- 2016年06月22日 12:24
東電は、第三者委『報告書』を破棄せよ - 南部義典
1/2東京電力が設置した、「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」(田中康久委員長ほか委員2名)は16日、廣瀬社長に対し、3ケ月間の調査、検証をまとめた『報告書』を提出しました。東電は同日、廣瀬社長の名で「報告書の内容を厳粛に、そして全面的に受け止めるとともに、今後、『報告書』を十分に確認・精査し、早急に具体的な対応策などを取りまとめた上で、あらためてお知らせさせていただきます」とのコメントを出しています(下線:筆者)。
『報告書』の内容のうち最も衝撃的で、注目を集めたのは、(1)福島第一原発事故の発災当時、“炉心溶融”という用語を会見で使わないよう、官邸側から東電の清水社長(当時)に対する指示ないし要請があったと推認されること、(2)清水社長は、官邸側からの指示ないし要請を受けて、プレス資料の公表について事前に官邸の了解を得るよう、社内に指示をしていたことを、明らかな因果として記したことです。つまり、当時、立地地域及びその周辺の住民に対して正確な情報が伝えられなかった究極の責任が、官邸側にこそある、と報告書は示しているわけです。官邸側のトップにいた菅元総理、枝野元官房長官らは即日、「指示、要請の事実などまったくない」と反論していますが、参院選挙公示のタイミングでもあり、メディアはまったく深堀りしていません。ニュースの見出しだけが残り、このまま忘れ去られてしまうのでしょうか。
以下述べるように、『報告書』には明らかな事実誤認と飛躍した結論付けがみられます。当事者か第三者かという主体の問題を横に置いても、調査、検証の方法に、見過ごすことができない問題を抱えています。また、「なぜ、このタイミングで、このような内容の報告書が公表されたのか?」と、素朴な疑問を感じた方も多いと思います。私もそうです。『報告書』は、東電が今後これをどう扱うかという点も含めて、経営中枢の責任意識の薄弱さをうかがう資料として読み込むべきです。
(問題①)官邸側は、炉心溶融を口止めしていない
『報告書』の第一の問題は、官邸側が炉心溶融という表現を使わないよう、清水社長に対して指示ないし要請したと「推認」している点ですが、これが事実と異なることです。
『報告書』は、3月13日、清水社長が官邸を訪れ、東電本社に戻った後の様子を次のように記しています。いずれの文章も、「推認される」で結ばれています。
清水社長が東電本店に戻ってから、東電の部長に対し、今後、東電がプレス発表する際には、事前に官邸側の了承を得るよう指示をしており、その事実からすれば、事前にプレス文案や公表資料等について官邸の了解を得るようにとの要請を受けたものと推認される。
・・・清水社長が、14日20時40分頃からの記者会見に臨んでいた武藤副社長に対し、東電の広報担当社員を通じて、『炉心溶融』などと記載された手書きのメモを渡させ、「官邸からの指示により、これとこの言葉は使わないように」旨の内容の耳打ちをさせた経緯があり(その経緯は記者会見のテレビ映像でも確認され、その広報担当社員も、その指示を清水社長から直接受けたと説明している)、この事実からすれば、清水社長が官邸側から、対外的に「炉心溶融」を認めることについては、慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。
『報告書』30-31頁より引用。下線部は筆者。
しかし、この点について、国会事故調の報告書(2012年7月)は、
3月13日に、枝野官房長官自身が記者会見で炉心溶融の可能性について肯定していることから、官邸は「炉心溶融」という表現自体に異を唱えたものとは思われない。
『国会事故調報告書』321頁より引用。下線部は筆者。
と結論付けています。
国会事故調は、与野党が全会一致で委員会設置法を整備し、委員を選任した上で、公正・中立な見地で6ヶ月間にわたって調査、検証が進められ、その報告書が2012年7月に公表されています。国会事故調報告書は今日まで、福島第一原発事故に関する各種の調査、検証の中で、最も権威あるものとして受け入れられています。それにもかかわらず、第三者委『報告書』は、国会事故調報告書が示す結論を覆す、有力な証拠事実を示すことなく、「推認される」との簡単な一言で、真逆の結論を導いてしまっているのです。権威ある事故検証報告であっても、「推認される」の一言で、結論を覆すことができるとは、第三者委のメンバーは何と不遜、不誠実で、不勉強なのでしょうか。あえて言えば、東電が第三者委にその旨言わせているのではないか、一定の筋書きを仕向けているのではないか、との疑念を抱かれても仕方ないでしょう。
問題② 「官邸側」の誰からも、聞き取りを行っていない
官邸側から指示ないし要請があったか否か、客観的事実は一つです。いみじくも「検証委員会」を名乗る以上、事実の調査、検証を全うする厳しい態度が当然、求められます。
しかし、第三者委は信じがたいことに、官邸側の誰からも、聞き取り調査を行っていません。当時の菅総理、枝野官房長官、海江田経済産業大臣、福山内閣官房副長官、細野総理補佐官などの名前がぱっと浮かぶところですが、第三者委は誰にもアプローチしていないのです。これが、第二の問題点です。
第三者委側は、「自分たちには官邸側を調査する権限がなく、時間もなかった」と言い訳をしているようですが(※)、何も、身柄の拘束や、文書等の押収が問題となるわけではなく、調査、検証の目的を相手方に伝え、任意に協力してもらう形で、聞き取りはいくらでも実現できたはずです。この程度のことさえ行っていない(協力を頼んでさえいない)ようでは、まさに、手抜き工事ならぬ「手抜き検証」「手抜き報告」です。「推認される」の論法と相まって、結論ありきだったと言わざるをえません。
※「炉心『溶融』使うな」福島第1原発事故、清水社長が指示
(福島民友新聞 2016年6月17日10時02分配信



