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前年比に頼るのがキケンな理由 経営判断を誤る可能性も…… - 塚崎公義

塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

読者がテレビメーカーの社員だとします。前年同月にオリンピックがあってテレビが売れました。今月の売上げの前年比はマイナスでした。社長から「サボっていたのか?」と聞かれた時、どう答えれば良いでしょう? 簡単なのは「2年前、3年前の同月と比べて減っていないので、問題ありません」と答えることですが……。

 今回は、統計の前年比の問題点とその克服策について考えてみましょう。

前年比は便利だが……

 企業レベルの数字でもマクロ統計(日本経済のような国全体の統計)でも、前年比は便利です。多くの統計には季節性があるからです。たとえばチョコレートはバレンタインデーのある2月に良く売れますので、2月のチョコレートの売上げを1月と比べても意味はありません。しかし、前年の2月と比べて増えたか減ったかは重要です。バレンタインデーの影響を考えずに単純に比べれば良いからです。

 経済統計も同様です。6月と12月はボーナス月なので消費が多いとか、1月は工場の稼働日数が少ないので輸出が少ないとか、様々な季節要因があります。こうした要因をいちいち考えながら前月と比較して増えたか減ったかを論じることは生産的ではありません。そこで、前年同月比(または前年同期比)が多用されることになるのです。

 しかし、前年比に頼り過ぎると危険なことも数多くあります。冒頭の「前年同月の特殊要因」の場合は、その一つです。そうした問題を軽減する一方策としては、2年前同月比、3年前同月比を計算することが考えられます。経済統計の場合には、前年同月比の推移が発表される場合が多いので、それを用いて今月の前年比と、前年同月の前年比を合計すると、2年前比が求まります。3年前比も同様です。2年前比も3年前比も普通の値であれば、「前年同月が特殊だったので前年比は変な数字となっているが、今月の数字は特に問題無い」と考えて良いでしょう。

変化に気付くのが半年遅れる可能性

 売り上げに季節性が無い会社があるとします。毎月の売上高をそのままグラフにしたら、昨年初から減り続けていましたが、昨年12月が売上げのボトムで、1月以降は減って来たのと同じペースで売上げが回復しているとします。このとき、同社の売上げの前年比のグラフはどうなっているでしょうか?

 前年比のグラフは、1月が大きなマイナスで、2月以降はマイナス幅が徐々に減っていきますが、ゼロになるのは6月です。実際の売上高は1月から回復を始めているのに、前年比のグラフを見ている人が回復に気付くのは半年後の6月あるいは前年比がプラスになった7月なのです。これでは経営判断(マクロ経済指標の場合には景気判断)を誤ってしまいかねません。

 そこで、売上高に季節要因の無い会社は、毎月の売上高をそのままグラフ用紙に書き込んでいく事が推奨されることになります。

時にミスリーディングを誘因するグラフ

 ある時「石油ショック」が発生して原油価格が高騰し、そのまま推移したとします。ある国では原油価格の高騰を受けて、消費者物価指数が100から120に上がり、そのまま推移したとします。なお、この国の消費者物価指数には季節性は無いとします。

 このとき、この国の消費者物価指数のグラフは図1、消費者物価指数の前年比のグラフは図2のようになります。

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図1:消費者物価指数の推移

 図1は、素直に原油価格上昇を受けて物価が上がった姿を表していますが、図2はどうでしょうか? 物価が上昇した月の前年比は、当然ながらプラス20%です。その翌月もさらに翌月もそうです。しかし、12カ月経つと、物価の前年比はゼロになります。12カ月前には既に消費者物価指数は高かったからです。

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図2:消費者物価指数前年比の推移

 通常、物価は図2のような前年比のグラフを見ることが多いのですが、時々見かけるのが「石油ショックから1年経過して、ようやく物価も落ち着いて来ました」というコメントです。明らかに間違えていますね。新入社員が書いた原稿を上司がチェックせずに発表してしまった、ということなのでしょう。

 実際の物価は、石油ショックの翌月から安定していたのです。それに気付いたのが1年後だったというだけです。このように、前年比のグラフはミスリーディングです。物価のように、季節性が大きくない統計は、そのままの数字をグラフにすべきだと思っています。

前年比の問題点を解消する「季節調整値」

 チョコレートの売上げは、季節性が大きいので前年比で見る必要がある、と上に記しましたが、それだと売上げの変化に気付くのが1年後になる、等々の問題があります。そこで、チョコレートの売上げを前月と比べたい、というための工夫をしてみましょう。

 2月のチョコレートの売上げが普通の月の3倍あるとしましょう。2月の売上げを3で割ってグラフに記入すれば、前月と比べる事ができるでしょう。では、2月の売上げが普通の月の3倍あることを、どのように求めるのでしょうか?

 過去10年間の毎月の売上げのデータを用意します。全部合計して120で割り、1カ月当たりの平均を求めます。次に2月のデータだけを取り出します。全部合計して10で割り、1カ月あたりの平均を求めます。最後に2月の平均を全体の平均で割れば、2月が普通の月の何倍の売上げなのかがわかります。同じ作業を2月以外の月についても行なえば、グラフの完成です。

 これを「季節調整値」と呼びます。統計によっては、発表時に季節調整値も併せて発表される場合がありますので、その場合には季節調整値のグラフを見るようにしましょう。統計発表官庁の計算式は非常に複雑なようで、上記の方式で計算した結果と結構大きなズレが生じる場合もありますが、考え方としては上記で問題ありませんので、季節調整値が発表されない統計や、自社の売上げ等の分析には、上記の計算方法で充分対応できます。試してみてはどうでしょうか。

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