑を怒鳴りつけた鈴木敏夫である。

この時期から、彼は徳間の編集者からジブリ移籍後<プロデューサー鈴木敏夫>としての手腕を振るい始めたのだ、と筆者は確信している。

壁に突き当たった、ジブリの「子供のためのアニメーション」は鈴木プロデューサーの編集者的な発想によって「世界に通用する映画」へと強力に再編集されていった。

「もののけ姫」は、その最大の成果であり、人間の業も可能性も背負って「生きろ。」と語りかける。このメッセージは、鈴木プロデューサーの作品でもある。続いて「もののけ姫」を突破口に「千と千尋の神隠し」でスタジオジブリは円熟期を迎えた。その後も予定調和で終わること無く、二人の監督は奇跡のような作品をそれぞれ生み出すこととなる。「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」の二作品だ。

 鈴木プロデューサーなくしては宮崎監督引退作「風立ちぬ」も高畑監督「かぐや姫」も存在し得なかったと筆者は確信する。

 そして今、新監督を迎え、スタジオジブリの過去にない作風の「思い出のマーニー」「レッドタートル」制作・発表という転換期に入っている。「レッドタートル」は早速2016カンヌ国際映画祭「ある視点部門」を受賞している。

今回の六本木ヒルズでの「ジブリ大博覧会」はこれまでのジブリ作品がどのように生み出され、いかにして世に出て行ったのかを、ポスターやチラシ、企画書など、広告展開を中心に膨大な資料で振り返る企画である。鈴木プロデューサーの編集者としての外連味と話題喚起能力を目の当たりにできるのだから、この博覧会はやはり、

「ジブリ大博覧会」は宮崎・高畑監督の作品では無い

「ジブリ大博覧会」は鈴木敏夫プロデューサーの作品である。

既に宮崎・高畑監督の作品は観た人の心に届いている。筆者は鈴木プロデューサーの集大成と今後の意志表明を「ジブリ大博覧会」で識ることが今からとても楽しみだ。

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