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二日酔いに苦しむイギリス

EU離脱という答えを出したイギリスの国民投票から一週間が経った。この間、EUの諸機関や原加盟国の6ヶ国(独仏伊ベネルクス)の会合や緊急欧州理事会(サミット)が開かれ、イギリスとの事前交渉を拒否する姿勢を明確にし、リスボン条約第50条に基づくイギリスの離脱通告を早期に行うよう促すという議論の流れを作った。

他方、イギリスでは保守党が分裂し、残留を訴えてきたキャメロン首相は党大会までに辞任することを表明し、その後継を巡る保守党党首選が行われることになったが、大本命で離脱派のリーダーであったボリス・ジョンソンは党首選に出馬しないことを表明した。党内に混乱を巻き起こした張本人が、たぶん本人も想像していなかった国民投票での勝利を得てしまったことで困惑し、そこから逃げ出したという構図で、ツイッター上でも #Borisexit というハッシュタグが作られ、大喜利状態になっている。

こうした保守党分裂に乗じて党勢を挽回したい労働党も混乱に陥っている。労働党は党としては残留の立場をとったが、党首のコービンは元々労働運動の闘士であり、反EUの姿勢を明確にしてきた人物。国民投票でも労働党の存在感は小さく、残留に貢献するような活動は出来ていなかった。暴漢に射殺されたジョー・コックス議員は熱心に残留を主張していたことが、彼女が「Britain First(英国第一)」を叫ぶ暴徒の標的になったにも関わらず。こうしたコービン党首の煮え切らない態度や党員とのコミュニケーションの失敗が、彼への信頼感の喪失につながり、労働党議員団による不信任動議は8割がたの賛成を得て、不信任決議が採択されてしまった。労働党の国会議員の大多数から不信任を突き付けられたにも関わらず、コービン党首は自らを「党員によって選出された党首」として位置付け、議員による不信任を無視するという姿勢を決め込んだため、労働党執行部でもある「影の内閣」の半数が辞任するという結果になり、労働党も混迷を極めている状況である。

このような政治的大混乱を遠くで眺めていると、なんとも痴話げんかの絶えない家庭でのドタバタ劇に見える。単純化し過ぎとのそしりを覚悟の上でたとえ話風にすると、以下のようになる。

イギリスは普段から家庭に不満を持ち、いろいろな点でEUに文句を言ってきた。EUは細かいことにうるさい。自分の行動にはケチばかりつける。自分の稼いだお金を生活費だといって持って行ってしまう。そのくせうるさい子供(移民)は自分に押し付けようとする…。

ある日、日々の不満の憂さを晴らそうと一杯ひっかけ、勢いあまって大暴れし、気がついたら離婚届の書類に押すつもりのないハンコを押してしまった。

翌日眼が覚めると、自分はなんてバカなことをしたのだ、これまで自分が(経済的に)やってこれたのはEUと一緒にいたからじゃないか。EUから切り離されたら自分は生きていけなくなるんじゃないか。既に周りは大騒ぎして自分の周りから離れていこうとしている(ポンド、株式市場の下落)。

どうしよう、どうしようとあたふたする中、EUは判を押してしまった離婚届を取り上げ、この届を市役所に持って行くかどうかはあなた次第、と最後通牒を突き付けている。イギリスは何とかEUとの関係を維持したまま、穏便に離婚しようとしているが、EUは「そんな交渉には応じない」と一蹴。イギリスの混迷はさらに深まり、自らの行動に自問自答を繰り返している。

これからイギリスは酔っ払った勢いで判をついてしまったことを後悔しながら、それでも何とか離婚した後も上手くやって行けるような離婚調停を進めなければならない。しかし、二日酔いのせいで頭が回らず、酔っ払った時に「離婚するぞ!」と大胆に言い切った時の勢い(ボリス・ジョンソン)はどこかへ行ってしまった。また、酔っ払っている最中は「離婚したらまずいんじゃないか」とささやいていた理性(労働党)も、悔恨の念にさいなまされ、これからのことを考える際には全く役に立っていない。

こんな二日酔いの状況の中で、イギリスはこれからの身の振り方を考えなければいけない。離婚届は既にEUが持っている。イギリスが離婚することに同意(リスボン条約第50条に基づく通告)すれば、そこから離婚調停を行い、2年間のうちにうまく調停がまとまらなければ、慰謝料やら養育費やら財産分与が全くないまま放り出されることになる。そうならないように事前交渉をしようと思ってもEUには取りつくしまがない。

イギリスは離婚届をEUに握られたまま、正式に離婚手続きに入ることを避け、ずっと逃げながら居心地の悪い家に住み続けるか、それとも全てを失う覚悟で離婚手続きに入り、捨て身の覚悟で交渉するしかない状況にある。

二日酔いに苦しむイギリス。これから苦難の道が待っているが、日々のストレスに晒されている他の国々にとっても、他人ごとではない。他山の石とすべく、この事態を見守っていくしかない。

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