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国内LCCの戦略に潜む思惑とは - 森山祐樹(中小企業診断士)

国内のLCCが機内食(有料)に力を入れ始めている。ピーチは、近大、千房、たこ昌とコラボし、うなぎ味のナマズごはん、大阪オムそばやたこ焼を提供、ジェットスタージャパンはなごみの米屋とコラボしたどら焼きや、ジュノエスクベーグルとコラボしたベーグルサンドを予定する。この動きは、機内販売による収入増の狙いとともに、LCC内の差別化を図り、大手に見劣りするサービスの差を埋めることが目的であると思われる。一見すると当然の行動と思われるこの変化について、LCCの戦略と照らし合わせてLCCのサービスを考えてみたい。

■LCCの競争戦略

LCCは圧倒的な低価格のビジネスモデルとして産声をあげた。彼らの武器は、通常大手とは大きく異なる低価格の運賃体系であり、ターゲットは大手が相手にする既存顧客ではない低価格層である。また、短距離路線を中心として、可能な限り航空機材の稼働率を上げることで、薄利多売のビジネスモデルを確立することが世界のLCCの典型例である。

しかしながら、昨今の国内LCCのサービス拡充は、上記ビジネスモデルとは矛盾する。そもそも機内食を用意すれば、その搭載や取り卸しに少なからず時間がかかり、機材の稼働効率は低下する。また、限られた経営資源をサービスの拡充に配分したことは、機材の運航効率を最大限に高めることへの資源集中からの転換とも取れる。このような新サービスを提供するためには、企画と呼ばれる間接部門の人件費やオフィス、その他費用を捻出する必要がある。また、有料・無料を問わず、機内に食事を搭載するギャレーやカートの設置も検討しなければならず、重量増による燃油費の増加は避けられない。

これらのコストは当然ながら運賃や上記機内食販売の価格に転嫁される。利用者としては楽しみな機内食サービスの始まりが、本当の目的である目的地に行くまでの「移動」という商品に対し、本来不必要なコストを伴う結果になりかねないのである。 これは、LCCが当初売りにしていた圧倒的な低価格の武器と相反する方向に向かっていると言える。

加えて、サービス拡充を行うということは、ターゲットの変化をも示唆している。欧米で成功しているLCCは、大手との差を明確にし、大手を頻繁に利用する層をターゲットとせず、低価格による需要創出を図ることでその規模と支持を拡大してきた。(例えば、アメリカのサウスウェスト航空は、空飛ぶバスを目指し、低価格運賃によりターゲットも低価格層としていた)また、ビジネスモデルも大手と異なり、機材運航の効率化を極限まで高めることで差別化の源泉である圧倒的な低価格を確立したのである。そして、このビジネスモデルは既存大手航空会社では考えられない発想のもとで確立されたものであったため、これらのLCCに対抗した多くの大手航空会社の手がける直営LCCは失敗と敗北を繰り返した。

国内LCCも参入当初、価格帯を前面に打ち出した広告宣伝を行いスタートしたが、最近のPRの中心は、上記サービスから見て取れるように低価格一辺倒ではない。これは消費者ニーズが変化したからという見方もあるが、目の前には高額な運賃を払ってでも乗る利用者がいるのであれば、高付加価値のビジネスモデルに飛びついてしまうのが人間の心理と欲望の当然の帰結であろう。本来は、多くの人がその道(今回の例で言えば、高単価旅客をターゲットとするビジネスモデル)を選ぶからこそ、そこから外れた異端のビジネスモデルに大きなチャンスがあるのである。

■提供価値の捉え方

航空業界の常識として、顧客の要望や声に応えることが正しいとの考えの下では、顧客からサービス向上を望む以外の声はないため、座席は広くなり、快適になり、多機能になり、乗務員からは十分なもてなしを受けられるであろう。しかし、LCCの本当の提供価値は何だったのであろうか。または、どのような武器(戦略)で戦おうとしていたのであろうか。この航空ビジネスを単なる「移動」と捉え、A地点からB地点まで安全に利用者を送り届ける、そのためのコストのみを転嫁した運賃価格帯で勝負するからこそ、多様なサービスコストを転嫁した大手の運賃との差別化が図れ、市場にその存在価値を見出すことができるのではないだろうか。

目の前に大手と同価格の現金を握りしめた顧客が乗せてくれと懇願したとしても、低価格の商品を求める顧客のための努力に邁進することが、大手にも真似できないビジネスモデルを確立することになる。同じ航空業界であっても、東京から札幌までを「移動」と捉える人と、「快適な時間」、「優越感」、「非日常」等を求める人に売る商品は異なる。自分たちのビジネスモデルの捉え方、提供価値が大手と同一になればなるほど、大手との差は消え、ミニ大手ができあがり、利用者の価格選択肢を減少させる。

■国内LCCの戦略に隠された思惑

多くのLCCが大手の傘下に入り、大手の資本と人材を活用している国内LCCの現状では、大手を目指し模倣したビジネスモデルに向かうことは致し方のない流れかもしれない。しかし、それでは市場における価格競争が進まず、新たな需要拡大を抑制し、高額運賃市場の残置と大手の寡占市場が継続される。このようなLCC各社の動きの裏には、これらを傘下におさめ、国内市場の低価格化を最も望まない大手が、密かに目論む寡占市場保護の戦略が隠されているのではと危惧せざるをえない。

国内LCCの内、唯一大手が手なずけることに失敗したエアアジアが、国内大手に縛られないビジネスを展開するまであとわずか。日本市場に本当の需要拡大をもたらし、消費者への利益移転が実現するかどうかは、東南アジアを席巻した同社が、日本の空の新しい風に乗れるか否かにかかっているのかもしれない。

【参考記事】
■トレードオフ 優秀な経営者がやらないことを決める理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48728741-20160531.html
■ポルシェの拡大戦略に潜む罠とは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47952351-20160229.html
■日本企業のM&A「対等の精神」に潜む影 「ファミマとユニーの経営統合」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47656741-20160129.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html

森山祐樹

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