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「論理破綻国家」 〜行く末は「国家破綻」か、「財政破綻」か…

「素人財務相」は24日、前週末の海外の外国為替市場で円相場が一時1ドル=75円78銭と最高値を更新したことに関して「まさに投機的な動きで、実体経済を反映して動いている訳ではないので残念だ」との認識を示し、「行き過ぎれば断固たる措置をとらなければならない」と毎度お馴染みの「御利益のない念仏」を唱えた。

この発言からは、「素人財務相」が、足下の「円高」は「実体経済を反映して動いていない」と考えていることがうかがえる。ということは、国内景気は「円高」を招くほど強くない、と認識しているということ。これは、今後の下振れリスクを懸念しつつも「景気は回復基調にある」とする政府の公式見解と若干矛盾するもの。

政府がサプライチェーンの復旧に伴う「供給面」の回復を理由に「景気は回復基調にある」と主張するのは、「増税」を正当化するため。「素人財務相」が思い描く理想的経済状況は「増税に耐えられ得る程度に強く、円高にならない程度に弱い」というもののようだ。しかし、これは現実問題として「虫のいい話し」。

「素人財務相」は「実体経済を反映していない」と主張するが、2国間の通貨の関係では、「インフレ格差」分、インフレ通貨が下落するのは「経済理論」上は当然のこと。「インフレ格差」に目を向ければ、世界最大の「デフレ経済通貨」である「円」が高くなって行くのは、一つも不思議なことではない。為替市場で、「経済理論」通り「円高」が進んでいるということは、「素人財務相」が思い描くほど日本の経済状況が強くない、増税には耐えられない経済状況にあるということの証明でもある。

経団連の米倉会長は24日の記者会見で、歴史的な円高水準が続いていることについて、欧州の金融市場の不安や米経済の減速懸念が背景にあると指摘したうえで、「今回の行き過ぎた円高は、日本政府としてもなかなか手は打ちにくいと思う。『投機的な動きが原因』と財務相、日銀で言っていることは警告になっている」との認識を示し、「素人財務相」の発言を支持する姿勢を見せた。

政財界が一体となって「円高」を常に「投機的動き」と決め付けてしまうことで、「インフレ格差分通貨は減価する(=デフレ格差分円は上昇する)」という当然の理論が葬り去られ、「デフレ対策」という政府が最優先でやらなければならない対策がおざなり、さらなる「円高」を生むと言う悪循環を引き起こしてしまっている。

財界が「素人財務相」の発言をヨイショするのは、財界が「虫のいい話」を要望しているからである。

経済同友会は24日、2012年度税制改正に向けた緊急声明を発表した。東日本大震災の復興財源問題で、予定していた法人減税を3年間圧縮する政府案について、「極めて遺憾」と表明。来年度からの実効税率5%引き下げを求め、復興財源には「消費税がふさわしい」と改めて訴えた。

記者会見した長谷川代表幹事は、政府が消費税率を10年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げるとの方針を示していることに関連し「(財政健全化に向け)消費税は 17%程度にしないと足りないのではないか。問題が先送りされている」と改めて強調した。それと同時に、法人実効税率については、12年に5%引き下げ、 15年に25%の水準(現在は約40%)に引き下げることが「国際競争力を維持」するために必須だと主張した。

「財政健全化」を金科玉条に「財政健全化」への負担を「消費税増税」に押し付け、「国際競争力の維持」という錦の御旗を掲げて「法人税減税」を主張するのは、余りにも「虫のいい話」。日本の「財政健全化」を本気で求めているのであれば、法人も協力する姿勢を示すべきであり、一方的な優遇策を求めるのはおかしな論理である。

財界が「法人税減税」を求める根拠は「国際競争力の維持」である。その為には現行の40%強(内国税は30%)という法人実効税率を、国際水準並みの25%程度(欧米より低く、中国や韓国とほぼ同水準)まで引き下げる必要があるという理屈。

しかし、日本を代表する企業の実効税率は、実際には40.69%を大幅に下回っている。やや古いデータになるが、日本共産党が発表した試算では、大企業に対する優遇税制が一段と強まった2003年度から09年度の7年間、経常利益の上位100社(単体)で負担率は平均33・7%だったことが報じられている。
個別企業にみると、日本経団連の会長企業、住友化学が払っている法人課税の負担率はわずか16.6%であるのを始め、前会長の企業キヤノンは34.6%、トヨタ自動車30.1%、本田技研工業24.5%、パナソニック17.6%、ソニー12.9%、ブリヂストンは21.3%であった(日本共産党HPより)。
参考までに、長谷川同友会代表幹事が社長を務める武田薬品の法人税課税率(有価証券報告書に基づく、法人税支払い額/税前利益)は平成21年度が27.8%、22年度が32.7%である。

つまり、日本の大企業の実効税率は既に国際水準並みである。むしろ問題なのは、国際水準よりかなり低い課税水準となっている企業が多く存在すること。「国際競争力維持」のための法人実効税率の引下げ自体は理解できることであるが、国際水準並みの税金も納めていない大企業が多数存在することは看過できないことである。

政府が「国際競争力の維持」のために「法人税減税」が必要だと判断し実行するのであれば、それと同時に大企業に対する「法人最低課税水準」を設けて、最低25%は課税する様な制度にするべきである。さもないと、財政再建のためのコストを全て国民が負担するという「歪んだ財政再建」になってしまう。

財界は、「法人税減税」だけでなく、「TPPの早期参加」も要望している。
24日に玄葉外相と懇談した経団連米倉会長は、TPP交渉について「政治の強いリーダーシップで機を逸することなく交渉参加を決断してほしい」と要望した。

国内のTPP議論においては、規制撤廃を目指す「推進派(善人)」と、農業や医療・保健など既得権益を守ろうとする「慎重派(悪玉)」の争いという構図で報道されている。しかし、関税や労働コスト等々を考慮し、生産拠点を世界で最も効率的な地域に移転することで利益最大化を目指すことが可能な大手企業と、国内に留まることを余儀なくされている農家や中小企業とを同列に扱う議論は、必ずしも公平とは言えないものである。

今回のタイの大洪水で日本企業は大きな被害を受けたが、これはタイが締結しているFTAを活用すれば、国内で生産して輸出するよりも有利になるからである。つまり、日本の大企業は、日本がTPPを締結していない現在でも、「開国」している国を利用することで、実質的な果実を得られている。実効税率が既に「国際水準並み」になっている要因の一つは、こうした「他国の開国政策に相乗り出来る」ことにある。

「他国の開国政策に相乗り出来る」企業と、「相乗り出来ない産業」が現実として存在することを無視し、「慎重派」の議員に「農業票を失うことを恐れる議員」「小沢系議員」という芳しくないレッテルを貼るような議論の仕方は公平・中立なものと言えるのだろうか。

25 日付日本経済新聞の社説は「丁寧な説明でTPPへの誤解をなくそう」という見出しで、「現実の交渉に関する情報が足りないため、反対派の中には事実と異なった主張も散見される」として、「政府は入手した知見を開示し丁寧な説明を尽くすべきである」という主張をしている。

一見もっともに見える主張だが、もともと「現実の交渉に関する情報が足りない」というのは、TPP交渉参加の理由の一つに挙げられているのも。もし、このような情報があるのであれば、「早急な交渉参加」など必要がないということになり、「推進派」は完全な「論理破綻」を来していることになる。

この日本経済新聞の社説に代表されるように、TPPの議論が紛糾する原因は「慎重派」の誤解にあるという見方が一般的である。「推進派」は「慎重派」の誤解を解くことに注力しようとしているようだが、今不足しているのは「慎重派の誤解を解く努力」だけではなく「推進派が主張するメリットを納得させる努力」である。

日本経済新聞は24日付の「TPP国を開く(下)」という記事の中でTPP参加のメリットとして「内閣府の試算では日本のTPP参加は実質GDPを 0.48%〜0.65%押し上げる」という経済的メリットを挙げているが、農林水産省が発表している実質GDPを1.6%押し下げるという試算は取りあげていない。こうした片手落ちの説明は、公平・中立な議論をする意思のないことを感じさせるもの。

また、こうした報道で注意しなくてはならない点は、「実質GDP」というところ。「名目GDP」が伸びなくても、「開国」によって物価が0.5%程度下落さえすれば、「実質GDPを 0.48%〜0.65%を押し上げる」という試算は誤りではなくなってしまう。つまり、「実質GDPを0.48%〜0.65%を押し上げる」ということと、国民が常識的に感じる「経済成長」とは必ずしも同じ意味にはならない。

一般的に、貿易の自由化が行われると、保護されていた国内産業が損害を受けるものの、自由化の結果消費者に価格低下メリットが生じ、国内産業の損害のデメリットと国内消費者のメリットを比較すると、メリットが損害を上回るとされている。
つまり、「自由化の結果消費者に価格低下メリット」が生じる限り、「実質GDP」はその分だけ確実に押し上げられということ。反対に、国内産業の受ける損害によって「名目GDP」がマイナスになったとしても、その損害に伴う「名目GDP」の下落率が、価格低下率を下回ってさえいれば、「実質GDP」はプラスとなり、「メリットが上回る」ということになる。

要するに、悪意があるか否かは別として、「実質GDPを押し上げる」という国民に向けてのメッセージの裏側には、経済統計上のマジックが隠されている。勿論、内閣府の試算も、このメリットとデメリットを合算した結果である。

さらには、国内産業の受ける損害が想定より大きくなれば、「税や労働コスト等々を考慮して利益最大化を目指し、生産拠点を世界で最も効率的な地域に移転することが可能な大手企業」が国内に留まる保証は何処にもない。「国内産業への打撃」があったとしても、それに代わる産業が海外から入って来たり生まれたりするのであればマクロ的には大きな問題ではない。しかし、関税の撤廃により、現在国内に存在している企業が、単純に生産・営業拠点を海外に移してしまうとなると大問題である。

TPPの影響で懸念されることは、「TPPによって安価な労働力が流入する」ことでなく、「TPPによって国内の割高な労働力が失われる」可能性の方である。

もしこうした懸念が顕在化すれば、自由化による消費者メリットなど無いも同然になる。「TPP推進派」は、「(単純労働者の流入問題は)議論の対象になっていない。流入が容易になる事態は考えていない」という回答で「慎重派」を説得しようとしているようだ。しかし、説明が必要なことは、政府と財界による「国内雇用を守る」というコミットメントである。

米倉経団連会長から「TPPの早期参加」を強く求められた玄葉外相は、「外に目を見開き、大局的な判断を示す時が間近に来ている」と述べ、参加に前向きな姿勢を示した。しかし、「需要不足経済」に陥っている日本にとっては、「外に目を見開く」ことのみならず、「足元を固める」ことも同じ位重要である。

「結論ありきの議論」は、「我田引水理論」「論理破綻」を生み、本来進むべき道を誤らせる危険性を高めるものである。「論理破綻」したような報道が大手を振ってなされている現在の状況を考えると、「拙速なTPP参加表明」が、「国家破綻」「財政破綻」をもたらす危険なものにならないことを願うばかりである。

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