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混迷増す沖縄 求められる打開策 - 織田重明

「想像はしていたが、かなり厳しい結果だ」

 沖縄政策に深く関わってきた政府高官はそう嘆いてみせた。6月5日に投開票された沖縄県議選のことだ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する翁長雄志知事の与党にあたる革新各党所属の候補や革新系の無所属候補は過半数を3議席上回る27議席を獲得した。改選前よりも3議席増やしており、地元紙の『琉球新報』は、6日付の朝刊1面で「与党大勝27議席」に加えて「辺野古反対31人」、「翁長県政に追い風」と見出しを打った。「31人」とは翁長県政与党の27人に加えて、野党ながらも辺野古移設に反対する公明の4人の議員をあわせた数字のことだ。

厳しい選挙戦

 それでも自民党は13議席から14議席に1増しており、6日の記者会見で谷垣禎一幹事長は、「痛ましい事件があった中で大変厳しい選挙戦だった。こういう中では健闘した」と述べるなど、自民党内では善戦したとの見方があるが、保革がほぼ互角で拮抗してきた沖縄の政治史を考えれば、ここまで差がついたのはやはり敗北としかいいようがない。

 政府関係者が懸念するのは、辺野古移設作業への影響だ。菅義偉官房長官は6日の会見で県議選の結果を受けて、「日本を取り巻く安全保障環境が極めて厳しい中、日米同盟の抑止力の維持と普天間飛行場の危険除去を考えたときに、辺野古移設が唯一の解決策であるとの政府の考え方は変わりない」としてみせたが、果たして今後も強気の姿勢を保ち続けられるのか。

 考えてもみれば、政府・自民党にしてみれば、今回の県議選にあたって条件は極めて良くなかった。県議選の告示前には沖縄の県民感情を逆撫でするような無残な事件が起きた。20歳の沖縄の女性の遺体を雑木林に遺棄したとして、5月19日に32歳の米軍属が逮捕されたのだ。

 事件は、4月28日晩に嘉手納基地内にあるインターネット管理会社に勤務するシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)が沖縄本島中部のうるま市に住む20歳の女性を殺害後、遺棄したとされるものだ。殺害された女性はウォーキング中で、供述によると、暴行目的で2、3時間にわたって女性を物色していたシンザト容疑者が女性を見つけ、背後から棒で殴り、さらに首を絞め、最後は刃物で刺して殺害したという。

 逮捕されたシンザト容疑者は米国籍の元海兵隊員。米国のSNSのリンクトインに掲載された経歴によると、2007年から14年までの海兵隊勤務のうち11年まではキャンプ・キンザーなどの沖縄県内の米軍基地で装備品の管理などを担当していた。海兵隊を除隊した後は、海外の米軍基地でインターネットの管理などを請け負う米国の企業に雇用され、軍属という立場にあった。軍属とは、軍人ではないが米軍基地で勤務し軍務を支える民間人のことで、日米地位協定では、軍人および軍属の公務中の事件の裁判権は米国が持つとされる。このためたびたび問題となってきた経緯があるが、今回は公務外の事件だったため、地位協定上の問題は起きずに捜査は沖縄県警が行った。

地元の警察担当記者によると、被害者の女性が使っていたスマホの位置情報が途絶えた場所周辺にある監視カメラの映像の分析からシンザト容疑者が浮上。16日に任意で事情聴取したところ、ほぼ全面的に自供し、容疑者の車からは被害者のものとDNAが一致する血痕が発見されたという。

 こうした情報は、いち早く首相官邸に細かく伝えられていたが、伊勢志摩サミットおよび広島訪問のためにオバマ大統領が訪日するのを目前に控えた時期だっただけに、米軍属の逮捕によって基地問題が再燃することを懸念した菅義偉官房長官が逮捕にゴーを出すのを渋り、19日までずれ込んだとの見方が官邸関係者らのあいだで専らだ。

築きあげてきたものがガラガラと崩れていく

 この事件による影響を懸念するのは、菅官房長官だけではない。

 「何年もかけて築きあげてきたものがガラガラと崩れていくのを見ているようだ」

 本稿で冒頭に登場した政府高官は米軍属が逮捕されたことを受けてこうも嘆いていた。1996年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール米国大使とのあいだで普天間飛行場の返還と移設が合意されて以来、はや20年。合意では「5年後から7年後までの全面返還」とされたが、容易には進展が見られないまま。その推進を図る立場の政府高官からすれば、この事件により、県民の反基地感情が高まり、政府が進める辺野古移設に向けた作業に支障が出ることに懸念をせざるを得ないのだ。

 そうした県民感情に配慮しようと官邸も躍起のようだ。21日に被害者の告別式に出席するため沖縄を訪問した中谷元防衛大臣が、在沖米軍トップにあたるニコルソン四軍調整官をメディアが見守るなか沖縄防衛局に呼びつけたが、これは菅官房長官の指示によるものだという。「米側に厳しくもの申す」という構図を見せるためだ。

 5月23日に安倍晋三首相と会談した翁長知事は、日米地位協定の見直しやオバマ大統領との会談を求めたが、これには応じなかったものの、菅官房長官の肝いりで各省庁の局長級による「沖縄における犯罪抑止対策推進チーム」を結成。より実行力のある再発防止策をまとめることにし、県議選の投票日を目前に控えた3日には、沖縄総合事務局で非常勤職員を採用し、100台規模の車両による「沖縄地域パトロール隊」の創設、警察官100人の増員とパトカー20台の増強などの対策を打ち出した。

官邸は米軍側にも再発防止に向けた具体的な取り組みをとるよう強く働きかけ、5月28日にはニコルソン調整官がキャンプ瑞慶覧で記者会見を開き、「地域との交流と対話を増やすため、メディアへの対応を増やしたい」と述べたという。在沖米軍トップがメディアの取材に直接応じるということは極めて異例で、米軍側の危機感の強さもにじませた。

 だが、こうした取り組みに水を差すのが、死体遺棄事件後も次々と発生する、米軍関係者による事件事故だ。5月31日には、覚醒剤を米国から密輸したとして51歳の米軍属が逮捕され、同僚の23歳の軍属も大麻の所持で逮捕された。さらに、6月4日に嘉手納町の国道で21歳の女性兵士が飲酒運転をした挙げ句に国道58号線を逆走し軽乗用車2台と相次いで衝突事故を起こしている。
死体遺棄事件で5月21日に中谷元防衛相が米国のカーター国防長官と電話で会談し、カーター長官から「大変痛ましく遺憾な事件であり、心から深い謝罪の意を表明する」との発言があったばかりなのにも関わらず、相次ぐ事件に日本政府関係者は頭を悩ましている。

沖縄県内の全米軍基地の撤去を求める論調

 「日米地位協定の見直しはあまりにハードルが高いが、なんらかの抜本的な解決策を示さなければならないのではないか」

 そうした意見も官邸内からは聞こえてくる。

 地元メディアでは、辺野古移設の反対どころか、沖縄県内の全米軍基地の撤去を求める論調が増しており、6月3日付『琉球新報』では、独自の電話調査により、全基地撤去を求める県民が4割以上に達したとの記事が1面に大きく掲載された。

 沖縄では選挙の季節の真っ最中だ。終わったばかりの県議選に続き、7月10日投票の参議院選挙がある。沖縄県選挙区では、自民党から現職で沖縄北方担当相の島尻安伊子氏(51)、翁長知事与党からは元宜野湾市長の伊波洋一氏(64)が立候補する見通しだが、沖縄県内では基地問題が大きな争点となるのは必至だ。辺野古移設では島尻氏が容認なのに対し、伊波氏は翁長知事と歩調をあわせて反対の立場。

 その参院選の公示日(6月22日)の直前というタイミングにあたる19日に那覇市内で開かれるのが、米軍属による死体遺棄事件に抗議する県民大会だ。抗議だけでなく、普天間飛行場の閉鎖、県内移設断念、日米地位協定の改定、在沖米軍基地の大幅な整理縮小などを訴えるというが、参院選に向けて伊波候補に有利な環境が生み出されるのは間違いないだろう。

 メディアや自民党などによる事前の情勢調査では、すでに伊波氏が優位との見方が支配的だ。そうなれば、現職大臣の落選という事態ともなりかねず、安倍政権の沖縄政策が大きな曲がり角を迎えることになる。
 

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