- 2016年06月01日 17:21
ファンによる女性刺傷事件 ネット上に残された加害者の「試し行動」 - 網尾歩
今回は東京・小金井市で女性がストーカーの男に刺された事件についてのネット上での「議論」を取り上げたい。特定の個人や企業を叩く「炎上」ではないが、この事件に関しては主にツイッター上で多くの人が「調査」を行い、事件そのもの、もしくは関連報道について「怒り」「憤り」「疑問」を口にしている。このニュースに関するネット上での受け止められ方を簡単にではあるがまとめてみたい。
加害者の異常性がネット上で浮き彫りに
女性が刺されたのは5月21日の17時頃。一報が報じられたのはその日の夜からだが、報道が出た直後には、被害者・加害者双方のツイッターアカウントがネットユーザーたちに発見されている。
加害者は被害に遭った女性に対して執拗にリプライを送りつけていた。今年初めにツイッターを開始した頃は好意的なツイートも多かったが、相手にされないことで不満を募らせたのか、次第に「贅肉が付いて薄汚れた印象を受けた」など嫌がらせと取れるツイートを送り付け始めた。
報道によれば、加害者は女性からプレゼントを送り返されたこと、ツイッターをブロックされたことが犯行につながったと供述しているという。ただ、ツイッター上では加害者のほうが「(プレゼントについて)要らないのなら返して。それは僕の『心』だ」とリプライを送ったり、なぜ女性が自分をブロックしないのかと疑問を投げかけるような言葉をつぶやいたりもしている。恐らくこういった発言は加害者の被害者に対する「試し行動(※)」のようなもので、実際はプレゼントを返されることやブロックされることを極端に恐れていたのだろう。
(※)どれぐらい自分のことを受け止めてくれる相手なのかを探るため、わざと相手が困るような行動をとること。第一次反抗期の子どもが親に対して行うことなどがある。
加害者のツイートやブログを見たユーザーたちは、その異常性を読み取り、衝撃を受けたとつぶやく人も多かった。犯罪が報じられたとき、加害者のツイッターやブログ、Facebookページが発見されることは少なくないが、これほど、犯行の動機が推測できる「足跡」を多く残している加害者も稀だ。
ストーカーやDV、性犯罪などが報じられるとき、悲しいことだが被害者に対して世間の非難が向けられることも少なくない。多くは「被害者が加害者を怒らせるようなことをしたのではないか」「被害者にも落ち度があったのでは」という推測に基づくものだ。
しかし今回、ネット上でこういった被害者を貶める内容の推測はとても少なかったと感じる。それは加害者自身がたくさんの「証拠」をネット上に残し、そこにユーザーたちが明らかな異常性を読み取ったことと無関係ではないだろう。
「アイドル」として報じられた被害女性
また一方で、一部で女性が「アイドル」と報じられていることに対するネット上の反発もあった。女性は実際にアイドルグループのメンバーとして活動していた時期もあったが、現在はシンガー・ソングライターとして活動していたからだ。
また、アイドルとして報じられたことで、「最近のアイドルは握手会など、ファンとの距離が近すぎることが問題」「地下アイドルは自分で自分の身を守らなければならず危険すぎる」といった論調のコメントも見られた。
しかし、加害者が以前にファンだったのが有名女優であるらしいことや、過去にも飲食店勤務の女性に対してストーカー行為を行っていたという報道があることなどから、加害者が「アイドルだから」という理由で被害者に執着していたとは考えづらい。また、アイドルや芸能人がファンから襲われる事件は昭和の時代から繰り返されていることであり、最近特に多く発生しているとは言いづらい。
ただ、以前は近づきがたい存在だった芸能人が、ブログやツイッター、インスタグラムなどで私生活の一端を公開することにより、「身近に感じる」ようになった人は多いだろう。「身近に感じる」くらいならばいいが、ネット上で芸能人と「つながることができる」という錯覚が起こり、この錯覚がエスカレートすることがあるのは恐ろしい。
一部の報道によると、加害者は以前にも飲食店女性のブログをウォッチし、ストーカー行為をしていた過去があるという。また、有名女優のファンだった際には、女優が「ロマンポルノを見る」という発言をした後に「さすがにドン引き」「もう、無理」とブログ上に綴っていた。発信側からすればプライベートのごく一部だが、ファンだった加害者からすれば、対象女性のブログやツイッターは自分に対して開かれた少ない「窓」であり、そこに映し出される情報に対して、あるときは自分の願望を投影し、あるときは自分勝手な解釈でファンを辞めていたのだろう。
ネット上で芸能人や有名人に対して異常な執着を見せ、延々とリプライを投げかけている人を見かけることは少なくない。これまでは「どうせネット上だけのこと」と見過ごされ、加害を行う人は近づきたくない存在として無視されることが多かった。しかし今回の事件をきっかけとして、ストーカー規制法がSNSでの行為も対象とされるよう改正を目指すという。事件が起こってからでないと法が作られないというのも歯がゆいものがあるが、ネット上での執拗な嫌がらせやストーカー行為について、被害側が被害を訴えやすい状況が整うことを願いたい。
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