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政治はマーケティングか

再掲 旧い記事ですが、6月3日の「立憲デモクラシーの会」で引用した文章です。)

「政治のメディア戦略:有権者は「市場」なのか」、『朝日新聞』2005年11月15日(土曜日)、朝刊 15面「私の視点」 


   政治はマーケティングか


 自民党の圧勝に終わった9月の総選挙の分析が進むにつれて、選挙における「メディア戦略」が果たした役割がクローズアップされてきた。自民党は、PR会社とともに「コミュニケーション戦略チーム」を立ち上げ、まるでCMドラマのように「改革」を「プロデュース」した。訴求すべき「商品」は「郵政民営化」一本に絞られ、「改革をとめるな」などのキャッチコピーが決定され、メディアの注目を集めるべく「刺客」が演出され、政治家たちはアドバイザーによる「リスク管理」のチェックを受けていた。
 そこに表れているのは、政党の活動を企業コミュニケーションのように捉える「政治マーケティング」の存在である。たしかに、政策の「売り手」である政党が、メディアを念頭に「企業広報」に似た戦略を立てるというやり方は、消費者でもある国民にも分かりやすく一概に否定されるべきものとはいえない。だが、「国民」とはもっぱら「消費者」であり、「有権者」とは「市場」なのかといえば、「政治」を「マーケティング」としてとらえる発想が一面的なものでしかないことは明らかだろう。
 問題はしかし、マーケティングの知と技術を政治に持ち込むことの当否ではない。肝心の「商品」が中身のない政策であったり、「コミュニケーション戦略」が、論理的な説明よりは意図的な話題づくりや論点の隠蔽から成り立っていたりすることが問題なのである。しかも、もっぱらメディア効果をねらって「計算」がされており、「リスク管理」のために、選挙で選ばれた議員たちが言動をしばられるという事態もすでに起きている。これでは、政党の「コミュニケーション戦略」とは、情報操作やプロパガンダと区別できないことになる。
 私的な活動である企業のコミュニケーションにおいてさえ「公共性」が議論されている時代である。「政治マーケティング」の妥当性と質、その政治的効果、政党政治の原理とのかねあいが、公開的に議論されることが民主主義の基本前提であろう。
 他方、政治におけるマーケティング的手法の全面化を受けて、新聞やテレビをはじめとする公共メディアの能力と責任も問い直されなければならない。政治マーケティングにおける「広報」とは、多くの部分が公共メディアを対象とした戦略に他ならない。政治権力をチェックすることがジャーナリズムの本質的役割であるとすれば、政権党による計算づくの「トピック設定」に乗せられて「話題」を増幅してしまうとき、メディアの存在意義自体が厳しく問われることになる。
 顔の見えない無党派層の増大は、政治におけるマーケティング的手法を不可欠にする。二者択一になりがちな小選挙区制は、二進法的シミュレーションを行いやすい制度でもある。ブログに見られるような個人メディアがインターネット上に増殖するにつれ、コンピュータにより膨大なデータから必要な情報を抽出する「データマイニング」などの技術を使ったオピニオン分析の精度はさらに増すと予想される。ITを駆使した政治テクノロジーが、有権者の知らぬところで、世論の動向を左右していく可能性が大きいといえる。政治マーケティングが、この国の政治にどのような変容をもたらそうとしているのか、広く公共的に議論されなければならないのである。

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