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【読書感想】ぼくが発達障害だからできたこと

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ぼくが発達障害だからできたこと (朝日新書)


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ぼくが発達障害だからできたこと (朝日新書)

内容(「BOOK」データベースより)

記憶力が悪く、いつも先生からにらまれていた多動児の僕が、なぜ世界的なベストセラーを書くことができたのか?いろいろなことがうまくいかないその理由が、自分のパーソナリティが傾いているからだとわかって、なあんだって気分になった。ならいっそ清々しい。違ってて当たり前。ナイーブすぎて、優しすぎて、そのためにすっかりこの世界に疲れてしまったあなたに、自信と勇気を与える一冊。


 市川拓司さんって、発達障害だったのか……

 僕は数多ある小説のジャンルの中で、「恋愛小説」はかなり苦手なのです。

 自分がモテないというコンプレックスがあるからなのか、作中で愛し合っている二人の描写を読んでいると、なんだか身体が痒くなってくる。あるいは「どうせ一過性のものだろう」と感情移入できないのです。

 代表作の『いま、会いにゆきます』も、「死んだ人が生き返るわけないだろ、何なんだこのお涙頂戴小説は……」とか読みながらピリピリしていたんですよね。

 でも、映画版『いま、会いにゆきます』に関しては、「この映画を観て、竹内結子に惚れないわけがない!」というGACKTさんの意見に僕も賛成です。それは竹内さんの「手柄」だろう、とは思うのだけれど。

 そもそも、『世界の中心で、愛をさけぶ』にしてもそうだけれど、純愛モノって、小説で読むと歯が浮きまくるようなものでも、魅力的な女優さんが演じていると、けっこう受け入れられるものではありますね。


 前置きが長くなってしまったのですが、この新書、ベストセラー作家である市川拓司さんが、「発達障害」を抱えながら生き、奥様と出会って結婚し、小説家として成功するまでの半生が語られています。


 ひとことで言えば、これは「極めつけの問題児だったぼくが、なぜアジアやヨーロッパの国々でベストセラーになるような小説を書くことができたのか?」ってことの理由を、自分なりに考察した本です。


 ぼくはずっと「困った子供」であり「間違っている生徒」でした。「教師生活始まって以来の問題児」と先生から言われ、どうにも記憶力が悪いために、学校での成績が365人中360番まで落ちたこともありました。手の付けられない多動児で、毎日のように高いところに登っては、そこから飛び降りることを繰り返していた。中学のときは校舎の三階から飛び降りようとして、みんなから止められたこともありました(自分の中ではそんなに大それた挑戦だとは思っていなかったんですが)。


 社会人になっても問題行動ばかり起こし、まわりからは相変わらず「間違ってる」と言われ続けました(実は、作家になってもぼくは依然としてアウトサイダーで、いまだに場違いなところに迷い込んだ異邦人のような気分でいます)。


 これを読んでいると、市川作品の「まっすぐな甘さ」というのは、市川さんの想像や幻想をそのまま作品にしたもので、「死んだ人が生き返るわけないだろう」「そんな作品は昔からたくさんあるよ」というような「セルフツッコミ」に負けずに小説を完成させられたのは、市川さんの発達障害の賜物だったのではないか、と思うのです。

 「バランスのとれた人格を持つ人」であれば、あまりにも「純愛すぎる」と「これはちょっとやりすぎだよなあ」とためらって、中途半端な作品しか書けないこともあるのではないでしょうか。

 もうちょっと「リアリティ」がないとダメだな、などと考えたりして。


 市川さんのように「場違いなところに迷い込んだ異邦人のような気分」を抱えている人というのは、世界中に少なからず存在していて、その人たちは市川さんの作品へのシンクロ率が高かったのでしょう。

 

 マルケスの『百年の孤独』を読んだとき、「ああ、このひと、こっち側のひとだ」って、すぐに思いました。いま言ったようなやりかたで小説を書いている。なにげないところです。ほんの小さな描写、ディテールで分かってしまう。

 それをなんと呼ぶのかは自由だけど、とにかく「あのやり方」。

 見えてるものを描いている人間の凄み。

 マルケスこそが、「あのやり方」業界のトップに君臨する大親分です。

 そして、おそらくは宗教的な物語、神話や民話、おとぎ話なんていうのも、こんな感じで語られたんじゃないかと。


 市川さんは、多動的であったり、人と話し始めると延々と喋り続けたり、興味がないことはまったく記憶できない(でも、興味があることにはものすごい集中力を発揮する)などの行動パターンを子供の頃から示していました。

 学校でいじめられたこともあったし、成績も悪かったのだけれど、興味が持てた英語に関しては、トップクラスの成績だったそうです。

 大学卒業後に就職した会社は、発熱やパニック障害などのために3カ月で辞めることになってしまい、何をやってもうまくいかない時期もあった。

 小説を書き始めたこと、ネット上に公開したものが評判になったことによって、市川さんの人生は大きく変わったのです。

 けっして、順風満帆とはいかない人生だったのだけれど、市川さんは「自分に向いた仕事と理解し、支えてくれるパートナー」に巡り合ったことで、人生を素晴らしいものにすることができたのです。

 ガルシア=マルケスを引き合いに出すなんて!と一瞬思ったのですが、たしかに、ガルシア=マルケスら、ラテンアメリカ文学は「発達障害的な作品」とも考えられます。

 世界文学として評価されたのは、「世界中に、同じような感性を持つ人がたくさんいたから」なんですよね。


 市川さんは、この新書を「発達障害の当事者が、自分のことを思い切りポジティブに語る本」として書かれたそうです。

 ネットでは、「発達障害の苦しみ」を語っている人がたくさんいます。

 その一方で、世界を変えてきた偉人たちには、発達障害とされている人も少なくないそうです。

 この本のなかでは、織田信長やレオナルド・ダ=ヴィンチなどの名前が挙げられています。


 でも、「発達障害的なエピソードはたくさんあるけれど、とりあえずなんとか仕事を続け、家庭もある」という僕にとっては、「市川拓司さんは、人の縁と運に恵まれ、自分の才能を活かすことができるところにたどり着けた稀有な存在ではないか」としか思えないんですよね。

 当選者の存在がわからない宝くじよりは、当たった人が嬉しそうにしている宝くじのほうが、買ってみようというモチベーションは高くなるはずです。

 実際は「当たらない」んですけどね、宝くじって。

 それでも「もしかしたら、当たるかもしれない」ことに、夢を持てるのか。

 読めば読むほど「そう簡単に真似できるような人生ではないな」と感じてしまうのです。

 もちろん、この市川さんの「告白」で勇気づけられる人も少なくないと思います。


 この新書のなかで、市川さんは、こんな話を紹介しています。

 ユングっていうと、すぐ思い出すのが、ジェイムズ・ジョイスと娘の話。これが実に興味深い。

 ユングと知り合いだったジョイスは、あるとき、統合失調症を患っていた娘さんを彼に診てもらうんですね。で、診察が終わったあとで訊くわけです。

「どうだい? うちの娘はすごいだろう? 才能はわたし以上かもしれない」

 するとユングは、こう答えます。

「いや、あなたは、自分の深いところに潜っていくひとだが、娘さんは、ただ溺れているだけだ」

 ずっと昔に読んだ話なのでうろ覚えなのですが、まあ、だいたいはこんなふうだった。

 これを「客体化」の話と読むこともできる。

 無意識の底に沈んだ自分に没入しきってしまうか、あるいは、もうひとりの自分がそれを冷静に見つめているか。


 市川さんは、たぶん、「溺れずにすんでいる人」なのではないかと思います。

 少なくとも、自覚的、あるいは社会的には。

 ただ、これも「努力によって、『自分から潜る』と『溺れる』を切り替えられる」というわけではなさそう。それこそ「運」みたいなものです。


 発達障害だからといって「絶望」する必要はない、ということなのでしょう。

 でも、この体験談をどう受け止めて良いのか、僕は正直困惑してしまうのです。

 もっとも率直に言葉にすると「ラッキーな人だなあ」なのですけど。

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