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教育、犯罪、精神疾患…行動遺伝学の知見が明らかにする“不都合な真実” – 橘玲

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身体的な特徴だけでなく知能も遺伝する


身長や体重などの身体的な特徴だけでなく、性格や能力にも遺伝の影響があることは誰もがなんとなくわかっている。だがいまでは、遺伝の影響を科学的に測定する方法が確立していることはあまり知られていない。それが行動遺伝学だ。

一卵性双生児は受精卵が偶然2つに分かれたのだから、2人は完全に同じ遺伝子を共有している。こうした子どもがなんらかの事情で別々の家庭で育てられたとしたら、遺伝子が同じで環境だけが異なるのだから、それぞれの影響を統計的に計測できる。

二卵性双生児は2つの卵が同時に受精しただけで、遺伝的には一般のきょうだいとは変わらず、平均して2分の1の遺伝子を共有している。そこで、同じ家庭で育てられた一卵性双生児と二卵性双生児を統計的に比較することで、遺伝と環境の影響を把握することが可能になる。

双生児研究は1950年代から始められ、現在までに膨大な研究が蓄積されてさまざまな形質の遺伝率が明らかになっている。こうした行動遺伝学の成果は、日本における第一人者である安藤寿康氏の著作(『遺伝マインド 』有斐閣など)に詳細に記されているが、それによると一般知能(知能テストのIQ)の遺伝率は77%、論理推論的能力は68%ときわめて高い。

この遺伝率は知能のばらつきのうち約8割を遺伝要因で説明できるということで、「頭のいい親からは8割の確率で賢い子どもが生まれる」ということではないが、身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%であることを考えればどのような数字かある程度イメージできるだろう。背の高い親から長身の子どもが生まれるように、親から子へと知能も遺伝するのだ。

親は子どもの成長にほとんど影響を与えられない?!


遺伝の影響はこれまで、受精したときの形質が死ぬまでそのまま続くと考えられてきた。だが近年、成長とともに遺伝の影響が変化することがわかってきた。IQで遺伝と年齢の影響を数値化すると、幼児期から思春期に向けて遺伝の寄与度が大きくなっていくことがはっきりわかる。この「一般知能の発達的変化」は「行動遺伝学の発見のなかでももっとも重要なもののひとつ」とされるが、その意味するところは重大だ。

遺伝の寄与度が小さければ、そのぶん環境から受ける影響は大きくなる。この環境には子育ても含まれるから、幼児教育の効果はここから説明できる。だが一般知能の発達的変化では、子どもが成長するにしたがって遺伝の影響が前景に出てきて、環境(子育て)の効果は消えていく。幼児教育によって子どもを名門幼稚園や一流小学校に入れることはできるかもしれないが、高校生になる頃には幼児期の学習効果はほとんどリセットされて、知能(学力)は遺伝的要因で決まるようになるのだ(詳しくは安藤寿康『遺伝と環境の心理学』培風館)。

「子どもの才能は幼児期の親の育て方で決まる」という俗説は広く信じられており、親は子どもの進学や就職の結果で子育ての「成功」と「失敗」をきびしく判定される。だが行動遺伝学の知見を前提とするならば、一般知能の高い遺伝率や、その発達的変化を考慮しない子育て論や教育論にどれほどの価値があるかきわめて疑わしい。発達についての科学的な研究は、「親は子どもに成長にほとんど影響を与えられない」という説を強く支持しているのだ。

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