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『人民日報』に掲載された習主席批判記事 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授澁谷 司


 今年6月13日付『人民日報』《思想縱横》に、侯立虹の「最高指導者はどのように名実ともに成りうるか」という一文が掲載された。この記事は暗に習近平批判を展開している。以下がその概要である。
 現在、1人の最高責任者が政治・経済・外交・改革の深化等のすべてを仕切っている。けれども、1人の人間がすべてのグリップを握ることには限界がある。最高指導者は、大航海時の舵手のように、どの方向へ行くかを指し示すだけで良い。

 もし、自分が1番だと思い込み、自分の講話を政策にすれば、傲慢かつ尊大で、唯我独尊となり、往々にして天寿をまっとうできない。

 実際、2013年、習近平主席は党内の「四風」(形式主義、官僚主義、享楽主義、贅沢)について言及した。その後、習主席の話が政策となり、中国共産党の党紀にまでなっている。

 記事は、必ずしも、習近平主席を名指しで批判しているわけではない。これは、中国人のしばしば使用する「指桑罵槐」(桑を指してエンジュを罵る)の手法を採っている。

 しかし、これを読めば、すぐに誰に対する当てつけかがわかるだろう。おそらく、李克強首相周辺(あるいは李首相を担ぐ人)が習主席に非難を浴びせたのである。

 先月5月9日付『人民日報』では、習近平主席側近の「権威人士」(政府中枢要人。劉鶴と言われる)による中国経済を診断した記事が掲載された。

 その「権威人士」の分析によれば、今後、中国経済の「U字回復」は難しい。数年は「L字型」状況が続くと言う。

 これは、習主席周辺による李克強首相批判であった。今回は、その李批判に対する反論だろう。

 周知のように、『人民日報』は新華社とCCTV(中央電視台)共に、中国共産党の宣伝を担う。「党の舌」とも言われる。

 今年2月19日、習近平主席が突然、これら3つのメディアを訪問し、党への“絶対的忠誠”を求めたことは記憶に新しい。ここから、共産党内では、あらゆるメディアを使った激しい党内闘争が開始されている。

 翌20日、1番早く習近平主席を批判したのは、習主席と同じ「太子党」の任志強だった。実業家の任志強は、少なくても3700万人以上のフォロワーがいる有名ブロガーだった。その歯に衣着せぬ舌鋒の鋭さに「任大砲」とさえ謳われた。その任志強が「人民政府はいつから党政府に変わったのか?(人民政府が)使っているカネは党費なのか?」と習主席を非難したのである。

 まもなく任志強のアカウントは当局によって閉鎖された。そして、先月の5月2日、任志強は当局から共産党の厳重なる政治紀律違反だとして、1年間の観察処分を受けた。ただし、任は党を除名されていない。これは、習近平主席の盟友、王岐山が弟子の任志強を庇ったため、処分が軽くなったと思われる。

 その後、相次いで、党内や一部の中国メディアから習主席への反発が見られた。それらは、ネット上であったり、地方新聞だったりした。

 今年3月、少なくとも2度、習近平主席に対し、ストレートな辞任要求が行われている。1度目は、ネット上の『無界新聞』(新疆ウイグル地方政府系サイト。馬雲<ジャック・マー>が関与か)であり、2度目は、『明鏡新聞網』(米国ニューヨークに本部)上だった。

 また、今年3月の全人代期間中、新華社が習近平主席の肩書きを“最高の指導者”とすべきところを、“故意”に“最後の指導者”とした。確信犯である。編集者らは処分を受けた。

 他方、馬雲のアリババ集団傘下の香港『南華早報』(『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』)紙が、今年3月末、本来、2015年に徐才厚が“死亡”したとすべきところを、わざと習近平主席が“死亡”したという誤報を流した。

 ところが、今回、党内闘争の主戦場がついに『人民日報』へと移った。この党の重要メディアに対し影響力があるのは、「上海閥」の劉雲山(政治局常務委員)である。

 きわめて単純化すれば、劉雲山が「太子党」の習近平主席と「共青団」の李克強首相を戦わせようとしている(「上海閥」は高みの見物をしている)可能性も排除できない。

 それとも、「上海閥」は憎き「太子党」を叩くために「共青団」を応援しているのだろうか。 今後、共産党内闘争のゆくえは予断を許さない局面に突入した。



澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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