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政府が決断すれば、解放は可能だ 安田さんの救出は裏交渉で - 佐々木伸

昨年6月、シリアで取材中に行方不明になったジャーナリスト安田純平さん(42)と見られる画像がネット上に新たに公開された。岸田文雄外相ら政府高官は安田さんと見られるとしており、本人であることは間違いないようだ。今回は政府が水面下の裏交渉に踏み切れば、「救出は可能」(テロ専門家)と見られており、安倍晋三政権の高度の政治判断を求めたい。

ISに引き渡すと脅迫

 安田さんの画像が公開されたのは29日夜(日本時間30日)のことだ。髪や髭が伸び放題の安田さんは「助けてください これが最後のチャンスです 安田純平」と日本語で書かれた紙を手に掲げていた。撮影場所はシリア国内と見られるが具体的には不明だ。

 この画像をシリアで受け取ったというシリア人支援組織によると、拘束しているのは国際テロ組織アルカイダ系の過激派「ヌスラ戦線」。「ヌスラ戦線」との“仲介役”と自称するこの支援組織の代表は、日本政府が「1カ月以内」に交渉などの行動を始めなければ、安田さんの身柄は外国人人質を惨殺してきた過激派組織「イスラム国」(IS)に渡るだろう、としている。

 「ヌスラ戦線」は日本政府に対して1000万ドルともいわれる身代金を要求しているとされ、3月には日本政府に対応を求める安田さんの動画が公表されたが、テロリストの要求には屈しない、と主張している政府はこれまで、交渉を真剣に検討してこなかった。

 特に身代金の扱いについては、先の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言に「テロ組織には身代金を支払わない」と明記し、日本は議長国として宣言を順守する立場にあるのも事実だ。

 しかし、今回は新しい点が2つある。1つは政府に「1カ月」という期限を切って行動を要求したこと、もう1つは、殺害されるリスクが高い「ISへの引き渡し」を警告したことだ。

 日本側からみれば、この“仲介役”の代表が信用できるのか明らかではない。“仲介役”自身が拘束に関与していないという保証もない。本当に「ヌスラ戦線」に拘束されているかもはっきりしていない。つまりは分からないことだらけの中で、交渉しようがない、という思いが強い。

 しかも単なる身代金を得るための脅しの可能性もないわけではない。安田さんにオレンジ色のシャツを着せているのも、ジャーナリストの後藤健二さんを含め、外国人人質の首を切断して殺害してきたISが人質にオレンジ色の服を着せていたのを明らかにまねし、恐怖感を煽っているようにも思える。

 このように政府が犯人側と交渉するにはハードルが高い。しかし「交渉することは譲歩することではない」(オバマ米大統領)し、身代金の支払いも政府が払った形にしない方法もあるだろう。政府は昨年新設の組織「国際テロ情報収集ユニット」を中心に対応を錬ることになるが、要はしたたかな裏交渉も厭わないことが必要だ。

スペイン人記者の解放を参考に

 その際に参考になるのは、10カ月ぶりに人質生活から解放されて5月8日に帰国したスペイン人記者3人のケースだ。3人は安田さんと一時的に一緒に拘束されていたと伝えられており、スペイン政府から事情を聞くのはもちろん、解放された記者らからの直接聴取も欠かせない。

 特にスペイン政府はトルコとカタールが3人の解放に協力したことを明らかにしており、どこをどうつつけば、響くのかを知る上で、大いに参考になるだろう。トルコ紙などによると、スペインは1人につき、370万ドルの身代金を支払った、という。

 日本政府は昨年の後藤健二さんらの人質事件では、身代金の支払いを拒否したが、1999年の中央アジア・キルギスの邦人人質事件では3億円の身代金を払った過去もある。政府内には、安田さんについて、警告を無視して自ら危険地に入った、という自己責任論が根強い。しかし、紛争地の実態は、安田さんのようなジャーナリストの存在がなければ分からないことも多い。

 「ヌスラ戦線」は2012年の設立当初、ISの関連組織という位置付けだったが、ISが組織を吸収しようとしたことに反発して袂を分かった。シリア内戦では反政府勢力の一翼としてアサド政権軍と交戦しており、反政府勢力から強力組織として頼りにされている。

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