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二重ローン対策〜「絵に描いた餅」で終わることが目に見えているお化粧スキーム

「ファンド」という単語が持つ「魔力」に期待したのだろうか。政府は17日、東日本大震災の被災者や被災企業が抱える「二重ローン」問題で当面の対応方針を公表した。民主党、自民党、公明党の3党も政府方針を大筋追認する「一次合意」を公表した。
その内容は、「再生可能な」中小企業支援の受け皿として、独立行政法人の中小企業基盤整備機構や自治体、民間金融機関などの出資でつくる「中小企業再生ファンド」を立上げ、債権買取りや出資、債務の株式化で、企業の返済負担を軽減させて再生を支援するというもの。ただし、債権を買い取る公的機関の新設や個人への利子補給など「官」の支援拡大の是非は継続協議となり、現時点では具体的合意ではなく、大筋合意の段階。

ライブドア事件や村上ファンド事件、リーマンショックなどで悪玉に仕立てられた感の強かった「ファンド」が、被災地の中小企業の再生に「魔法」をかける主役に祭り上げられた格好。そして、こうした「ファンド」を利用したスキームを持ち出すということは、政策当局者は実際に「ファンド」を理解していないということの証左でもある。

こうした債権買取りスキームは、関係者の利害関係調整が難しく、実現に向けてのハードルは極めて高いというのが現実である。大筋合意の段階でも、幾つもの現実的な問題点が浮かんでくる。

まず、現実問題として認識しておくべきことは、金融機関ごとに貸出審査基準がことなるという現実である。さらに、「再生可能な」となるとその判断基準は極めて曖昧になり、金融機関ごとに判断は大きく異なって来る。そして、本当に「再生可能な」中小企業であれば、金融機関が債権譲渡などする必要性は乏しく、「ファンド」には「再生困難な」債権が集まり易くなる。

さらには、「民間金融機関などの出資でつくる」という点も大きな問題。複数の金融機関が出資して設立する「ファンド」に、複数の金融機関がそれぞれの基準で判断した債権を譲渡するとなると、出資した金融機関は、自行と異なった判断基準で貸し出された債権のリスクを抱え込まなければならなくなる。要するに、複数の金融機関から出資を受ける形での債権買取りスキームは、自行の基準では貸し出さなかったはずの企業がデフォルトした際に、その損失を共同責任で負わなくてはならなくなる、というものである。

平成11年から石原都知事が中小企業支援を目的に提唱している「ファンド」を利用した「東京都債権市場構想(CLO/CBO)」が、なかなか浸透しない背景の一つとして、こうした現実がある。結果的に、「ファンド」に債権譲渡するのは、CLO/CBO組成の中核となるメガバンクが殆どになっているのが実態である。
東京都のようなメガバンクが主導出来る大きな経済圏ですら上手く機能しない債権買取りスキームが、震災地という限られた経済規模の中に複数の金融機関が混在する地域で上手く機能すると考えるのは非現実的である。さらには、平時ですら難しい「再生可能な」中小企業の選別を、震災で全て失ってしまった状況で行うのは殆ど不可能と言わざるを得ない。

政府は国民の負担がない様に見える様にお化粧をするのに必死になって、国民の殆どが知識を持たない「ファンド」を持ちだして来たのだろう。残念ながら、それによって、政策立案者達は自らが、東京都が10年以上実施して来ている「東京都債権市場構想」について、何の分析・研究もしていないことが露呈してしまった。マスコミ自身もこうしたスキームに関しては何の知識を持たない為に事実を伝える伝書鳩になってしまっているが、「絵に描いた餅」に終わることが目に見えているお化粧スキームに時間を割くのは正直言って無駄でしかない。

今回の様な未曾有の災害時には、金融機関に債権放棄による無税償却を認め、自己資本拡充が必要ならば公的資金を投入するというもっとシンプルな手法か、共同責任ではなく債権買取りを1社単独責任で行える会社を見つけること(恐らく存在しない)で対応をすべきである。

増税か電気料金値上げ以外にファイナンスの手立てがない東電救済スキームといい、政策当局者の金融に関する理解は極めて低い。多くの国民の目に美しそうに映り、実務経験のない学識経験者、マスコミから批判が出難いスキーム作りを目指しているかのような今の政策対応では、基本的に誰も救われることはなく、近い将来その副作用に多くの時間を割かなくてはならなくなることは必至である。有事の際だからこそ、姑息なスキームを捨て、もっとシンプルに対応すべきである。

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