- 2016年06月15日 11:00
なぜ自民党の政治家は、「納税ガラス張り」に賛成したのか
不透明なカネは派閥の崩壊で不要に
田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件、金丸信元副総理が議員辞職に追い込まれた佐川急便闇献金問題、最近では元秘書に有罪判決が出た小渕優子元経済産業大臣の政治資金問題……、「政治とカネ」の問題はいつの時代もやむことなく、しばしば政局を動かしてきた。
マイナンバー導入でお金の流れが明瞭になれば「政治とカネ」の不透明な関係にも光が当たる。となれば一番困るのは政治家の先生方ではないか。それなのに、なぜ与野党の議員はガラス張りのマイナンバー法に賛成したのだろうか。
実は日本のマイナンバー導入には半世紀ほどの歴史がある。
リンク先を見る国民一人一人を番号で管理する仕組みの発端は佐藤栄作内閣。「各省庁統一コード研究連絡会議」を設置し、すべての国民に個人番号(個人コード)を割り振ろうとしたが、世論の反発は強く、実現には至らなかった。
その後、大平正芳内閣で「グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)」の導入が決まった。少額貯蓄の利子を非課税扱いにする「マル優」制度を利用した脱税が横行したため、グリーンカードで預貯金を一元管理しようとしたのだ。しかし、海外への資金流出やプライバシー侵害を理由に反対論が強まり、結局、廃止に追い込まれる。
「当時、自民党が強く推していて、埼玉県の朝霞市にグリーンカードの電算センターを置くことになっていた。ところが『自由な経済活動を阻害する』という金丸信さん(故人・当時は自民党田中派の裏の大ボス)の一言で潰れてしまった。要はグレーゾーンを残しておかないと政治献金がもらえないからだろうと。そんな裏事情を取材して記事に書いた覚えがあります」
こう振り返るのはジャーナリストの二木啓孝氏。その金丸信氏が1993年に脱税容疑で逮捕される。
画像を見るジャーナリスト 二木啓孝氏●1949年、鹿児島県生まれ。「日刊ゲンダイ」ニュース編集部長を経て、現在BS11(日本BS放送)取締役編成局長兼制作局管掌。
「前年に5億円闇献金事件が発覚したのに、金丸さんは20万円の罰金で済んだ。検察の威信は地に墜ちたと批判されたことから、当時の五十嵐紀男特捜部長と主任検事の熊崎勝彦さん、今のプロ野球コミッショナーですね。この2人が奮起し、国税と組んで金丸さんのカネの出入りを徹底的に洗ったんです。それで5億円をワリシン(割引金融債)に替えて隠し持っていることがわかった。熊崎さんがキャピタルホテルに金丸さんを呼び出して『脱税で逮捕します』と告げたら、向こうは数十秒固まったそうです」(二木氏)
「小選挙区制」と「政党助成金」が導入された95年が潮の変わり目だったと二木氏は指摘する。
「かつて自民党に5大派閥があったのは中選挙区制の最大定数が5だったから。派閥の力がないと選挙で通らなかった。『政治とカネ』の原動力は派閥だったんです。しかしすべて一人区の小選挙区制に変わって、公認権は党が握るようになり、相対的に派閥の力が弱まったわけです」(二木氏)
カネを贈る側の企業サイドも時代とともに変わった。右肩上がりの時代には自民党に献金することで業界に大きな見返りがあった。しかしバブル崩壊後は見返りがぐっと減って、当局に叩かれるリスクのほうが大きくなり、裏金を渡す側も相当懲りたという。
一方で、制度導入にあたり直接のきっかけになったのが、2007年に起きた「消えた年金記録問題」だ。およそ5000万件もの年金の納付記録が行方不明になり、世論は政権与党の自民党を猛烈に非難。同年7月の参議院選挙で自民党は大敗を喫し、安倍晋三首相は辞意を表明した。その後、09年に政権を握った民主党政権は、「共通の番号制度を導入する」ことをマニフェストに掲げ、マイナンバー法までの基盤を築き上げた。
ネット投票の実現で無党派層を取り込む
そういえば昨今聞こえてくる「政治とカネ」の話と言えば、政治活動費でキャバクラ接待とか、SMバーに通ったとか、裏金(収入)より“支出”が問題になるケースのほうが多く感じる。
「リクルート事件がきっかけとなって政治資金規正法が改正され、裏金をもらうことができなくなっているんです。パーティ券を売ったり、寄付行為を受けたり、合法的に収入を得るしか方法がなくなった。民主党政権の時代を経験し、意外と質素な生活に政治家が慣れてきた部分もあると思います」
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう語る。結果、企業とベッタリ癒着するレベルにまでたどりつかない政治家が増えてきた時代背景もあるという。
「マイナンバーでつまびらかになって困ることはそんなにないと思います。ただしマイナンバーが中長期的に政治にいかに作用するかという視点は、非常に興味深いテーマです」(角谷氏)
自民党は来年夏の参議院選挙に向けて、11月1日からネット上に特設ページをオープンして候補者の公募をスタートした。自民党選対が書類審査と面接で来年3月までに10人に絞り込み、その10人からネット投票で1位になった人を比例代表候補者として公認。事前登録で認められれば、自民党員以外でも投票できる仕組みだ。
「自民党初の試みですが、その先には総裁選のネット投票、さらにその先に公職選挙法改正を経て、国政選挙のネット投票が現実的になりつつある。そのときに重要な役割を果たすのがマイナンバーです。国政選挙に向けた一つの準備段階が、今回の自民党のネット公募だと私は見ています」(角谷氏)
マイナンバーによる投票を視野に入れていることはすでに明言されている。自民党IT戦略特命委員長でもある平井卓也選対副委員長はエストニアを何度も訪問しているが、エストニアと言えば国民IDカードの普及率が8割を超えるマイナンバー先進国。ネット投票もすでに実施されている。
「自民党が候補者のネット公募を始めた理由は、人材探しの意味と、もう一つの狙いは無党派層の取り込みだと思います。候補者を選定するプロセスをネットで見て自分も参加することによって、自民党員や自民党支持者でなくても、『今度の選挙に行ってみるか』とか『この候補者に入れてみよう』という気持ちが芽生え、投票行動につながるかもしれません。現行法では、マイナンバーによるネット投票は、事実上の記名投票となり、どこの誰に投票したか記録が残るなど、議論すべきことはたくさん残っていますけどね」(角谷氏)
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