- 2016年06月07日 11:00
消費税そのものが時代遅れの欠陥制度だ
失速・中国の内需拡大阻む付加価値税17%
ここにきて、2017年4月からの10%への消費税増税の先送りへの動きが活発化している。官邸主導でノーベル経済学賞の権威を国際金融経済分析会合に招致し、増税見送りの「お墨付き」を得るなど、コンセンサスづくりに余念がない。増税見送りどころか欠陥制度である消費税制度そのものに反対している筆者としてはまことに喜ばしい状況であり、これを機に消費税率引き下げまで視野に入れた、消費税制度そのものに踏み込んだ議論に発展してくれればと考えている。
増税実施に向けて、これまで最強官庁とされてきた財務省の動きはここにきて鈍い。官邸が各省幹部の人事権を掌握しているため増税への働きかけは弱くならざるをえないとする声もあるし、その一方でそれはあくまでも表向きとする声もある。実のところは、財務省自身は官邸に最大限配慮しつつ、予定通りの消費税増税に向け粛々と事務作業を行い、外堀を埋めている――というものだ。
実際のところは確認不能ではあるが、財務省のトーンダウンの背景には、主に国内要因と国際課税の最新の潮流を受けてという2つの理由が考えられよう。
まずは国内要因について。そもそも今回の消費税増税は8%が想定内で、よほど景気が過熱するような事態になった場合に、あわよくば10%とのシナリオを当初から描いていたのではなかろうか。というのも、内需大国である日本経済にとって消費税増税が実体経済に甚大な影響を及ぼすことを、天下の財務省が把握していないはずはない。
過去3年間(12年10~12月期から15年10~12月期まで)の実質GDPは13四半期中6四半期でマイナス成長を記録するという惨憺たる有り様だ。そのうち民間消費は308.5兆円から304.4兆円へとマイナス1.3%、住宅投資は13.8兆円から13.4兆円へとマイナス2.8%落ち込んでいる。少子高齢化による人手不足から労働需給は逼迫しているものの、1人当たりの賃金は非正規雇用の増加で伸び悩んでいる。
結果、この3年の名目賃金の伸びはわずか0.5%に留まり、増税による物価増もあり、実質賃金はマイナス4.4%にまで低迷。家計部門の所得減による需要の低迷、消費減退は民間消費が6割を占めるわが国のGDPにダイレクトに響く。
消費税増税だけをその理由とするつもりはないが、1989年に消費税が3%で導入されて以降、「失われた20数年」の間に実体経済の低迷が長らく続いてきたことは周知の通りである。消費税率が3%から5%へと引き上げられたのが97年。それから14年の8%引き上げまで17年を要したのを鑑みれば、わずか数年で一気に5%から10%へと税率を倍増させるのは、日本経済への深刻な打撃を考えると、国民世論からしても到底受け入れられないと判断するほうが妥当ではなかろうか。
むしろ十数年後の数%の引き上げの布石として、あるいは地ならしとして10%をチラつかせたのか。国民も10%といわれながら8%に留まれば、嬉しい誤算だと好感するため、ある意味切り札としての役割も果たす。長期的展望はあくまでも増税だが、現状の8%が妥協点なのではなかろうか。
日本では消費税と称されるこのタイプの税金は、海外では付加価値税という呼称が一般的だ。国際課税の流れとして、ここにきて各国の付加価値税制度に急速かつ大きな変化が見られる。
経済減速が伝えられて久しい中国は、外需依存型経済から何とかハードランディングを避け、内需型経済への移行を図っている状況だ。その中国の内需拡大のネックの1つとされてきたのが、税率がアジア最高の17%となる付加価値税の存在だ。
かねてより付加価値税の引き下げ、税制の簡素化への要求は強い。中国国内の一段の景気悪化に伴い、業界や地区の商工会の集まり等で付加価値税率の負担の重さを訴える企業は多い。政府関係部門の担当者がそうした声を重く受け止めている様子は、中国ビジネスに詳しい知り合いからも漏れ聞いていたのだが、政府内で引き下げに向けての検討がなされているとの報道が出てきており、税率引き下げが俄然現実味を帯びてきた。
内需が芳しくなければ付加価値税を引き下げへ、というのは当然の判断といえよう。中国経済のソフトランディングがままならなければ、国際経済への影響も免れまい。
先に来日したスティグリッツ・コロンビア大学教授の言葉を借りれば、世界経済は「大低迷(Great malaise)」で、緩慢な成長が続いている。景気後退や停滞が今後予想される中、増税に代表される緊縮財政をしている場合ではないとの指摘もあった。
国際貿易に深く関わっている“消費税”
中国以上に影響力があるのは、欧州での付加価値税制度の大改革の動きだ。付加価値税の生みの親である欧州ではEC(欧州委員会)が16年4月7日付で、現行の付加価値税制度を抜本的に見直す行動計画を公表した。行動計画に従い、税制の簡素化、不正防止の強化、デジタル・モバイル経済に対応することで企業への負担を軽減し、EU経済圏の発展を図る狙いだ。
画像を見る欧州の付加価値税改革についてのEC公表資料(A44枚)。従来の還付制度の問題点と、その廃止後のスキームが図示してある。
改革の必要性に迫られた背景として、第一に掲げているのは、国境を越えた取引の際の付加価値税の不正問題である。EU各国で想定される付加価値税額と実際の徴収税額の差が、13年には1700億ユーロ(1ユーロ123円換算で約21兆円)に迫るという数値がその深刻さを物語る。この徴税漏れは、主に国境をまたいだ取引での付加価値税の不正や詐欺に起因しており、欧州域内だけに限定しても約500億ユーロ(約6兆円)と試算している。
日本国内では、消費税・付加価値税はあくまでも国内税制との認識が強いが、このタイプの税金が通商問題や国際貿易と深く関わっていることは、ECのこの行動計画での指摘がその端的な例でもあるが、国際税制のいわばコンセンサスでもある。
国境を越えた取引でなぜ、付加価値税の不正が発生しやすいのか。
消費税でも付加価値税でも、税収は商品の最終消費地に帰属するという「仕向地原則」を採用しているため、輸出販売への消費税率は0%とされてきた。日本の消費税は8%の単一税率と思われるかもしれないが、実は8%の標準課税と0%という2種類の税率が存在している。輸出販売への0%税率には、日本の消費税を他国の国民から徴収するわけにはいかない、との発想が根底にある。輸出先の消費地でその国の付加価値税率が適用され、その国の税収になると考えるのが原則だ。
国境を越えた不正行為では、この輸出販売への0%税率を悪用したものが主流で、その典型例として「ミッシング・トレーダー(失踪貿易業者)」と呼ばれる事業者の不正手段がある。輸入業者は、輸入品を販売した段階で消費税・付加価値税を消費者から受け取るが、それを税務署に支払う前に“とんズラ”してしまうというもの。それと似た方法として「カルーセル(回転木馬)」詐欺がある。商品が不正業者を通じ、国境を越えて販売、再販売が繰り返されることで、不正もこうして延々と繰り返されてしまう恐れがある。
今回のEUの行動計画では、こうした輸入国での付加価値税の受け取りと課税のタイミングのラグや遅れを狙った輸入国サイドでの不正・詐欺の発生リスクと同時に、輸出国サイドにおける不正・詐欺リスクも指摘している。
輸出販売はすべて0%税率が適用されているがゆえに、輸出国では、輸出企業が輸出製品を完成させるために国内から原材料などの仕入れや部品の調達の際に支払った消費税は、全額還付されることになっている。
輸出企業は、輸出製品を海外で販売した際に消費税を受け取っていないので、国内の仕入れで払った消費税は還付がなければ払い損となる、との発想だが、行動計画はこの還付制度についても、不正・詐欺が多発しうるリスクを指摘しているのだ。
「軽減税率」は周回遅れの不毛な議論
今回のEC改革の最大の目玉である「輸出国における還付制度の撤廃」は、こうした不正の解決策だ。
どういうことか。輸出企業は、物品を輸出する際は輸入国側の輸入業者から付加価値税を受け取り、それを輸出国に納税する。消費地課税の原則に則り、輸出国で徴収された付加価値税は、輸出国の財務省を通じて輸入国の財務省へと送金される。
つまり、各国の財務省同士で資金移転をすることで、不正還付や納税のタイミングを利用した詐欺が起こりうる機会(0%税率・還付)そのものをなくすアイデアなのだ。現行の複雑な制度は、不正の温床となりやすい。それを排除することは、同時に徴税側、事業者側の事務処理の簡素化にも通じる。
これまでの付加価値税制度は、EUの単一市場の構築のために93年に施行された暫定的な制度であり、今回の発表は恒久的制度に向けた動きである。「行動計画」というネーミング通り、還付制度廃止に向けて実際に動き出しているということであり、今回の防止策の強化によって、国境をまたぐ付加価値税の不正の80%が削減されるとしている。
また、欧州域内で公平な競争を阻害している軽減税率に関しても撤廃、それ以外の軽減税率・非課税対象品目(0%税率)も減らし、標準課税(現在15%以上)の適用範囲を拡大する。公平・透明・簡素な制度の中で税収増を実現することで、標準課税の税率そのものの引き下げまで視野に入れているのだ。
付加価値税実務の盲点につけ込んだ組織的不正は、かねてからEU内でも指摘されてきた。付加価値税制度の不正行為を防ぎ、公正・中立・簡素・近代化をEUが図る状況下で、日本の増税派だけが、旧態依然とした消費税制度のままひたすら増税を叫び続けることは、もはやできまい。
導入から約40年、壮大な社会実験を経た軽減税率が欧州で撤廃縮小の動きとなっている今、軽減税率導入で紛糾することがいかに周回遅れで不毛なことか。もちろん、同じ欧州域内ということで国境を越えての改革もしやすいという側面はあろう。それが欧州域外で適用されるまではそれなりの時間もかかろうが、現行の消費税制度のままならこの先、国際課税制度で問題視される税源侵食にむしろ加担していると見なされる可能性もある。増税の前に消費税制度のあり方を否が応でも根本的に見直す時期にきたといえよう。
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