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- 2016年06月17日 15:33
人工知能の未来-識者4人に聞く
2/2・われわれの脳の向上
AI登場までに人間の脳を鍛える必要性について:ペイパルとファウンダーズ・ファンドの共同創設者、ルーク・ノセック氏今年初め、世界最強と言われる韓国のプロ棋士、李世ドル九段が、グーグル子会社が開発したAIコンピュータープログラム「アルファ碁」と全5戦の歴史的対局を行った。李氏は国際棋戦で18度の優勝を誇る。2016年3月19日、李氏はアルファ碁に負けた。
今日の高性能コンピューティングは、かつて例を見ないほどパワフルだ。それでも、人間の脳が持つ能力に匹敵する汎用人工知能(AGI)(別名「ストロングAI」)の開発からは依然ほど遠い。われわれはAGIがどのように機能し、われわれの生活や経済にどのような影響を与えるかをまだ理解していない。その影響の度合いはしばしば核技術の出現と比較され、物理学者のスティーブン・ホーキング博士から電気自動車大手テスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)、アルファ碁の開発者に至るまであらゆる人がAIの開発を慎重に進めるべきだと忠告している。
核との比較は強烈ではあるが適切だ。核技術と同じく、ストロングAIは最悪の場合、世界を壊滅させる可能性をはらんでいる。つまり、悪意を持ったスーパーインテリジェントAIが人類と敵対し、殺そうとする可能性だ。逆に、楽観的な予測は極端に前向きだ(世界的な経済の繁栄や病気の撲滅など)。われわれは過度の恐怖と楽観主義の双方に偏っているのかもしれない。
ストロングAIは、数十億人の人々がより安全で健康で幸せな生活が送れるようにしてくれる可能性がある。しかし、そうした機械を設計するには、賢い人間と機械が共存する社会が直面する複雑な社会的、神経学的、経済的現実について、エンジニアが深く理解している――現存する誰よりもはるかに深く理解している――必要がある。また、われわれが既に持つ脳をもっと向上させれば、ストロングAIを概念化および製造し、それと共存する態勢がさらに整うだろう。
人間の知能の向上は3段階に分けることができる。第1段階は、グーグル検索などの技術を使用して人間の脳を拡張・補足することで、これは順調に進んでいる。1996年当時の小学生には図書館しかなかったが、2016年の小学生にはグーグルのホームページがある。キーボードをたたくだけで、人間の知識の多くを得られるようになった。
第1段階が脳を技術で補うことだとすれば、第2段階は脳を直接増強することだ。適応学習ソフトウエアを使えば、教育を各個人に合わせてカスタマイズし、授業をリアルタイムに調整できる。生徒が優秀な場合はペースが速くなる。生徒が困っているようであれば、ペースを落とし、教え方を変えるか、助けが必要であることを指導者に知らせる。適応学習とオンライン教育は汎用教育の終わりを意味するかもしれない。仮想現実(VR)と拡張現実(AR)を組み入れることで、予想もしない形で知能を増強できる可能性もある。
第3段階は、脳の根本的な変換だ。電磁コイルを脳に当てる「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」は、米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた非侵襲性の治療法の1つ。TMSは現在、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や自閉症、うつ病の治療に使用されている。カリフォルニア州ニューポートビーチの脳治療センターやケンタッキー州のルイビル大学などの治療施設のサンプルサイズは小さく、影響期間も不明だが、かなりの割合の患者――高機能自閉症患者200人を対象にした治験の最大90%-が改善を見せていた。初期の兆候からは、TMSが幅広い一見無関係に見えるさまざまな神経系疾患に効果がある可能性がうかがえる。傷ついた脳や非定型発達の脳にポジティブな影響を与えることができるとすれば、健康な脳と知能の向上を一般化された方法でより強く関連づけられるようになるのは、さほど遠い将来のことではないかもしれない。
ストロングAIは近い将来開発されるかもしれないが、今われわれにあるのは人間の脳だけだ。われわれ自身の知能を向上させることが、将来の賢い機械の開発と共存に向けた第一歩だ。
・機械に常識は教えられない
少なくとも今はまだそうであり、本当のAIを開発する上で最大の障害がこれだ「予測学習」または「教師なし学習」は、動物や人間がこの世界を理解するようになるための基本的な方法だ。例えば「ジョンは電話を手に取り、部屋を出た」という文章を読んだとき、われわれは経験から電話は恐らく携帯電話のことで、ジョンはドアから出ていったのだろうということが分かる。この世界の表象を持たず、さまざまな制約がある機械は、そのような情報を推察することは決してできないだろう。機械の予測学習は非常に重要ではあるが、まだ未開発の機能だ。これが実現できれば、AIは子供と同じように人間の監督がなくても学習できるようになるだろう。しかし、常識をソフトウエアに教えることは、単なる技術的な問題にとどまらない。根本的な科学的・数学的難題であり、解決に数十年かかる可能性もある。それまでは、われわれの機械は決して本当の意味で賢くはなれない。(ヤン・ルカン氏)
- ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
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