記事
- 2016年06月07日 05:00
大塚家具、不振の理由は本当に「路線転換」なのか? - 多田稔(中小企業診断士)
※訂正とお詫び大塚家具が業績不振に苦しんでいます。同社は6月3日、今期の業績予想を、当初の黒字から16億円程度の最終赤字になると発表しました。赤字転落は6年ぶりとのことです。
株式会社大塚家具より記事内容についてご指摘を頂きました。指摘内容は以下の3点です。
1 来店のハードルを下げたが品揃えは従来と大きく変えておらず、高級路線から中価格路線に転換はしていない。
2 高く仕入れてより高く売っているわけではなく、SPA的な仕組みなども導入し、コストダウンに努めている。
3 高価格帯の売上は全体の8%程度と、高い商品を買っている人だけが売り上げを作っているわけではない。
本稿は各種報道と財務諸表等の公開データから企業分析を行ったことから、筆者と大塚家具との間に見解の相違および事実関係の相違がありました。ご指摘いただいた事実関係の相違については内容を真摯に受け止め、大塚家具および関係者各位にお詫び申し上げます。
ご存知のように、同社は現在の大塚久美子社長が、高級・高価格路線からカジュアル・中価格路線への転換を図っています。そんな中で6年ぶりの赤字転落、と聞くと、路線転換が失敗で急に業績が悪化したかのような印象を受けます。
しかし実際は、黒字だったこの5年間も決して業績好調だったわけではありません。売上高はピーク時から2割程度下落したままです。2014年度は、経常利益段階では2.4億円程度赤字だったものを有価証券の売却益で辛うじて最終黒字にしています。また昨年は売上が前年比で増加しましたが、経営権をめぐる「父娘戦争」の宣伝効果(?)など、特別な事情が重なっての結果です。
したがって、今回の赤字転落は、路線転換の失敗で急に起きたことではありません。大塚勝久社長時代末期からの長期低落傾向に歯止めがかかっていない、と見るべきでしょう。
今回の発表を受けて、「それ見たことか。やっぱり親父の高級路線が正しかったんだ」と思う人もいるでしょう。一方、人口減少による国内市場の収縮を考えると、久美子社長が打ち出した路線も決して間違っていないように思えます。大塚家具の不振の理由は、本当のところどこにあるのでしょうか? 少し踏み込んで考えてみましょう。
■業績不振の中身を分析
大塚家具の経営の実態に迫るために、直近の財務諸表を確認してみましょう。損益計算書を見ると、同社の粗利率は53.2%となります。実は、この数字は競合のニトリとまったく同じです。ニトリはSPA(製造小売)化によって原価低減に成功したビジネスモデルです。したがって、SPAでない大塚家具がそれと同じ粗利率であるということは、「高く仕入れてより高く売っている」ということになります。また、高価格路線を推進した勝久氏が社長で、過去10年でもっとも売上高が大きかった2007年度の粗利率は54.1%と、現在とほぼ変わりません。ということは、今も昔も、大塚家具の売上を作っている顧客は高価格の商品を買っている人々である、と言えます。
ここから、近年の業績不振の原因が、「中価格帯へのシフトによる商品単価の下落」ではなく、「かつて高い商品を買ってくれていた顧客の流出」である、ということが分かります。
顧客流出の理由として、長期的には、家具にお金をかける人の減少という市場変化が考えられます。もちろん、最近の経営権をめぐるゴタゴタも影響しているでしょう。
■本当は「路線転換」なんかしてない?
それに加え、財務諸表のある指標に注目すると、別の側面も浮かび上がってきます。ある指標とは、売上高に占める人件費の割合、売上高人件費率です。大塚家具の数値は、2007年度が12.5%で、2015年度が16.1%と、3.6ポイント上昇しています。売上の減少期に数字が上がるということは、人件費が高止まったまま売上が落ちているということです。これは、人材を有効活用できていないことを物語ります。具体的には、カジュアル・中価格路線という事業戦略が、店舗の従業員レベルまで浸透していないのではないか、と私は類推します。そのため、つい売りやすい従来型の高額商品の販売に力を入れてしまっているのではないでしょうか。それは粗利の確保には役立っても、顧客からすれば「なんだ、カジュアル化って言ったって、結局は高いもの買わされるのか」という感情につながり、再来店の阻害要因になっていると考えられます。
まとめると、顧客意識の変化に加え、「父娘戦争」に代表される経営陣の混乱を嫌気した一定の得意客がまず離反しました。それを中価格帯への路線転換による新規開拓でカバーしようとしたのですが、肝心の現場は、事実上「路線転換」ができていませんでした。そのため、カジュアル化を期待した新規顧客層の失望を招き、来店客数の減少を補えないまま現在に至っている・・・という流れだと思います。
■「路線の選択」が重要なのではない
したがって、業績が振るわない根本原因は、経営陣と現場が認識を共有できていない、一枚岩の組織になっていないことだと考えられます。問題は、「高級路線かカジュアル路線か」という事業戦略レベルの話ではなく、「カジュアル路線を推し進める覚悟と体制の不備」という人事戦略レベルの話である、というのが私の見立てです。そもそも、あれだけ上層部の混乱ぶりを見せられれば、現場の士気は下がるでしょう。久美子社長がやるべきことは、各店舗に出向いて、一人一人の従業員と膝詰めでコミュニケーションを取ることだと思います。そこで混乱を引き起こしたことを素直に詫び、新路線への自分の思いを伝え、組織全体の共通認識にしなければいけません。そして従業員の貢献意欲を呼び覚まさなければいけません。
当然、人事の再構築や、評価制度の見直しも必要になるでしょう。教育・研修内容も刷新しなければなりません。昔のやり方に慣れている社員からは反発が出る可能性もあります。しかし、「イヤなら辞めてもらって結構」というくらい腹をくくって対処する必要があります。父親の勝久氏が「匠大塚」という高級志向の店舗で攻勢をかけてくる以上、もう後戻りはできないのですから。
「高級路線で行くべきか、カジュアル路線で行くべきか」などと議論する段階は過ぎています。今後は、新生大塚家具の社員から、「古い顧客が出て行ったのなら、私たちが新しいお客様を呼んでやる!」というモチベーションを引き出せるかどうかが、同社の浮沈を左右するような気がします。
【参考記事】
■「日ハム新球場」構想は実現するのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48692713-20160526.html
■『笑点』の新司会者選びを関係性マーケティングの視点から検証する (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48677956-20160524.html
■自動車メーカーが不正を繰り返す理由 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48638759-20160519.html
■「秀才」の舛添都知事はなぜ愚行に走ったのか (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48661263-20160523.html
■オレたちは「SONY」を卒業できない (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48736379-20160601.html
多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表
- シェアーズカフェ・オンライン
- 専門家が情報発信をするマネー・ビジネス系のウェブメディア



