- 2016年06月17日 13:04
トランプ似の前ロンドン市長もトランプも 温暖化懐疑論者なのはなぜか? - 山本隆三
舛添都知事の海外出張費用が話題になった際に、英国のカリスマ政治家として知られる保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長が東京に出張した際の費用との比較をしたマスコミがあったので、最近前市長の名前を知った方もおられると思う。
英国では6月23日に欧州連合(EU)残留か離脱かを決める国民投票が行われる予定だ。ジョンソン前市長は、政権与党がEU残留を支持するなかで、与党に属しながら離脱を主張している有力政治家の一人だが、EUについて過激な発言をし、物議を醸している。
トランプに似た風貌
その風貌は米国共和党の大統領候補になったドナルド・トランプ氏に少し似ているところがあり、最近ニューヨークを訪問した際にトランプに間違われたとテレビ番組でジョンソンが明かした。街頭で写真撮影を行っていた際に、歩道を歩いていた少女に「あら、トランプじゃない?」と言われ、ジョンソンは「人生で最悪の瞬間の一つだった」とぼやいた。トランプが大統領になることについて真剣に悩んでいるとも語っている。
ジョンソンには嫌われているトランプだが、かつてEUの本部があるブリュッセルを「イスラム教に感染された地獄」と呼んだこともあるほどなので、当然英国はEUを離脱したほうが良いとの意見だ。また、2人ともに地球温暖化は発生していないとする温暖化懐疑論の立場は共通している。2人が同じ立場を取るのは共通する政治信条があるためだ。その政治信条を説明するためには、英国のEU離脱派の現状から説明する必要がありそうだ。
英国のEU残留か離脱かの選択
2015年の総選挙に際し、キャメロン首相は英国とEUとの関係を改善し、その上でEUに留まるか、離脱するか国民投票を行うと公約した。EUとの加盟条件の再交渉の結果、今年2月に英国は移民の福祉利用の制限などEU内での特別な地位を認められたことから、6月23日に国民投票が実施されることになった。英国は1973年にEUに加盟したが、2年後の1975年にEU離脱か残留かの国民投票が行われたことがある。その時には残留支持が67%と多数を占めた。しかし、加盟国が28ヵ国まで拡大し、移民、さらには中東からの難民という難しい問題を抱え、欧州委員会(EC)の権限が強くなった現状は当時とは事情が異なる。
英国政府のオズボーン財務相はEU離脱により英国経済は6%縮小すると警告したが、残留を支持する政権は無論のこと、IMF、OECDなどの国際機関、あるいは英国産業連盟(CBI)などによる離脱か残留かを分析したレポートは、総じて残留にメリットがあるとの意見だった。例えば、CBIはEU離脱により2020年までに失われる算出高は1000億ポンド(15兆円)に達し、最大95万人の雇用が失われ、2020年の失業率は2、3%高くなるとしている。米国のオバマ大統領もEU残留を支持しており、もし離脱し米国と貿易条件の交渉が必要になるならば、交渉の待ち行列の最後に並んでもらうことになると述べている。
それでも、英国内では離脱を支持する声も多く、最近の世論調査では残留か離脱かは拮抗している。6月6日付けフィナンシャルタイムズ紙では45対43で残留が優勢、6月12日付けインディペンデント紙では55対45で離脱が優勢となっている。離脱支持派の主張は、ECの権限が強くなり過ぎたこと、英国の分担金が巨額になること、あるいは英国内に移民が増えることだ。
離脱派の主張
欧州では、EUは好きだけど、ブリュッセルのEU本部の官僚は嫌いという人も多いと言われている。EU加盟国に対する規則があまりに多いと感じている人が多いということだろう。さらに、ジョンソンによると、英国がEU加盟に必要としている費用は毎週3億5000万ポンド(525億円)とのことだ(この金額はEUが英国に対して使用している資金を引いたものではないので、実質的な負担額は少なくなる)。EU離脱によりブリュッセルの官僚から自由になり、国家主権を回復するのは魅力的との離脱派の主張だ。
EU28カ国中22カ国はシェンゲル協定により移動の自由を保証し、国境管理を廃止している。英国は国境管理を国家主権の重要事項と考え、シェンゲル協定には参加せず、国境管理を行っている。EUに一旦入国すると、その後はパスポートコントロールを通ることなく、移動できるが、英国入国時には再度入国審査が行われる経験をすることになる。しかし、英国は多くの移民をEU内の東部、南部諸国から受け入れている。EU離脱によりこれらの国からの移民を削減するチャンスとの主張がある。移民の受け入れが減少すれば英国人の雇用が増えるとの主張だ。しかし、残留派からは優秀な移民が失われると経済にはマイナスの影響との反論もある。
EUに留まるか離脱かは、年齢により意見に大きな差があり、離脱の主張は60歳以上、残留の意見は若年層に多いとされている。国民投票の結果離脱が多数となれば、今後2年間の間に英国は離脱の交渉を行い、2年後にEUを離れることになる。
EUをヒットラーに例えるジョンソン
離脱を主張する政治家の中でも極めて過激な発言を行っているのは、ジョンソンだ。国民投票に向け、離脱、残留両派の公式な活動が4月15日に解禁になったが、その前にジョンソンは、EU離脱は脱獄のようなものだとし、「看守が偶然刑務所のドアを開けたままにしてしまった。その向こう側には太陽が輝く土地があるとわかってしまったようなものだ」と述べている。
5月15日付けテレグラフ紙は、さらに過激な発言を伝えている。ジョンソンはEUをヒットラーに例えたのだ「ローマ帝国の黄金の時代を取り戻すために欧州を統一しようとの試みが繰り返されたのが、過去2000年の欧州の歴史だった。ナポレオン、ヒットラー、多くの人が試みたが、全て悲劇に終わった。この統一を違う形で試みているのがEUだ。しかし、基本的に不足しているものがあるのが永遠の課題だ。即ち、欧州統一に関する下敷きとなる忠誠心はないし、誰もが敬う、あるいは理解できる単一の権力はない。それが、このとてつもない大きさの民主的な虚構を作り出している」。
ユンカーEC委員長から名指しで非難される
ECは英国の国民投票については部外者との立場であり、発言を行わない方針だったが、EUをヒットラーに例えた発言はさすがに腹に据えかねたとみえ、G7出席のために訪日中だったユンカーEC委員長は、ジョンソンの発言を批判して次のコメントを述べた「ジョンソンは、かつてブリュッセルで記者生活を送ったと英国の新聞が書いている。もう一度ブリュッセルに戻ってきて、英国民に自分が語っていることが事実かどうか調べたほうがよいのではないか」。
さらに、委員長の部下からは、ジョンソンをトランプ、フランス国民戦線のマーチン・ル・ペン、イタリア5ツ星運動の創始者ベッペ・グリッロと比べるツイートが行われた。トゥスク欧州理事会議長は、「ジョンソンは、政治的な健忘症を患ったとみえ、理性的な会話の境界を超えてしまった。この危険な記憶喪失については一切の言い訳はありえない」と非難した。
その後、ECの広報官から「英国の国民投票に関しコメントしないとの立場に変化はない」としながら、「委員会の義務に関する事項については、英国に触れることはある。それは国民投票とは関係はない」とのコメントが出された。さらに、委員長の部下のツイートに関し「トランプよりクリントンが望ましいとの意味ではない」との発言もあった。
トランプもジョンソンも温暖化懐疑派なのはなぜ
2009年12月にコペンハーゲンで開催された気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に先立ち、ニューヨークタイムズ紙に、オバマ大統領と議会に対し直ちに気候変動対策を取るように呼びかける全面広告が掲載された。その賛同者のなかにトランプの名前がある。気候変動問題を懸念する立場だったようだ。
しかし、その後トランプは立場を大きく変える。2012年のツイートでは「気候変動問題は、米国の競争力を削ぐための中国の陰謀」になり、昨年秋のオバマ大統領の「気候変動問題は世界と米国にとり脅威」との発言に関しては、「私が知る政治史のなかで、最も愚かな発言だ」とまで述べている。いまや、温暖化懐疑論に変わったようだ。最近の演説の発言は次だ「環境保護庁の力を削ぎ、パリ協定を破棄し、オバマ政権の気候変動対策のように仕事を奪う政策を無効にする。国連の温暖化対策に関する支出を全て止める」。
トランプを嫌うジョンソンも、気候変動、温暖化問題については、トランプと同じ立場だ。EU離脱を主張している有力政治家の大半は温暖化懐疑論の立場と報道されている。もし英国のEU離脱が実現した場合には、英国政府の気候変動問題への取り組みにも変化が生じるとの見方もあるほどだ。
EUの規制を嫌い、EU離脱を主張する立場は、別の見方をすれば規制よりも市場に任せれば良いとの立場とも思える。気候変動問題のようにECが主導権を持ち目標を定め、排出枠取引などの制度を定めることには、当然反対の立場になるのだろう。
米国共和党の志向も同様に、基本的には市場の力を利用するとの立場だ。市場を利用し問題を解決する小さな政府志向の立場では、気候変動、環境問題のように解決には規制を必要とする課題への取り組みは難しくなる。だから、問題は起こっていないと考えるのは飛躍があるように思うが、ジョンソンもトランプも同じように考えているようだ。
英国のEU離脱が決まり、トランプが米大統領に就任する事態になれば、世界の気候変動対策は大きく見直されることになりそうだ。
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