- 2016年06月21日 10:00
ゴーン社長が“三菱自動車を買う”真の狙い - 大前研一
なぜ三菱自の不祥事は繰り返されるのか
日産自動車と三菱自動車工業が幅広い戦略的アライアンスに関する覚書を交わして、日産が三菱自動車の発行済み株式34%を取得すると発表した。これによって日産は三菱重工業を抜いて筆頭株主となり、事実上、三菱自動車を傘下に収めることになった。軽自動車をつくっていない日産に三菱自動車が軽自動車をOEM(相手先ブランドで販売される製品を製造すること)供給するなど、両社はもともと協業関係にあった。それを実質的な身売りまで一気に加速させたのは、三菱自動車の燃費データ不正事件である。
この事件は国土交通省に提出する燃費試験のデータを捏造して、実際より燃費性能がいいように見せかけていたというもの。当初は軽自動車4車種62万5000台と発表された不正車は、過去13年間に販売された27車種、200万台以上に拡大する見通しだ。不正発覚のきっかけは顧客からのリコールでもなく、内部告発でもなく、皮肉なことにアライアンス先の日産だった。日産の軽自動車デイズシリーズは三菱自動車のOEM(同社eKシリーズ)だが、次期モデルの開発を日産が担当することになっていた。日産が現行車の燃費を測定したところ、届け出数値との乖離が見つかり、指摘を受けた三菱自動車が社内調査した結果、燃費をよく見せる操作が意図的に行われていたことが発覚したのだ。カタログなどに謳っている燃費性能は実際よりも最大15%前後かさ上げされていたという。三菱に問題を指摘した日産も、よもや燃費不正事件に発展して自社のデイズシリーズの売り上げに響いてくるとは思ってもみなかっただろう。
2000年と04年に大規模なリコール隠しが発覚して、三菱自動車は倒産の危機に追い込まれた。提携先のダイムラー・ベンツはトラック・バス部門だけ切り離して傘下に収め乗用車部門は「不要」という決断をしていた。取り残された乗用車部門は重工・商事・銀行のバックアップでようやく危機を乗り越えたかに思われた矢先に、今度の燃費不正事件である。なぜ三菱自動車の不祥事は繰り返されるのか。その答えは単純ではなく、複合的な原因がある。それを一つの結論に帰結させるとすれば、やはりトップマネジメントの責任ということになるだろう。
三菱自動車の歴代トップは重工出身者がほとんどを占めているが、6代目の中村裕一氏は技術者出身の生え抜き社長で、氏の時代にリコール隠し問題が起きている。「俺のつくった車に文句があるか」というタイプのワンマン社長が、社内で上がってきた顧客からのクレームを封印して、「そんなことを気にせずに売れ」と号令をかけ続けたことが最大の問題だった。その後は再び重工や商事出身のトップが続いたが、14年に自工出身の技術者である相川哲郎氏が社長に就任する。「三菱グループの天皇」と呼ばれた相川賢太郎氏(三菱重工相談役)を父に持ち「生え抜きエース」と言われた相川社長だが、燃費不正事件の責任を取る形で辞任を発表した。
燃費データの不正は、相川社長になる以前から行われていたようで、1991年から法令とは異なる方法で燃費試験を行っていたという。つまり、リコール隠しが発覚する以前から不正は常態化していたということだ。少なくても問題発覚の契機になった軽自動車(eKワゴンなど4車種)で不正が行われた背景について、三菱自動車は国土交通省に提出した調査報告書で3つの要因を挙げている。(1)燃費トップ達成のプレッシャー要因、(2)閉鎖性が強く不透明な組織、硬直化した人事などの組織的要因、(3)管理・検証意欲の欠如、業務委託先任せの対応、高圧的言動などの属人的要因。
重工出身の外様トップ、あるいは独善的な生え抜きトップの下で、現場は「ライバル社に負けるな」とむちゃな必達目標を設定され、実現するためなら机上の計算で数字を操作してしまう―。上からの命令には盾突けない、会社のためなら不正もやむなしというのはリコール隠しと同根の企業体質というほかない。
しかし、社内ではリコール隠しと燃費データの不正は異質なものという認識だったのではないか。そうでなければリコール隠しであれだけ叩かれた裏で、燃費データの偽装は続けられないだろう。リコールと違って燃費性能を少々いかさましても人命には関係ない。自分たちより研究予算が何倍もある相手と競争しているのだから、計算機で数字合わせしても仕方ない、くらいの感覚だったのだろう。相川賢太郎氏が雑誌のインタビューで「燃費なんてコマーシャル。乗る人はそんなもの気にしてない」という意味の発言をして物議を醸したが、実際その通りだと思う。車の燃費というのは運転のうまい人と下手な人で3割も4割も違ってくる。走路や走行条件、燃料、エンジンの寿命によっても違う。メーカーが発表する公表燃費など、ほとんど意味がないのだ。
各メーカーは新車の型式認定を取るときに、燃費データを提出する。しかし、その届け出数値が正しいかどうか、国土交通省はチェックしていない。つまり燃費性能はメーカーの言い値でOKなのだ。競合相手が燃費性能のいい車を出せば、それに合わせて、はたまた上回るように自分たちの車の燃費を上げていくという燃費競争の構図は、そうした業界の慣習にも起因している。その後発覚したスズキの燃費不正が「海風の影響を受けにくい独自の試験方法でやっていた」ことも国土交通省の定めた試験方法が広く受け入れられていないことを印象づけた。届け出だけさせて管理できないなら、国土交通省がでしゃばらないほうがいい。カタログの燃費なんていい加減なものだから、すべて自己責任で買いなさい、とやればスッキリする。国土交通省がのさばるなら、燃費の検定機関をつくるなりして、違反した車種の型式認定を取り消すくらいまでするべきだ。
900万台超でGMやVWが視野に入る
燃費不正問題で三菱ブランドは地に墜ちた。今後の三菱自動車を巡っては3つの可能性があったと思う。1つは東風汽車・中国第一汽車など中国メーカーへの売却。世界で最も厳しい排ガスなどの環境規制への移行が見込まれる中国のメーカーとしては三菱自動車の技術力や経験は魅力的だ。2つ目はグーグル、アマゾン、テスラモーターズなどの米国勢。電気自動車や自動運転車などの開発を本格化していくうえで、実際の製造技術と工場を持つ三菱自動車は狙い目だろう。
そして3番目がアライアンス関係にあった日産自動車による買収。時間が経てば上記2つのカテゴリーの会社が救済に走るのを見抜いたカルロス・ゴーン氏の決断と行動力はさすがで、三菱自動車の発行済み株式(拒否権を持つことになる)34%を2370億円で取得するというが、日産にとっては安い買い物だ。
まず日産にとって大きなメリットは「シェア」の獲得である。新車販売台数における日産のシェアは11.1%で、三菱は3.2%。数字だけを見ると三菱の影響力は小さいようだが、実際には日産の製造も三菱が担当しているから、数字以上の効果が期待できると思われる。新車販売台数全体で見ると、三菱は約100万台、ルノー・日産が約852万台だから合わせると900万台を突破する。そうなればGMやVWが視野に入ってきて、一気に世界トップ2、3に食い込める可能性が出てくる。日産にとっては千載一遇のチャンスだ。
またロシアやオーストラリアなどの地域における「三菱のブランド力」も大きい。特にゴーン氏の頭の中にあるのは、数年前にアフトワズ社の経営権を取得(株式を50.1%保有)した「ロシア」だろう。
パリ・ダカールラリーを行えるような荒地が広がるロシアでは、パジェロ、ランサーを擁する三菱ブランドは圧倒的に支持されている。三菱自動車はパジェロの開発を中止する意向だが、ゴーン氏は復活させると見る。さらに、インドネシアやかつて工場があったオーストラリアでも、三菱ブランドは人気が高い。ルノー・日産があまり得意でない地域で、三菱のブランド力を大いに活用できるだろう。
さて、34%まで三菱自動車株を保有したゴーン氏は今後どう動くのか? 燃料不正問題の損害賠償で莫大な損失が出るのは間違いない。三菱自動車の上場を維持したままにしておけば、大規模な損失を計上したときに三菱自動車の株価は一気に下落する。その最安値でゴーン氏は三菱自動車の株を買い増そうとしているのではないかと私は睨んでいる。購買と開発をルノー・日産グループと統合する、ということは今後三菱自は独立ではやっていけない会社になるということだ。
34%の株を保有しているのは、そうした動きを制約されないために、他人にちょっかいを出させないために、拒否権だけは確保した状態にしているのだろう。ゴーン流のしたたかさを三菱グループは見抜いているのか、大いに注目していきたい。
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