- 2016年06月24日 16:32
家族で支える? 社会で支える? ――少子高齢化社会の家族政策を考える - 筒井淳也 / 計量社会学
2/2政党による違い
では、選挙に際してはどういったポイントに注目すべきなのでしょうか。
ここであまり詳しく説明する必要もないかもしれませんが、投票(特に参院選)においては政党の基本的な政治的姿勢を把握しておく必要があります。最も有名なのが、「保守とリベラル」という対立軸です。日本の政党についていえば、自民党は(どちらかといえば)保守、民進党は(それよりはいくばくか)リベラル、といった具合です。
「保守とリベラル」というのはひとことで説明することは難しいのですが、概して保守政党は政府の役割を大きくすることには消極的です。民間企業の活力、個々人の自助努力を重視します。家族については、「伝統的家族」のかたちを重んじる傾向があります。ここで「伝統的家族」(注)というのは、「男性が稼ぎ、女性が家事・育児・介護をする」という性別分業家族であったり、「おじいちゃん・おばあちゃんと一緒に住む」二世帯あるいは三世代同居家族のことを指しています。いってみれば、働く男性以外の家族・親族(妻、祖父母)が政府の代わりに子育て・家事・介護をするべきだ、という考え方です。
(注)実際には「男性が働き、妻が家事・育児をする」というのはむしろ近代社会の家族の特徴なのですが、ここでは詳しく書くことができません。
詳しくは、拙著『仕事と家族』(中公新書)や『結婚と家族のこれから』(光文社新書)をごらんください。また、三世代同居推進政策については、もし時間があればシノドスの拙記事「三世代同居促進政策は有効か――データから見えてくること」や朝日新聞の記事もごらんになってください。
これに対してリベラル政党は、家族主義を脱して子育てや介護を「社会化」する方針をとります。保育サービスや介護サービスを、公的資金を使って拡充し、家族の負担を減らすのです。
自民党は1970年代以降、基本的に家族政策には非常に消極的でした。「福祉は企業と家族でなんとかしましょう、政府は微力ながらそれをバックアップします」というのが基本方針でした。ひとつにはそのことの反映として、日本では現役世代への政府支出(主に失業対策や児童手当などの家族支出)が非常に低い水準に抑えこまれてきたのです。ただし、高齢者については、少なくとも退職後は企業のサポートから外れますから、政府が支援するという方針を保ってきました。
「支出」というのは、ここでは公的支出のことで、わかりやすくいえば政府が公的資金をどれだけ特定の目的のために使っているか、ということです。公的支出は国の経済規模によって大きく代わりますから、一般的には、特定の支出がGDP(国内総生産、一国の経済規模を表す)の何%になるか、ということを、「その国の政府が特定の目的をどれだけ重視しているか」の指標とします。
京都大学の柴田悠准教授の計算では、2009年時点での「ひとりあたりGDPに対して子どもひとりあたりの子育て支援支出の割合」は7.1%であり、これは20%を超えるスウェーデンと比べるとずいぶん低い水準であり、主要なヨーロッパ諸国と比べて半分程度の数値です。これに対して高齢者福祉支出は同様の計算で47.2%であり、他の主要国とほぼ同じ水準になっています。
このように、日本は子育てについてはずっと家族主義、すなわち政府があまり家族支援をせず、家族が自分たちで家族を支えるという方針で来たのですが、そうこうしているうちに、ほうっておいたらどんどんと少子化が進み、今度は高齢者を支える若い人口が減っていきました。そうすると高齢者福祉を支えることもできなくなりますから、さすがに「ヤバイ」ということになって、1990年代からは逐次的に少子化対策にも力を入れるようになってきました。ただ、まだその顕著な効果は出ていないといえそうです。これが現状です。
民進党は、今年(2016年)3月に維新の党が民主党に合流するかたちで誕生した新しい政党です。まだその基本政策の方向性ははっきりとしませんが、少なくとも前身である民主党の政策は自民党よりもリベラル寄りであったといえます。ただ、2009年9月に政権を担当した際に子育ての社会化と児童手当(子ども手当)の拡充といった政策を打ち出しますが、財源の見通しが甘かったために目的をうまく果たすことができませんでした。
自民党も、2012年12月に第二次安倍内閣が成立してからは、歴代の自民党内閣と比べると少子化対策や女性の「活躍」により力を注いでいます。ですので、現在では必ずしも「自民党は保守で家族主義、民主党(民進党)はリベラルで脱家族主義」と明確にいえるわけではありません。ですので、次回の参院選でも、政党のこれまでの方針(リベラルvs保守)だけではなく、個々の政策について丁寧に見極めていく必要があります。
現在の安倍政権では、女性の労働力参加の促進政策としては、2015年8月に成立した「女性活躍推進法」が基軸になっています。企業に対して「指導的地位」に就く女性の割合の増加を促すこの法律はしかし、目標達成を努力義務に留めるなど、それほど実効性を望めないものにとどまっています。
家族政策の二つのポイント
仕事と家庭を両立させて働く女性を増やしていくためには、これ以外に二つの論点があります。ひとつはふだんの労働環境の改善、もうひとつは育児・介護の時期の支援の拡充です。
労働環境については、現在の「男性的働き方」を是正することが鍵となります。具体的には、長時間労働です。長時間労働ができない人が活躍できないのが多くの職場の現状であり、そうであるかぎり女性は働き続けることが難しいですし、男性も家事や育児をすることができません。本来のかたちでの共働き夫婦が増えるためには、長時間労働の是正が必要条件になってきます。
現在の日本の労働に関する法制度では、やりようによってはいくらでも残業ができてしまう仕組みになっています。これが過労死にもつながっているわけで、安倍政権では労働基準監督署による監視を強化し、違反企業を公表するなど、長時間労働の解消に向けた一定の取り組みをしています。党としても、男性的働き方の是正に一定の配慮をしています(『「日本一億層活躍プラン」に向けた提言』)。
しかしその実効性についてはまだ未知数です。きっちり労働時間を減らすために、ヨーロッパ(EU)のように上限規制(週48時間以上の労働を例外なく禁じる、など)を設けることができるかどうかが、今後のひとつの論点になります。民進党もおそらく同様の方針を打ち出すと思われますが、肝心なのは「長時間労働の是正を目指す」という宣言ではなく、それをどういう手段で実現させるか、です。各党の公約には目的だけ掲げられていて、手段が書かれていないことが多いので、要注意です。ぜひ、これからの政治報道に注目してみてください。
次に、育児・介護に際しての支援についてです。特に保育については、「保育園落ちた」というネット上の書き込みをきっかけに議論が盛り上がったのを覚えている人もいるでしょう。安倍政権でも、待機児童の解消に向けて取り組む姿勢を打ち出していますが、ここでの論点のひとつは「どれだけのお金(公的資金)を保育につぎ込めるか」にあります。とにかく保育にはお金がかかります。保育士の給与ももっと上げないと、保育士は他の条件の良い仕事に移ってしまいます。
しかし政府は、財源の確保に四苦八苦です。消費税を増税して保育サービスの拡充にあてるはずだったのですが、デフレを退治しきれていないので、安易に税率を上げることには慎重になるべきだ、という意見もあります。
ですので、消費税を含めて、その他の方法を視野に入れつつ、財源をいかにして確保していくのかが、これからの争点の一つになるでしょう。ここでも、「保育サービスを確保する」という宣言ではなく、「どうやって」のほうに注目してみてください。
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筒井淳也(つつい・じゅんや)
計量社会学
1970 年生まれ。一橋大学社会学部卒業、同大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、立命館大学産業社会学部教授。専門は家族社会学・計量社会学。著書に『制度と再帰性の社会学』(ハーベスト社、2006)、『親密性の社会学』(世界思想社、2008)、『仕事と家族』(中公新書、2015)など。



