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特集:Brexit:開票速報を聞きながら・・・

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 隔週金曜日発行の本誌は、重要事件が重なると困ってしまいます。先月27日は、G7伊勢志摩サミット2日目とオバマ大統領の広島訪問と重なり、往生したばかりです。
 そして本日は、英国のEU離脱を問う国民投票の開票日と重なりました。仕方がないので、開票速報を聞きながら書き始めた次第です。ちなみに毎週金曜日発行のTheEconomist誌は、特別号を出すとのこと。まあ、それくらいは当然でしょうね。
 正直に言いますが、昨晩までは「残留」(Remain)だと思っておりました。本日の「離脱」(Leave)という結果は衝撃です。さて、今回の英国の国民投票にはどんな意味があるのか。本日時点のとりあえずの反応を記しておきます。

●英国流ビジネスモデルの自己否定?

 ちょうど1年前、筆者は早めの夏休みを取ってロンドンに行っていた。6月の英国の気候はすばらしく、観光旅行には最適な季節であった。”JuneBride”という単語は、なるほどそういう意味であったのか、と妙なことに感心した次第である(「6月の花嫁」という訳語は、梅雨の季節の日本ではあまり魅力的に響かないのではないか)。
 英国旅行における最大の収穫は、ロイヤル・アスコットに行ったことである。1711年に始まるという長い歴史を持つ英国王室主催の競馬開催のことだ。6月第3週の火曜から土曜日にかけて、5日連続で紳士淑女たちが盛装してロンドン郊外のアスコット競馬場に集う。そして女王陛下のご臨席の下、レースとギャンブルと休日を楽しむのである。
 競馬ファンの筆者としては、競馬の本家本元を訪る旅であったが、このときに初めて、この季節の英国では次のような日程が組まれていることを知った。

○2016年の4大大会日程
*6月14日~18日:ロイヤル・アスコット(競馬)
*6月27日~7月10日:ウィンブルドン(テニス)
*6月29日~7月3日:ヘンリーロイヤルレガッタ(漕艇)
*7月10日~17日:全英オープン(ゴルフ)

 これらを4大大会と称している。英国発祥のスポーツ4種類を、毎年6~7月に集中させているのである。英国は年間を通じてこの時期がもっともよい時期なのだから、皆さんどうぞ来て楽しんで行ってください、という意味が込められているのであろう。なおかつ、英国にはサッカーとラグビーという世界的な人気スポーツもあるわけで、まことに途方もない観光資源の保有国である。
 「ウィンブルドン現象」という言葉がある通り、英国は他所から人が来てくれて初めてビジネスが成立する、といったところがある。もはやテニスの世界大会では、英国人選手を上位ではあまり見かけないけれども、世界中からトップスター選手がやってきて、世界最高峰の戦いを見せてくれる。お蔭で全世界が関心を持ってくれるし、英国経済も潤うというわけだ。悪く言えば、「場所貸し」でしぶとく稼いでいる老大国の知恵、といったところがある。
 英国は最初に産業革命に成功し、モノづくりで世界をリードした国である。日本が日露戦争を戦ったときの戦艦三笠は、英国から輸入したものであった。その英国の製造業は今ではすっかり空洞化してしまい、最大の産業は金融業である。それもリーマンショックで打撃を受け、昨今のパナマ文書問題でも矢面に立たされるかもしれない。
 それでも英国には観光産業が残っている。『シャーロック・ホームズ』から大英博物館まで、世界の人たちを呼び寄せてやまないソフトパワーを有している。
 ところがその英国が、いつしか「外国人嫌い」になってしまい、国を閉ざすかのような決定を下してしまった。しかも1年でもっとも良い季節で、外国人が多く訪れる今の時期に。Brexitは、英国流のビジネスモデルを破壊しかねない動きではあるまいか。
 もっともこれからウィンブルドンや全英オープンを見に行こう、と考えている人たちにとっては、今回の国民投票騒ぎで英ポンドが下落していることは「バーゲンチャンス」と言えるかもしれない。
 昨年6月に筆者がロンドンを訪れたときは、1ポンドが195円もした。アスコット競馬場の「シルバーリング」と呼ばれる外野席が35ポンド、ウォータールー駅からアスコット駅まで往復電車賃が28ポンド、競馬新聞代わりの「タイムフォース・レースカード」という小冊子が5ポンドなど、とにかく呆れるほどに物価が高かった。それが今日になったら1ポンド135円(!)前後である。

●直接民主主義の危険性

 ということで、開票速報を気にしながら本稿を書いていたところ、24日(金)午後12時42分、とうとうBBCが「離脱確実」の報を打った。もちろん株式市場と為替市場は、天地をひっくり返したような騒ぎになっている1
 別に八つ当たりをするつもりはないのだが、「国民投票(Referendum)というものは、つくづく怖いものだな」と思う。もちろんキャメロン首相は、その危険性を重々承知していたはずである。2014年にも、スコットランド独立投票で薄氷を踏む思いをしたばかりである。とはいえ、保守党内の権力基盤が脆弱な哀しさ、反EU勢力を宥めるために2013年のマニフェストとして打ち出し、運命の6月23日を迎えることになってしまった。
 あらためて国民投票の問題点について整理しておこう。

1.直接民主主義と言えば耳触りはいいが、国民投票を必要とするようなアジェンダはそもそもがポピュリスト的である。普通の間接民主主義では通りにくく、人々の感情を刺激するようなテーマが選ばれやすい。
 ・選挙戦術が高度化した今日では、民意を誘導する手法が巧妙化している。UKIP(英独立党)のポスターなどは、呆れるほどえげつない2
 ・EU離脱によるリスク(成長率低下や失業増加)を指摘する意見は、「エリートによる脅し」と受け止められた。離脱派の「感情論」と残留派の「勘定論」は最後までかみ合わなかった。

2.国民投票に懸けられるような問題は、そもそも国論を二分しやすい性質がある。得てして結果は僅差になる。その場は収まっても、近い将来に蒸し返される恐れがある。
 ・仮に今回、残留派が勝っていたとしても、僅差であれば数年後にやり直しを求められることになったのではないか。

3.国民投票は癖になるし、真似されやすい。
 ・台湾の陳水扁政権(2001~08)は、民進党が立法院で過半数を持たなかったために、「公民投票」を利用して政権の求心力を得ようとした。が、何度も強調し過ぎたために、有効投票率が5割を割って無効となってしまう。
 ・既にイタリアの新興野党勢力「五つ星運動」が、「ユーロの補完通貨の導入検討」に関する国民投票を呼び掛けている。同様な要求は、欧州内で続出するのではないだろうか。

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