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「違法発言!」と口を押さえつけようとする人たち

 自由民主党所属の衆議院議員、菅原一秀氏が、東京都知事選をめぐる党会合で、都議選への出馬が取り沙汰されている民主党の蓮舫代表代行について「五輪に反対で、『日本人に帰化をしたことが悔しくて悲しくて泣いた』と自らのブログに書いている。そのような方を選ぶ都民はいない」などと、発言をしたことが問題になっている。(*1)

 菅原氏は取材に対して「帰化した人が知事になってはならないという趣旨ではない」と言っているが、ならなおさら「帰化したことが悔しくて泣いた」などという発言をする必要はない。

 蓮舫氏は産まれながらに台湾国籍と日本国籍を持つ多重国籍者であったが、日本の法律上、日本国籍を保持するためには22歳までに国籍を選択する必要があり、日本国籍を選択したという話である。

 それを「帰化した、純粋な日本人ではない」などと揶揄するような情報をやり取りしているネットなど、ネットの中でも相当下劣な場所だろう。そうした場所で得た情報を、さも真実を得たかのように得意気に党会合という場で口にしてしまうということが、いかにマヌケで恥ずかしい行為であるか、菅原氏は気づかなかったのだろうか?

 だいたい、ハワイに行くのが一生の夢だった白黒テレビの時代じゃあるまいし、両親の国籍が違うことなど珍しくもない現代において、いまだに帰化だなんだということが揶揄の対象になると思っている時点で情けない。いかにも世界に対応できない、日本に引きこもった古臭い脳にカビの生えた保守政治家が口にしそうなことである。

 だいたい、自分から日本国籍を得ることを選択した、もしくはせざるを得なかった人たちに対して、たまたま日本人の両親の元で日本に産まれただけの、気づいたら日本国籍だったというだけの人が、何をさも何らかの優位性があるかのように主張しているのか、菅原氏と同じ、たまたま日本国籍だった僕としては、さっぱりわからないのである。

 さて、ここまではよくある、馬鹿げた帰化批判に対するテンプレートのような反論ではあるのだが、今回はもう1つ、無視できない主張がネット上で見られた。

 それは、この菅原氏の発言に対して、こうした論理だてての反論をするのではなく「違法行為だ!」として、法的根拠をもって弾圧しろとする主張である。

 この発言を違法とする根拠は、今年の6月3日に公布、施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律」。要約すると「ヘイトスピーチ解消法」だ。(*2)

 菅原氏の発言を「違法」とする側は、菅原氏の発言をヘイトスピーチであると批判し、この法律が違法の根拠であるとしている。

 しかし、条文を読めばわかるが、この法はあくまでも海外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みを推進するための法であり、ヘイトスピーチを直接禁止するための法律ではない。特に条文の中で主語が「国民」である第三条は重要で、国民に対する命令はあくまでも「差別的言動のない社会の実現に寄与するように努めなければならない」という努力規定でしかない。

 菅原氏の発言は、もちろんその努力を無にしたり、無視するものではあるが、少なくとも彼の発言が違法であるという根拠はヘイトスピーチ解消法には存在しない。にも関わらず、ネット上では「違法だ!」として彼の発言を一方的に押さえとけようとする人たちがいるのである。

 少なくとも彼らは自分たちを正義の側だと思っている。悪いことをするやつを批判しているのだと思っている。しかし、実際の社会では絶対的な正義もなければ、絶対的な悪もない。批判というのはあくまでも相手の人権を尊重してこそ成り立つのであり、他人の発言を「違法」として口を塞ぐやり方というのは、そもそも相手の人権を国家権力によって踏みにじる行為に他ならない。それは決して批判などではなく、一方的な弾圧である。

 そうした社会では「批判」は成り立たず、論理は正義と悪に二分化され、その区分は国に委ねられる。かつて「治安維持法」によって国にとって不利益であると国が判断した発言が排除された結果、かつての日本は戦争に突き進んだのである。

 僕は「ヘイトスピーチ解消法」というのは、将来の治安維持法につながりかねない危険な法律だと考えている。単に「国旗は日章旗、国歌は君が代」と規定しただけの国旗国歌法が、今や学校教育における日の丸掲揚、君が代斉唱を押し付ける根拠として利用されているのと同じように、ヘイトスピーチ解消法もやがて「国の想定する正義」のために他者の発言を押さえつける法として機能するようになると考えるのは、全く大げさな考え方ではない。

 実際に今回程度の発言ですら、菅原氏に対する批判が最初から無視され、菅原氏に対する弾圧を求める声が挙がっているわけで、そうした「気に入らない相手を法的に弾圧しよう」という動きは、今後活発になるだろう。日本はもうギリギリのラインを踏み越えてしまったのかも知れないと僕は思う。

(*1)「蓮舫氏は帰化し泣いた」自民・菅原氏発言、後から訂正(朝日新聞デジタル)
(*2)ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動(法務省)

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