- 2016年06月11日 01:02
特集:ヒラリー・クリントンは勝てるのか
2/2●Electoral College には大変動
本当の意味で大統領選挙の帰趨を予測するためには、選挙区ごとの動向を読まなければならない。そこで選挙予想の定番、クックポリティカルレポートの”Electoral Scorecard”をチェックしてみよう3。
最新版(5 月 27 日分)は以下の通りだが、こんな大変動は今まで見たことがない。昨年夏時点のデータと比較して、民主党側に移動した州を青に、共和党側に移動した州を赤で表示してみた。青 11 州対赤 1 州で、全体的に左側に移動したことが見て取れる。

昨年 8 月時点では、民主党寄りが 217 人(Solid 186+Likely 31+ Lean 6)、Toss up が 109 人、共和党寄りが 206 人(Lean 15+ Likely 27 + Solid 164)と左右がほぼ拮抗していた。それが今回は、民主党候補は左側の 3 つの枠を合計するだけで、過半数の 270 人を軽く超えてしまう。いつもの激戦州が、いくつも Lean D に移っているのだから驚いてしまう。
おそらくフロリダ州が左側に移動したのは、ヒスパニック人口が多いからであろう。つまり「反トランプ効果」が働いているらしい。コロラド州、ニューメキシコ州、アリゾナ州なども同様である。逆に右側に移動したのは、白人人口が多くて製造業が強い(いかにもトランプ支持者が多そうな)ミシガン州だけであった。 つまりトランプ候補の毒舌が、ヒスパニック人口を敵に回していることが読み取れる。このままでは共和党は、向こう何年間にもわたってヒスパニック票を取れない政党になってしまうかもしれない。あるいは差別的な大統領候補を擁していることで、議会選挙で苦戦する懸念もある。共和党幹部たちにとっては悪夢のシナリオであろう。
●カギを握るサンダース支持者の動向
逆に言えば、民主党は党内が団結していれば、まず負ける気遣いはないということになる。ところがこれが簡単ではない。サンダース候補は、「党大会まで戦いを続ける」と言っている。予備選挙で勝てなかったのは、Super Delegate(特別代議員)と呼ばれる党のお偉方たちが、最初からクリントン支持で固まっていたからだ。草の根党員の熱気という点では、サンダース陣営の方がはるかに上回っていた。クリントン候補には投票したくない、と彼らが思っているとしても何の不思議もない。
米国の人口動態は、「2040 年代までに白人は人口の 50%を割り、マジョリティなき社会が訪れる」と見られている。トランプ現象は共和党に、「怒れる白人中高年層」を連れてきてくれたが、逆にこれから増える層を敵に回している。これほど損な話はない。
民主党の党内融和が難しいのは、「若い世代がサンダース、中高年以上がクリントン支持」という一種の世代間ギャップができているからでもある。特にサンダース支持の中心となったのは、2000 年以降に成人したミレニアル世代であった。
○米国の世代分類
* ~1928 年以前生まれ:グレーテスト世代
* 1928~45 年生まれ:サイレント世代
* 1946~64 年生まれ:ベビーブーマー世代
* 1965~80 年生まれ:ジェネレーション X
* 1981~98 年生まれ:ミレニアル世代
2015 年末の時点で、ベビーブーマーの 7490 万人に対してミレニアル世代は 7540 万人と、両者はとうとう逆転してしまった。それというのも、若くて出生率の高い移民人口が増加しているからである。そのことが白人中高年を不安にさせ、「トランプ現象」の一因ともなっているわけだが、世代交代の趨勢を逆転させることは不可能であろう。
そのミレニアル世代は、親から大事にされて育った自己中心的な世代だが、人種、性別、宗教などに対しては非常に寛大である。彼らにとって男女平等は当たり前で、「ガラスの天井を打ち砕く」と頑張っているヒラリー・クリントンは、「古くてイタいおばさん」のイメージであろう。逆にクリントン候補の眼には、「若い世代は信用できない」という風に映っているはずである。 差し迫っての課題は、クリントン候補がサンダース陣営の協力をどうやって取り付けるかであろう。その仕事は、オバマ大統領がやることになるはずだ。
なんとなれば、オバマ大統領は「次期大統領にはクリントン氏を」と支持表明しなければならない。みずからがレイムダックになることを避けるために、今まではなるべくそれを遅らせようとしてきた。しかし「広島訪問」という冒険も無事に成功し、予備選挙の結果も出た今となっては、そろそろ「後継問題」に踏み込むべきタイミングといえる。
それにオバマは、あの 2008 年選挙を体験している。党内が真っ二つに割れて、予備選が決着しても後味の悪さが残っているときの難しさをよく知っている。あのときはオバマが勝者で、クリントンが敗者であった。そして党内を融和させて、2008 年選挙を勝ったのである。クリントンとサンダースの調停には、オバマがもっとも適役であろう。
何しろ「トランプ政権誕生」となれば、8 年間のオバマ時代が全否定されてしまう。ここはひとつ「ミレニアル世代の支持が高い大統領」として、一仕事すべきであろう。
●2016 年は最後のベビーブーマー決戦
あらためて考えてみると、2016 年選挙のテーマのひとつは「世代交代」かもしれない。
トランプはビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュと同じ 1946 年生まれ。1947 年生まれのヒラリーとはひとつ違いである。どちらが勝っても、「3 人目のベビーブーマー先頭世代の大統領」となる。そして 1961 年生まれのバラク・オバマは、ベビーブーマー世代の最後方に位置している。
ところが勝敗のカギを握るのは、彼らよりもはるかに若いミレニアル世代となる。これまで投票率が低かった 18~35 歳世代が、今回の選挙でどれだけ投票するか。ミレニアル世代は民主党支持が多いのだが、ヒラリーのことはあまり好きではない。だが、トランプ候補のような人種や性別への偏見を嫌う世代でもあるから、クリントン陣営としてはストレートに支持を求めるよりも、「トランプ大統領を実現させないために投票に行こう!」と呼びかける方が、通りは良いかもしれない。
共和党側も同じことを考えている。「トランプのような差別主義者を支持していいものか…」と悩んでいる保守層に対し、「お前はヒラリーが大統領でもいいのか?」と呼びかけている。このまま行くと 2016 年選挙は、「どっちの候補がより嫌われているか」を競う、ネガティブで激しい戦いとなりそうである。
「支持するか、しないか」(Approve-Disapprove)の数字はよく変わるが、「好きか、嫌いか」(Favorable-Unfavorable)の数字は変わりにくいものだ。クリントン、トランプ両候補は、ともに Unfavorable の方が多い(クリントン 40 対 53、トランプ 33 対 60)同士である4。長い大統領選挙の歴史においても、まことに奇妙な戦いが始まることになる。
1 2010 年の QDR を担当したのは、フロノイ次官以下、キャサリーン・ヒックス副次官、アマンダ・ドーリー次官補代理、ローラ・クーパー戦略担当部長とキーパーソン全員が女性であった。
2 2016 年 3 月 11 日、日本経済新聞
3 http://cookpolitical.com/presidential/charts/scorecard
4 ギャラップ、5 月 24 日”Hillary Clinton Maintains Image Advantage Over Donald Trump”
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



