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「直ちに」影響が及ばない米国と、「直ちに」国益を失いかねない日本

「史上初の米国債格下げ」を受け、政策当局の慌ただしさが増して来た。G7各国は「国際金融市場の安定向けた政策協調」に向け7日午前、財政当局による事務レベルの緊急電話協議を開いたのに続き、8日に財務相・中央銀行総裁による緊急電話協議を開く方向で調整していることが報じられている。

内容的には、銀行間決済に支障を来さない様に主要国の中央銀行が短期資金を供給することなどが検討されている様だが、日本にとっての注目点は「国際金融市場の安定に向けた政策協調」に「ドル買い介入」が含まれているのか否か。

先日日本が実施した「介入」に対してはトリシェECB総裁が公然と批判し、「国際金融市場の安定にそぐわない政策」と決めつけた格好になっている。しかし、「米国債格下げ」という事態を受け、主要国が「ドル安阻止」が「国際金融市場の安定」に必要不可欠だという認識で一致すれば、「介入」が「国際金融市場の安定向けた政策協調」に加えられる可能性はある。
ただし、米国以上に深刻な財政問題から「ユーロ急落」のリスクを抱えている上に、域内に自国通貨高に対して「ユーロ買い・スイスフラン売り」の介入を実施したスイスを抱えている欧州は、単純な「ユーロ売り・ドル買い介入」は行い難い状況。ECBが介入に参加するとなれば、「ユーロ売り・ドル買い」ではなく「円売り・ドル買い」になるのかもしれない。

「介入」が少なくとも米国の支持を得なければ、日銀の「追加介入」は市場から「孤独介入」とみなされ、その効果は極めて限定的なものになりかねない。「介入」に関して米国の支持を得られるか、ECBをどの様な形で「ドル安阻止」に参加させるのか、日本の政策当局の交渉力が問われることになる。
こうした状況下で懸念されることは「G7会合開催へ 菅首相に連絡なし」という報道。もし報道されている通り、「介入」余力もあり、そのインセンティブも持っている日本が「受け身で参加」ということになるのであれば、「介入」が「国際金融市場の安定向けた政策協調」として認められる可能性は低くならざるを得ない。菅首相続投によって、ここでも日本は多大なる国益を失っている。

ところで、「米国債格下げ」は、国内で報道され散るほど米国経済に打撃を与えるものなのだろうか。金融市場に影響を及ぼすこと自体は間違いないが、米国経済にとってはさしたる打撃にはならないはずである。国内では、「欧米の財政不安」とひとくくりにして報道されているが、実際には欧米ではその問題のレベルは大きく異なっており、「米国債格下げ」の影響は、米国より、緊急かつ深刻な財政問題を抱える欧州に強く及ぶ可能性が高い。

米国の財政不安は、債務が大きいことであり、資金調達に支障を来している訳ではない。これに対して欧州の財政不安は、債務が大きいことに加え、一部の国が資金調達に支障を来していることである。こうした違いは国債の利回りに現れている。
ギリシャの2年国債の利回は40%前後と、先進国の国債とは思えないほど高い水準まで上昇しているのに対して、米国の2年債利回りは0.29%付近、10年債利回りも2.5%台である。今回の「米国債格下げ」によって「米国金利は0.5〜0.7%上昇する」との指摘があるが、この見通し通り米国金利が上昇したとしても、米国2年債利回りは1%未満、10年債の利回りも3%強といった水準である。米国2年債利回り0.7%台というのは今年の2月〜4月頃の水準であり、10年債利回りも先月までは概ね3%前後であった事実からすると、「米国債格下げ」によって「米国金利が0.5%〜0.7%上昇」したとしても、それを以てして「米国の資金調達に支障が出る」「米国の財政負担が増える」という主張はナンセンスである。
また、米国債券を大量に保有する日本の銀行が「米国金利の上昇で大きな損失を被る」という指摘も、必ずしも正しいものではない(円高によって損失を被ることは十分に考えられるが)。

S&P による「米国債格下げ」は、「史上初」という点で市場の不安要因とはなりうるが、現実的には米国経済に「直ちに」影響は及ぼすものではない。 S&Pといえども所詮「一民間企業」に過ぎないし、彼らの格下げに対する「財政赤字を2.4兆ドル減らす政府・議会合意は不十分で、4兆ドルの削減が必要」という主張も、彼ら自身が犯した2兆ドルの「計算違い」によってその正当性を既に失っている。S&Pによる「米国債格下げ」は金融市場にとって既に「想定内」の出来事であり、金融市場にとって「想定外」であったのは、「正当化の難しい格下げ」にS&Pが暴走したことである。

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