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トランプ氏「副大統領候補」選定という重大ポイント - 足立正彦

 共和党の大統領候補指名獲得争いについては、実業家兼テレビパーソナリティのドナルド・トランプ氏が既に指名獲得を確実にしており、7月18日からオハイオ州クリーブランドで開催される全国党大会で、指名を正式に受諾することになる。一方の民主党も、ヒラリー・クリントン前国務長官が6月7日に行われたカリフォルニア州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州など6州での予備選挙、党員集会で4勝2敗とし、指名獲得に必要な全代議員の過半数2383人を大幅に上回り、指名獲得を確実にした。

 しかし、クリントン氏と4カ月以上に及ぶ指名獲得争いを展開してきたバーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)は、最後の予備選挙となる6月14日実施のワシントンDC予備選挙まで戦い抜く方針を表明している。とはいえ、サンダース氏は民主党の予備選挙プロセスで最大の代議員を選出するカリフォルニア州などで敗北したことで、7月25日からペンシルベニア州フィラデルフィアで開催される全国党大会で自らがクリントン氏よりもトランプ氏に勝利できる可能性が高い候補であるとして特別代議員の説得を図る大義はもはや失われた。実際、オバマ大統領、ジョセフ・バイデン副大統領、リベラル派の重鎮エリザベス・ウォレン上院議員(マサチューセッツ州選出)らは相次いでクリントン支持を表明している。

 このように、「クリントン氏対トランプ氏」という対決構図が事実上固まり、共和党全国党大会の開催まで1カ月余りとなった。今後注目されるのは、両候補が本選挙キャンペーンを一緒に戦ってホワイトハウスを目指す副大統領候補にどのような人物を指名するかである。すでにトランプ氏は検討し始めたと報じられているが、本稿では、共和党主流派(エスタブリッシュメント)からの十分な支援を受けられていないトランプ氏の副大統領候補の検討に焦点を当てて考えていきたい。

副大統領候補と目される顔ぶれ

 現在、共和党の副大統領候補として名前が浮上しているのは、次の面々である。まず下院の元有力者としては、ニュート・ギングリッチ元下院議長。上院議員では、トランプ氏と候補指名獲得を争ったテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)とマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)、そして共和党上院議員として最初にトランプ氏支持を表明し、不法移民政策で厳しい姿勢を明確にしているジェフ・セッションズ氏(アラバマ州選出)、2014年中間選挙で初当選を果たした女性上院議員のジョニ・エルンスト氏(アイオワ州選出)、上院外交委員長の要職にあるボブ・コーカー上院議員(テネシー州選出)。

 本選挙キャンペーンでは、米軍最高司令官となる大統領としての資質も有権者から問われることになるため、コーカー上院議員の上院外交委員長としての立場や知見は、トランプ氏の欠点を補完し、外交手腕に対する有権者の懸念を和らげる効果をもたらすことが期待される。

 また、元米軍関係者としては、トランプ陣営に国家安全保障政策担当顧問として参画している元国防情報局(DIA)長官のマイケル・フリン元中将も、副大統領候補の1人と目されている。軍歴30年以上に及ぶフリン元中将は、オバマ政権やクリントン前国務長官の対中東政策に批判的な立場を明らかにしていたことでも知られている。トランプ氏は予備選挙プロセスでも外交分野における無知ぶりを露呈しており、欧州やアジアの同盟国との防衛関係についても物議を醸す発言を繰り返し行ってきた。その点、フリン元中将の存在は、トランプ氏の外交・国家安全保障面での脆弱性を補完することになるだろう。

 さらに州知事の中からは、指名獲得争いから撤退して早々にトランプ氏支持を表明し、全米各地でトランプ氏とともに遊説を行い、政権移行チームの委員長に就任したニュージャージー州のクリス・クリスティ氏、5月3日に実施されたインディアナ州予備選挙での敗北後に撤退したオハイオ州のジョン・ケーシック氏、リック・ペリー前テキサス州知事、リック・スコット・フロリダ州知事やヒスパニック系女性政治家であるスザナ・マルチネス・ニューメキシコ州知事、インド系女性政治家であるニッキー・ヘイリー・サウスカロライナ州知事、保守派のメアリー・ファリン・オクラホマ州知事、厳しい不法移民規制政策を導入したジャン・ブリュワー前アリゾナ州知事らの名前が浮上している。これらの候補者の中で女性が目立つのが、大きな特徴である。これは、トランプ氏が2015年6月に出馬表明して以降、女性を蔑視する発言などを繰り返してきており、女性有権者からの支持が男性有権者からのそれを大幅に下回る「ジェンダー・ギャップ問題」が指摘されていることに大いに関係していると考えられる。

副大統領候補検討の基準

 副大統領候補を検討する複数の基準としては、(1)「激戦州」の重視(2)地域的バランス配慮(3)党内のバランス配慮(党内ライバル政治家の登用)(4)相互補完的判断(5)新鮮さを強調する若手登用(6)大胆な女性・マイノリティの登用(7)政策的方向性・スタイル重視、などがあり、それらが複合的に判断されて副大統領が決定される。

 たとえば、1980年に保守派のロナルド・レーガン共和党大統領候補が副大統領に指名したのは、指名獲得争いでお互いに争ったライバルである穏健派のジョージ・H.W.ブッシュ元国連大使であり、(3)の党内のバランスを配慮したライバル登用の代表例である。また、ビル・クリントン民主党大統領候補は1992年、若さと南部出身という点で自らと共通するアル・ゴア上院議員(テネシー州選出、当時)を指名しており、(7)の政策的方向性・スタイル重視の代表例である。

 さらに2008年のオバマ民主党大統領候補の場合、上院の司法委員長や外交委員長という要職を歴任し、36年にも及ぶ上院議員としての経歴があったジョセフ・バイデン上院議員(デラウェア州選出、当時)を指名し、上院議員歴わずか4年足らずであったオバマ氏をバイデン氏が補完する(4)の代表例であった。ちなみに、2001年にテキサス州知事から大統領に就任したジョージ・W.ブッシュ氏の場合も、ジェラルド・フォード大統領の首席補佐官やジョージ・H.W.ブッシュ政権で国防長官の要職にあったディック・チェイニー氏という、自らを補完する選択であった。

主流派に近い「インサイダー」の登用

 約4カ月半前に指名獲得争いが始まるまでは、トランプ氏が勝利すると考える米国政治の専門家らは少数であったが、いまや、共和党主流派批判を繰り返してきたトランプ氏が指名を受諾しようとしている。

 トランプ氏が副大統領候補を誰にするかを検討する上で重要となるのは、先ず自らが公職経験や軍歴経験が全くないという事実である。予備選挙プロセスでトランプ氏は自らを「ワシントン政治」や「既成政治」とは無縁の「アウトサイダー」として、主流派に対する厳しい批判を繰り返してきた。そうすることで有権者の間で共有されている不満を吸い上げることに成功し、勝利につなげた。だが、今後の本選挙では挙党態勢を築いてクリントン政権阻止を図る必要があり、そのためには自らの公職経験の不足を補完できる人物を副大統領候補として指名することが重要である。

 トランプ氏自身は、自らと同じようなビジネスマンを副大統領候補に指名することには否定的であり、議会対策やワシントンでの円滑な政権運営などの点で優れた手腕や豊富な経験を持った人物を指名する意向を示唆している。主流派に対する厳しい批判を繰り返し、依然として主流派との隔たりがある「アウトサイダー」のトランプ氏にとり、主流派に近い「インサイダー」を副大統領候補として指名することが、和解に向けた1歩としても重要になるのではないか。(足立 正彦)

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