- 2016年06月30日 16:17
部下の失敗許す金正恩氏「北朝鮮崩壊論」には現実味なし - 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)
1/2北朝鮮が6月22日に新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」2発を発射した。1発は高度1000キロ超の大気圏外に達し、発射地点から約400キロ離れた日本海上に落下した。
長年の経済制裁や国際的孤立にもかかわらず、北朝鮮の核・ミサイル開発は着実に進展している。当初は安定性を疑問視された金正恩体制も、専門家の間では「権力の掌握が進んで安定してきている」という評価が一般的だ。6月29日の最高人民会議(国会)では、金正恩氏が国家を代表する新設ポストに就任して体制固めをさらに進めそうだ。
金正恩朝鮮労働党委員長は、なかなかのやり手かもしれない。中距離弾道ミサイルの発射に成功したとする北朝鮮国営メディアの報道を見ていると、そんな気がしてくる。少なくとも金正恩氏は、仕事に失敗した部下をすぐに切り捨てるようなことはしないようだ。ミサイル関連の北朝鮮メディアの報道からは、そう読み取れる。
もちろん異論はあるだろう。血が直接つながっていないとは言え、叔父を処刑するなど、権力のためには流血をもいとわない冷酷な人物だ。国民生活より特権階級を守るための体制生き残りを至上命題とする独裁者でもある。
なにより「世襲の三代目」だ。夫人を連れて遊園地を視察したり、取り巻きに囲まれてミサイル発射の「成功」を大喜びしたりする姿や、節制という言葉とは縁が遠そうな容貌を見ていると、まさに「身上をつぶす若旦那」という印象を受ける。せっかちで、子供じみた自己顕示欲の強さを感じることもある。
だが、こうしたネガティブな面があるから「無能だ」ということにはならない。父親である金正日総書記も、同じようなイメージを持たれることが少なくなかったが、実際には「冷酷だが有能な独裁者」だった。息子がその資質を継いでいても何ら不思議はないのである。
「失敗に萎縮するな」と科学者を鼓舞
中距離弾道ミサイル(北朝鮮では「火星10」と呼ぶらしい。「ムスダン」は米国のコードネームである)の発射試験に成功したという北朝鮮メディアの報道には、次のような部分があった。
「国防科学者や技術者たちは、数回に渡って失敗を重ねながら完成させた弾道ミサイル開発の日々を湧き上がる激情の中で振り返りながら、失敗に萎縮して臆することのないようにと、さらに大きな愛情と信頼を与えてくださり、尽きることを知らない力と勇気を付けさせてくださり、成功へと導いてくださった元帥様(金正恩氏)に対する尽きない感謝に感激の涙を流し、さらに流した」(朝鮮中央通信、6月23日)
少し分かりにくいかもしれないが、何回も失敗したことを認めている。昔の北朝鮮なら、失敗には触れないか、「成功」と強弁していたはずだ。それなのに、金正恩氏は「失敗に萎縮するな」と科学者を鼓舞したのだという。
北朝鮮は4月からムスダンの発射実験を4回行って、すべて失敗していた。この日も2発発射したうちの1発は空中爆発した。韓国では度重なる失敗で金洛兼戦略軍司令官が責任を問われたという見方も出ていたが、金司令官はこの日の発射にも立ち会っていた。トップが直接視察する重大プロジェクトで2カ月の間に4回連続で失敗しても、組織の責任者が更迭されたりはしなかったということになる。
金正恩体制発足直後にも失敗を認めていた
実は、ミサイル発射の失敗を認めたのには前例がある。
金正恩体制発足から4カ月弱という2012年4月のことだ。北朝鮮は、「初の実用衛星打ち上げ」を予告。4月15日の金日成生誕100年記念式典に合わせて入国を許可した外国メディアに最終準備中の発射場を公開した。
衛星打ち上げ用ロケットと弾道ミサイルに使われる技術は基本的に同じで、国連安保理決議は「弾道ミサイル技術を利用した一切の発射」を北朝鮮に禁じている。国際社会から批判を受ける中で北朝鮮は発射に踏み切ったのだが、結果は失敗だった。
北朝鮮メディアは、4時間余り後に「地球観測衛星の軌道進入は成功しなかった。科学者、技術者、専門家らが現在、失敗の原因を究明している」と報じた。
国際社会に事前予告していたとはいえ、従来ならば考えにくかった対応だ。その時点では北朝鮮が失敗を認めた意図はよく分からなかったのだが、4年後に繰り返された発射失敗への対応を見ると、これが金正恩スタイルだったのかもしれない。
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