記事

「官から民へ」向う米国経済と、「債務再編」に向かうユーロ

注目された4月の米雇用統計が発表された。その内容は、事業所調査に基づく非農業部門雇用者数が事前予想を上回る前月比24万4000人増加と、2010 年5月以来で最大の伸びを記録する一方、家計調査に基づく失業率は9.0%(前月8.8%)と昨年11月以来初の上昇を記録するという、何とも微妙なものであった。

非農業部門雇用者数は2月と3月分が上方修正され、この2カ月間の雇用者数は前回発表からさらに4万6000人増加し、雇用者数からは雇用情勢が好転していると言える。それに対して、失業者に加え、経済悪化でパートタイム就労を余儀なくされている労働者や職探しを諦めた人などを含む「広義の失業率」は、15.9%と3月の15.7%から0.2%上昇し、2月の水準に逆戻りしてしまっており、失業率から見ると米国の雇用情勢は依然として厳しい状況にある。

こうした中で特徴的なことは、民間部門の雇用者が26万8000人増加と2006年2月以来で最大の増加幅となったのに対し、政府関連機関の雇用が2万4000人(内地方政府は1万4000人)減少したこと。 雇用統計から垣間見える米国経済の姿は、政府の財政問題の悪影響を受けつつも、民間部門の健闘で「官から民へ」という流れは継続しているというもの。この辺りが過剰な政府部門を抱えて財政危機に陥った欧州の一部の国との違いで、米国経済の健全なところ。

今回の雇用統計の内容は、直ぐに FRBに利上げを迫る程強いものではなかった。政府部門が雇用回復の足手まといになっている状況での利上げは、民間部門の健闘で保たれている「官から民へ」という流れを止めかねない危険な賭けになってしまう。FRBにとっては、税収が予想を上回るという足下の状況が続き、政府部門が雇用の足枷にならない状況になってからの利上げが理想形といえる。

米国雇用統計以上に金融市場に衝撃を与えたのが、ギリシャのユーロ圏離脱観測報道。米国の非農業部門雇用者数が予想を上回るものだったことを好感して上昇していた米国の株式市場がこの報道を受け急速に上昇幅を縮めた他、為替市場ではユーロがユーロは主要16通貨すべてに対して下落。ドルに対しては過去1年で最大の下げを記録した。

ユーログループのユンケル議長(ルクセンブルク首相)は6日、ルクセンブルクで開催されたドイツ、フランス、イタリア、スペインの財務相による会合では、ギリシャのユーロ圏離脱および債務再編の可能性について協議されなかったと言明。「ギリシャのユーロ圏離脱については協議していない。それは愚かな考えだ。われわれは決してそうした選択肢を選ぶことはない」と主張すると共に「債務再編の選択肢についても排除している」と述べた。

ユンケル議長はギリシャのユーロ圏離脱と債務再編に関しては明確に否定したが、こうした懸念を金融市場から完全に払拭することは難しい。ただし、選択肢としては、ギリシャのユーロ圏離脱は「ユーロ崩壊」に繋がりかねない為、「債務再編」の方が実現的な選択。

先日、ギリシャの「デフレ政策による財政再建計画」が、予想以上の景気悪化によって計画通りに進んでいないことが明らかになった。これは当然のことで、企業経営においても、コスト削減だけで企業の再建が出来ることはない。コスト削減の次に行われるものは「債務再編」である。
ギリシャという国家に当てはめても、「デフレ政策」によるコスト削減の次に行うべきことは「債務再編」以外にないのが現実である。ギリシャの「債務再編」を恐れて「ユーロ崩壊」を招くような愚かな選択肢は有り得ないので、最終的にユーロはギリシャの「債務再編」に踏切る可能性は高い。

そもそも、国家の「債務再編」はそれ程珍しいものではない。菅直人首相が2011年1月10日に八重洲ブックセンターで購入したと報道されたフランスの経済学者ジャック・アタリ氏の著書「国家債務危機」には、「1800年から2009年にかけて対外債務に対するデフォルト(債務不履行)が250回、公的債務に対するデフォルトが68回も発生している」と記されている。
我々の記憶に新しいところで言えば、1998年のロシア危機でロシアは「対外債務の90日間支払停止」という債務不履行に陥ったし、2001年にはアルゼンチンが対外債務1500億ドル(約20兆円)に対する利払いを停止するという史上最大の国家の破産宣言を行った歴史がある。
結局のところ、「過剰な対外債務による財政危機は、『債務再編』でしか解決出来ない」というのが歴史の示している結論である。

「タカ派」であったトリシェECB総裁が、今月突然「ハト派」に転じた背景には、ギリシャのユーロ圏離脱観測があったと推察される。理由はともあれトリシェ ECB総裁が「ハト派」に転じたことや、CFTCのデータで大口投機家の対ドルでのユーロのロングポジションが99,516枚買超と大規模なユーロ買いに偏っていること、ギリシャ危機が新たな段階に入りつつあること、米国経済が曲がりなりにも民間主導で回復基調にあること等々を考えると、これまで続いて来たユーロ高基調は一旦終了する可能性が高い。

ユーロ高基調が変化し、「相対評価」でドルが見直されるとしたら、ドル建て表示となっている資源価格にも大きな影響を与える筈である(資源価格の下落)。さらには、ドルの上昇は、ドルを調達通貨とする「ドル・キャリートレード」の巻き戻しを誘発する要因にもなるものである。

今回ギリシャのユーロ圏離脱観測報道は、真偽のほどは別にして、金融市場の流れを大きく変えるきっかけを与える大きな報道になりそうだ。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「スゴイ日本!」ばかりのテレビ五輪放送。在留外国人は東京五輪を楽しめるか

    Dr-Seton

    08月05日 08:29

  2. 2

    淀川長治さんが『キネマの神様』を絶賛?CMに「冒涜」と映画ファン激怒

    女性自身

    08月05日 09:07

  3. 3

    環境省がエアコンのサブスクを検討 背景に熱中症死亡者の8割超える高齢者

    BLOGOS しらべる部

    08月04日 18:05

  4. 4

    中等症めぐり政府の揚げ足を取る毎日新聞 いい加減な記事を出すのは許されるのか

    中村ゆきつぐ

    08月04日 08:26

  5. 5

    中等症入院不可…専門家の意見を聞いていなかったとは

    大串博志

    08月05日 08:22

  6. 6

    強行放送!緊急事態宣言下の24時間テレビは「ジャニーズ祭り」

    渡邉裕二

    08月04日 08:04

  7. 7

    患者対応をめぐる行政と開業医の役割分担 国会議員がルール化する必要性を橋下氏指摘

    橋下徹

    08月04日 12:14

  8. 8

    ベラルーシ選手はなぜ政治亡命したのか ルカシェンコ政権の迫害ぶりを示した東京大会

    WEDGE Infinity

    08月05日 09:18

  9. 9

    テレビ放映権中心に回り夏開催される五輪 舛添氏が改革案を公開

    舛添要一

    08月05日 08:33

  10. 10

    ワクチン完全接種5割の8月末まで好転無しか

    団藤保晴

    08月05日 09:02

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。