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「基軸通貨不信」を隠蔽したG20合意と、国民に迫り来る「究極の選択」

ワシントンで開かれたG20会議は15日、金融危機の一因ともされる世界経済の不均衡の是正に向け、対外収支を中心に新たな「相互監視」の仕組みを定める「参考指針」で合意して閉幕した。声明では、「不均衡の性質や調整の障害となっている原因をより詳しく評価する第2段階を開始する」と、「相互監視」開始を宣言。2月会合で合意した公的債務や財政赤字、民間貯蓄率と民間債務を用いた判定基準を定め、そのうち2つに該当する国を「相互監視」の対象とすることを盛り込んだ。
声明と同時に公表した付属文書では、G20全体に占める経済規模が5%以上の主要な国を優先的に対象とする点も明記。日米中のほか、英独仏やインドが対象になる見通し。前回会合までしばしば対立が報じられた米中の対立も、今回は殆ど無かったと伝えられている。

今回表だった米中の対立を生まなかった一つの要因は、中国の貿易収支が1-3月期に10億2000万ドルの赤字と、四半期ベースで7年ぶりの貿易赤字を記録したことに加え、元が連日最高値を更新して来ていること。少なくとも直近で中国が多額の貿易黒字国でなくなり、他国が中国を名指しで非難出来なくなったことが今回のG20で具体的合意を生んだ格好。

その中で少し気に掛かる点は、原油価格上昇の原因を、日本と北アフリカ情勢という「非経済問題」に持って行った点。今回のG20は、世界経済については「回復は広がりをみせており、民需の力強い成長により、自律的なものとなっている」という見解を示す一方、日本での震災や原発事故と緊迫する中東・北アフリカ情勢をリスク要因として併記し、日本と中東の問題が「エネルギー価格の緊張を増加させた」としている。

確かに、日本の震災や北アフリカ情勢という、予測不可能な天災や政治的混乱が原油価格上昇の要因になってはいるが、底流にあるのは米国の過剰な金融緩和(量的緩和)という「経済問題」であることは疑いの無いこと。原油価格の上昇という世界経済の不安定要素の原因を、米国の金融政策ではなく、日本の震災と北アフリカ情勢の緊迫化という「非経済問題」に持って行くことが出来たことは、米国にとっても大きな成功であったのではないだろうか。
オバマ大統領が13日の講演で、2023年までに財政赤字を4兆ドル(約335兆円)減らすことを目指す財政再建策を表明し、実現性自体は担保されている訳ではないものの、財政再建に向けての強い意志を示し、各国からの非難を受けにくい状況を作り出していたという戦略が奏効した格好。

今回のG20は、米中双方にとってタイミングが良かったことで、何時になくすんなりと具体的合意に至ったという印象。そのせいか、現時点で世界経済の最大のリスク要因である、ドル、円、ユーロという「基軸通貨不信」に関しては殆ど具体的な議論はなされなかった様子。
「基軸通貨不信」は、為替市場で豪ドル、NZドル、シンガポールドル、カナダドルを始めとした先進国の「非基軸通貨」のみならず、中国元、韓国ウォン、南アフリカランド等「新興国通貨」高を招くと共に、投資資金の流入や商品価格上昇を通して、各国の政策運営を極めて難しいものにしてしまっており、世界経済の不確実性を高めている大きな問題である。

米中両経済大国にとってタイミングが良かったことも手伝って、今回G20で「相互監視」という仕組がすんなりと合意に至ったが、「基軸通貨不信」を隠蔽するかの様な形での合意は、世界経済にとって本当に小さな一歩でしかない。

来年4年に一度の大統領選挙を控える米国。同じく来年5年に一度の共産党大会を控える中国。世界最大の経済大国米国と、世界第2位の経済大国となった中国の一大イベントが20年に一度重なる来年に向けて、今は米中共に内向き志向になり易い時期に入っている。今回の小さな一歩を実りあるものに出来るかは、世界各国がどれだけ内向き志向を払拭出来るかに掛かっている。

今回のG20共同声明では、冒頭で日本の復興・復旧への取り組みを視野に「必要とされるいかなる協力も提供する用意がある」と表明、日本の復興に向け全面的な支援を約束している。G20における日本に対する全面支援は心強い限りだが、復興・復旧に取り組む日本が最も必要なものは、残念ながらG20からの協力に頼ることが出来ない「リーダーシップのある政治家」である。消去法でリーダーを選んでしまった日本国民は、再び「リーダーを替えることに伴う政治空白のリスク」と「リーダーを替えないことによる無策のリスク」という「究極の選択」を迫られることになる。

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