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限定的移民制度の導入が日本を変える バーバラ・ジャッジ英国経営者協会代表幹事 - 中西 享

英国の経営者協会(Institute of Directors)で初めて女性代表幹事に就任したバーバラ・ジャッジ女史に日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の現状と女性の社会進出について聞いた。ジャッジ氏は「日本では社外取締役制度やスチュワードシップ・コード(SSC)が突然導入され、新しい流れと古いものが衝突して企業風土に摩擦が起きている状態で、学習するまでにしばらく時間が掛かる」と指摘、新しい形のコーポレート・ガバナンスが定着するには時間が掛かるとの認識を示した。女性の社会進出では「子育て保育が最大の問題で、これを解決するには職種と滞在期限を限定した移民制度を導入すべきだ」と強調した。

独立性確保のためにはルール

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バーバラ・ジャッジ女史 ニューヨーク大学法科大学院で法学博士号を取得、1980年に米国証券取引委員会(SEC)委員に最年少で任命され、米国投資家の海外投資を促進する制度改革を推進した。83年に英国投資銀行Samuel Motaguで女性初の業務執行役に就任するなど、米国と英国の銀行業界で上級管理職を歴任。世界最大の複合メディア企業ニューズコーポレーションの初の女性取締役も務めた。2004年から10年まで英原子力公社会長を務め、英国原子力業界の改革を主導した。15年5月に英国経済同友会の代表幹事に就任。同年6月末からLixilグループの社外取締役に就任した。

ーー 2015年6月末からLixilグループの社外取締役に就任された理由は何か。

ジャッジ氏 日本のコーポレート・ガバナンスがどうなっているか知りたかったので、受けることにした。日本企業の社外取締役に女性として入るのは非常にエクサイティングなことだと思った。

ーー 東京証券取引所に上場している企業の90%以上が社外取締役を導入しているが、社外取締役の独立性をどのようにすれば確保できるのか。

ジャッジ氏 取締役には2種類ある。英米では企業の業務の執行を行う非独立取締役と社外の独立取締役がある。少なくとも日本の企業は2人以上独立した社外取締役を置くべきだ。いま、企業に要請されているのは独立した社外取締役を置くことなのだから、日本のコーポレート・ガバナンス・コードを書き換えて、独立性を確保した社外取締役が必要だというルールにすればよい。ルールで独立性を定めれば、社外取締役が独立性を確保できる。私が知っているところでは、Lixilグループもソニーも独立した社外取締役がいる。

ーー 欧米の社外取締役の割合はどうなっているか。

ジャッジ氏 米国の大手企業の場合は、取締役の大半が社外取締役で、大多数が独立した取締役だ。英国の場合は米国とはルールが違っていて、取締役の過半数は社外取締役で、その過半数は独立した社外取締役でなければならず、指名委員会には十分な数の独立した社外取締役を入れなければならないことになっている。

ーー 社外外取締役の質の向上が指摘されているが、そのためにどうすればよいと思うか。

ジャッジ氏 英国経営者協会の会長としているが、協会ではより良い社外取締役を生み出すため教育をしている。企業から送られてくる場合もあるし、個人で自ら質の高い社外取締役になろうとしてこの教育を受ける人もいる。特に取締役の経験のない新人に取ってはこの教育は大事だと思う。

社外取締役だけで問題解決にはならない

ーー 日本の社外取締役を見ると、取引企業の元役員、主要銀行のOB、監督官庁からの天下りなど利害関係者が多い。月に1、2回しかない取締役会に社外取締役が出席しても不祥事の発生を防ぐことはできないのではないか。

ジャッジ氏  社外取締役を入れたからと言ってすべての問題が解決できると思うのは間違いだ。不祥事が起きたフォルクスワーゲンも社外取締役がいた。利益を上げようという圧力が掛かる会社、監督が不適切な会社では、案件がそもそも取締役会に上がってこない。社外取締役は問題を全部は解決できなくても、その会社の企業文化を感じ取り理解することができる。その上で良き企業文化を探求してくれる優秀な執行役を選ぶことができる。確かに月に1、2回取締役会に出たくらいでは会社の利益数字がどうなっているのかは分からないだろう。しかし、企業文化(カルチャー)を作ることはできる。そのカルチャーを企業の隅々まで浸透させることができれば、中間管理職や社員が正しいことをすべきだと感じるようになるのではないか。

衝突する企業文化

ーー 日本では今年5月に、社外取締役がメンバーの指名委員会が代表権のある会長の辞任を求めるという異例の事態が起きた。社外取締役は会社のトップ人事にどの程度関与すべきか。

ジャッジ氏 英米では社外取締役が会長を任命し、会長と執行役、社外取締役が一緒になって最高経営責任者(CEO)を決めているが、日本で今起きているのは、コーポレート・ガバンンス・コードという新しいやり方が登場して、日本的な古いやり方とぶつかって摩擦が起きている状況だ。これが突然起きたので、摩擦が目立っている。いま日本の企業は新しいものを導入して学習しているという段階ではないか。指名委員会に会長を任命できる権利が与えられたからと言って、皆が見ている前で会長の首をすげ変えることなどはしないもので、その前に会長と社外取締役は十分な話し合いが行われている。

 英国でも社外取締役を導入した時は抵抗する意見があった。新しい制度が定着するには時間が掛かる。1年で奇跡的なことが起きることはあり得ない。

ーー 株主に対してスチュアードシップ・コード(SSC)が求められ、会社側と対話するように求められているが、ガバナンス向上の面からどのような効果が期待できるか。

ジャッジ氏 会社は誰のものか。株主が会社を所有しているから、株主は会社と話すことができるはずだ。株主は以前、会社のやり方が気に入らなければその株を売り、背を向けるだけだったが、いまの時代は会社と話し合ってみようという傾向になってきている。株主が会社と話し合えば、会社をサポートするというようになるかもしれない。英米でも最初、株主は株主総会でもほとんど発言しなかったが、いまでは叫び合うように発言している。こうした発言する株主(アクティビスト)は企業の長期的な利益にはほとんど関心がなかったりすることもある。一方で長期の株式保有者も発言するよう奨励されている。SSCが導入されたということで、日本の株主も徐々に物言う株主になってくると思う。

働く女性に不利な社会構造

ーー 日本は欧米と比較して女性の社会進出が大幅に遅れている。その原因は何か。

ジャッジ氏 最大の問題は子育て、保育だ。日本は移民を受け入れていない。雇うことにより、子守りや子育てをしてくれる階級というものがない。介護や子育ては女性がするものだとみなされている。それをやりながら仕事をしなさいというのは無理だ。保育施設が十分でない。さらに税制が働く女性を利する形になっていない。長時間労働で男性中心の社会になっている。すべてのカードを積み重ねると女性が働くことに反する形になっている。これでは女性がキャリアを伸ばそうと思うと、子供を産むのはあきらめざるを得ない。子供を見てくれる親か移民がいない限り難しい。

ーー 英国の場合、子育ては誰がしてくれるか。

ジャッジ氏 移民ではないがナニー(乳母)と呼ばれる子育て専門の人がいる。このほかに子育てや家事を手伝うフィリピンや東欧からきた移民の人たちが多くいる。私の子どもが小さかった頃はフィリピン人を雇い、私自身が小さかった頃はカリビアンから移民の人がいた。ナニーになるには専門の学校があるくらいで、お金も掛かる。しかし、ナニーは子育てのことしかしない。家事手伝いをしてくれる移民の人は掃除から何でも手伝ってくれる。ナニーの費用は移民の倍くらいだ。ナニーの給料は秘書と同じくらい高く、普通の人は雇えない。

ーー 安心して子育てができるようにするためには何が必要か。

ジャッジ氏 英国と日本に提案したいことは、子育てにかかる費用を所得から控除できるようにしてもらいたい。子育て費用は働くための経費と見ることができる。そうすれば女性は仕事をしやすくなる。

ーー 夫の役割も重要になるのでは。

ジャッジ氏 その通りだ。夫のサポートがないと働く女性が仕事を続けるのは不可能に近い。手伝うのが嫌でも、ほかの人がサポートするのを気にしないでもらいたい。

ーー 日本は移民に対して強いアレルギーがあり、国民が認めない。どうすればよいか。

ジャッジ氏 5年くらいに期限を限定した短期の移民にすればよい。そうすれば居残る心配もない。専門的な技術・職業を持った移民の短期間の移住、「限定的移民制度」が良いのではないか。これなら日本国民も理解してくれるのではないか。これを導入すれば、日本だけでなく世界は間違いなく変わる。不可能ではない。私はこの新しいアイデアを積極的に主張しようと思っている。

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