「一流大学を卒業しても必ずしも豊かな人生を送れるとは限らない」との意見を頂いたので、米国の大学受験対策の費用対効果を推定してみよう。
米国は教育投資収益のデータ収集が日本に比べてとても進んでいる。リンクは、Pay Scaleがまとめた大学進学の教育投資に対する卒業後20年間の高卒に対する超過収益である。
地域によって物価や賃金水準が違うのでマサチューセッツ州を例に取って、授業料や寮費を差し引いた純収益を比べてみると次のようになる。
マサチューセッツ大アマースト校(州立トップ校):33万4千ドル
ハーバード大:41万9千ドル
マサチューセッツ工科大:57万4千ドル
ハーバード大を卒業しても、アマースト校を出るよりも20年で8万5千ドルしか多く稼ぐ事ができない。この差は人々が想像するよりもはるかに小さいのではないだろうか。しかもこの差は、ハーバード大に入る子が元々優秀であったり、家族が強いコネを持っていたり、という点を考慮すれば、むしろ若干過大評価されていると考える方が自然であろう。
この差を受験準備にかかる時間で割ってみよう。仮にハーバード大に入るために高校の最初の3年間で毎日3時間多く勉強や課外活動に使う必要があるとするなら、合計で約3300時間を投資していることになる。一時間当たりに直すと26ドルほどだ。マクドナルドで小遣い稼ぎをするよりはマシかも知れないが、個人的には、前途有為な少年少女が貴重な青春期にいわば「残業」して稼ぐ額としては案外少ないのではないかとも思う。前提を少し変えて、毎日2時間の投資で済んだとしても一時間当たり39ドルにしかならない。
一方、マサチューセッツ工科大に行くと、ハーバード対比で超過収益は15万5千ドルとなる。人気やブランド力、入学難易度ではハーバード大の方がやや上なので、これは主に専攻分野の差で説明される。科学工学分野の卒業生の年収は、社会科学や人文科学、美術などの専攻の卒業生に比べて高いからだ。ハーバードでは科学・工学を専攻する学部生は約4割だがMITではほとんどの学生が科学・工学を専攻する。この60%の差が15万5千ドルの所得差に繋がるというわけだ。科学工学分野を学ぶ高校生が、仮に1日の勉強時間の過半、5時間程度を数学、物理、化学などに振り向ける必要があるとしてみよう。これは3年間で5500時間になるので、15万5千ドルを60%で割り、更に5500で割ると1時間当たり47ドルとなる。この金額は「残業代」ではなく、文学や歴史の代わりに数学や物理を1時間勉強する時の報酬だと考えればいい。この報酬が多いか少ないかは個人の好みによるだろうが、これらの分野に少しでも興味がある学生ならかなり魅力的に映るかも知れない。
ラフにまとめると、いくつかの前提の下、米国の高校生は国語や社会、外国語を勉強すれば追加1時間あたり26ドル、数学や物理、化学を勉強すれば追加1時間あたり26ドル+47ドルで73ドルの報酬が得られるのと同じという試算が可能ということになる。
勉強の付加価値はそれなりに高いが、驚くほどの金額ではない。誰もが一流大学を目指す必要はなく、あくまで個人の価値観に沿って判断する方が人生の満足度を高めるのではないだろうか。
記事
- 2016年06月20日 19:00
大学入試対策の労力はペイするのか?ー米国のデータから試算
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