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「玉虫色の雇用統計」で金融緩和策を取り難くなったFRBと、「嘘八百」を並べて「高みの見物」を決め込む日銀

注目の9月の米国雇用統計が発表された。事業所調査に基づく非農業部門雇用者数は市場予想の6万人増を上回る前月比10万3000人増となり、前月の雇用者増も速報値の前月比横ばいから5万7000人増へ上方修正された。 さらに、平均時給は前月比0.2%増の23.12ドル、平均労働時間は6分延長され34.3時間だった。こうした悪くない内容から、市場の一部では米経済の二番底懸念が後退したという見方も囁かれている。

一方、家計調査に基づく9月の失業率は前月比変わらずの9.1%と、6ヶ月連続の9%台となった。 失業率は2009年2月以降2年半以上8%を上回っており、これは1948年の調査開始以来で最長。
さらに、失業者に加え、経済悪化でパートタイム就労を余儀なくされている労働者や、職探しをあきらめた人などを含む広義の失業率は、前月の16.2%から 0.3%上昇して16.5%となり、年初来の最高を記録した。また、「景気を理由に」パートタイムの仕事を余儀なくされている労働者は44万4000人増の930万人となり、米国の雇用情勢が依然として厳しい状況にあることも示された。

雇用者数が市場予想を上回ったと言えども、2009年6月に終了したリセッションで失われた875万人の雇用うち、これまで回復した雇用が約200万人にとどまっていることを考えると、米国の雇用情勢は再選を目指すオバマ大統領にとっても依然として厳しい状況にある。

こうした「玉虫色の雇用統計」は、4日の米議会上下両院合同経済委員会で「(量的緩和第3弾、QE3のようなものを)実施する差し迫った計画はない」としたバーナンキFRB議長の証言を裏付けるもの。FOMC内に「常に意見が一致する3人の(タカ派)メンバー」が存在することを考えると、今年中に後2回開催が予定(11月1日・2日及び12月13日)されているFOMCでの追加金融緩和実施は難しい情勢となったと言える。
【参考】⇒ 如何なる追加緩和政策も打ち出しにくい状況下にあることを印象付けたFOMC

実際、FOMC内での「タカ派の論客」として知られる米リッチモンド連銀のラッカー総裁は、3日、規制や財政政策、労働者のスキル不足といった要因が重なり、FRBによるさらなる緩和策が米国の経済成長を促進しない公算が大きいとの認識を明らかにした上、FRBの追加刺激策について、「リセッションの可能性は今のところ低い」「インフレ率の上昇を招き、成長にはつかの間の効果しかない」との見方を示している。ラッカー総裁は今年のFOMCでの投票権は持たない(2012年の投票権を持つ)が、今年のFOMCで投票権を持つ3人のタカ派メンバーがほぼ同意見であることは間違いない。

因みに「タカ派の論客」であるラッカー総裁は、3日の同講演で「喫緊の課題は、FRBが政治的圧力を受けずにバランスシート管理ができるよう、与信能力を抑制する方法を見出すことだ」と述べ、FRBが最近政治的圧力を受けているとの認識を示し、「そういう時こそ、FRBが短期的圧力から守られるガバナンス構造が極めて重要」と述べ、政治からの独立性を強く主張している。こうしたことは、米国大統領選挙を控え、FRBに対する政治的な圧力が上昇することを牽制したもの。市場には大統領選挙を控えてFRBが景気刺激策を打ち出すという期待が根強いが、こうした期待は裏切られる可能性が高い。

9月の雇用統計が、米国の雇用情勢の厳しさを再認識させるものであったものの、「リセッションの可能性は今のところ低い」「(量的緩和第3弾、QE3のようなものを)実施する差し迫った計画はない」と考えているFOMCメンバーの宗旨替えを促すほど悪い数字ではなかった「玉虫色」になったことで、「安定した雇用と物価」という2つの責務を負うFRBによる年内の追加緩和策実施の可能性は低下したと言えそうだ。

日本では「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を責務とした日銀が6日・7日に金融政策決定会合を開催し、金融政策の現状維持を決定した。

日銀の白川総裁は金融政策決定会合後の会見で、「海外経済の不確実性や金融市場の不安定さは、日本経済の下振れリスクをより意識させる状況だ」と語った。そのうえで「こうした展開を予想しながら8月に金融緩和を強化した。今後も先行きの経済情勢を注意してみていく」と述べた。
さらに、「東日本大震災後の供給制約がほぼ解消された現在、海外需要の重要性が増している」と指摘。そのうえで「世界経済の成長率は先進国を中心に減速傾向にある」と語り、海外情勢の変調が明確なリスク要因になっているとの認識を示した。

「海外経済の不確実性や金融市場の不安定さを予想しながら8月に金融緩和を強化した」という日銀総裁の発言は完全なミスリード、嘘八百である。

日銀のベースマネー(平均残高)は「金融緩和を強化した」とする8月には114兆447億円と、7月比で3,123億円、率にして僅か0.27%しか増えていない。さらに、4月の121兆8984億円と比較すると、金額にして7兆8487億円、率にして6.44%も減少しているのである。また、日銀お得意の「前年同月比」でみても、今年3月以降15%以上の伸びを記録しており、「8月に金融緩和を強化した」気配はない(ベースマネーの「前年同月比」は3月が+16.9%、以降4月+23.9%、5月+16.2%、6月+17%、7月+15.0%、8月+15.9%、9月+16.7%)。

こうした事実を無視して、「8月に金融緩和を強化した」と発言する日銀総裁の厚顔無恥さは、最近の首相と双璧である。日銀総裁が嘘八百を並べている間にも為替市場では円高が進行。3月末時点で82円台だったドル円レートは、9月末で76円台と、約6円、率にして7%以上も円高になっており、「国民経済の健全な発展」は阻害されている。

さらに信じ難いのは、「供給制約がほぼ解消された現在、海外需要の重要性が増している」と指摘したうえで「世界経済の成長率は先進国を中心に減速傾向にある」と、海外情勢の変調が明確なリスク要因になっているとの認識を示したところ。日銀総裁の一連の発言の中に何故「国内需要」という言葉が出て来ないのだろうか。

日本経済新聞が掲載している「日銀総裁会見要旨」を読んでも、「国内需要」という単語は、「輸出の穏やかな増加基調や資本ストックの復元に向けた『国内需要』から、日本経済は穏やかな回復経路に戻って行くと考えられる」と肯定的な見解に1回登場するだけである。
「重要性を増している外需」が、「海外情勢の変調が明確なリスク要因になっている」今この時期こそ、「国内需要」は日本の政策当局にとって最重要課題となるはずである。何故ならば、「海外情勢の変調」をコントロールすることは政府・日銀の責務ではないし、その能力もないからである。

政府・日銀が「国内需要」を喚起するあらゆる方策を打つべきこの時期に、日銀総裁が「8月に金融緩和を強化した」という嘘八百を唱え、「海外情勢の変調が明確なリスク要因になっている」などと評論家のようなコメントをして「高みの見物」を決め込んでいることこそが、日本経済回復の大きな懸念材料である。

そして問題は、こうした日銀総裁の記者会見における事実に反するコメントに対して、マスコミから全く何の指摘も反論も出ないこと。こうした事実は、日銀総裁の記者会見が御用記者に囲まれ形骸化していることに加え、記者のレベルの低さを感じさせるもの。

マスコミは、小沢元代表が記者会見での質問に対して、「君はどう考えてるの?」「三権分立をどう考えるの?」と声を荒げて「逆質問」し、言葉に窮した記者に対して、「(立法権、司法権について)ちゃんと勉強して」と諭したことを批判的に報道している。

しかし、きちんとした知識を持った人間が質問を行わなければ、単なる会見者の一方的な発表会にしかならず、緊張感のある会見にはなり得ない。口汚い言葉で会見者を罵ることしか出来ないのは、質問者の知識不足に依るところが大きく、その結果、国民は「ミスリード」や「嘘八百」を聞かされ続けることになる。

「経済成長の鈍化は、雇用、および家計収入の伸びの鈍化につながった」として、即効性のある政策が乏しい中で必死にもがき続けるバーナンキFRB議長。勉強不足の御用記者に囲まれ「8月に金融緩和を強化した」という嘘八百を唱え、「海外情勢の変調が明確なリスク要因になっている」などと評論家のようなコメントを繰り返し「高みの見物」を決め込む早川日銀総裁。「国民経済の健全な発展に資すること」ことを忘れてしまったかのような中央銀行総裁の発言を聞く度に、日米中央銀行の姿勢の違いが、今後、国力の差となって現れて来るという懸念を抱かずにはいられない。

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