- 2016年05月31日 15:07
イラクが危機を脱する方法とは? - 岡崎研究所
未だ力維持するシーア派聖職者サドル師
シーア派聖職者モクタダ・アル・サドル師の支持者によるイラク議会の占拠は、象徴的意味に満ちている。4月30日、デモ隊は厳重に防護されている「グリーン・ゾーン」(旧米軍管轄区域)に侵入、国民から支配層のエリートを隔てていた壁を打ち倒し、議員の事務所を荒らし、テクノクラートによる新たな政権が政治的利権のネットワークに取って代わるよう要求した。5月1日、デモ隊はサドル師の要請に従って撤退した。
イラク政治の不安定を考えれば、この示威行動が何に繋がるかは予測不可能であるが、サドル師(元民兵指導者で、自らを反腐敗改革者と位置づけ直している)が、力を維持していることを明らかにした。
サドル師は、次にどういう行動をとるかにより、イラク政治の分極化を深めることも、機能する政府を作るとのアバディ首相の努力を前進させることもできる。後者の可能性が、イラクがISから領土を奪還し、原油安による経済危機にたちむかう唯一の道である。
サドル師がイラク政治の最前線に戻ってきたことを脅威と考えないことはむずかしい。米国によるイラク占領期間中の殆ど、サドル師は目標達成のために暴力に頼った。サドル師の民兵組織Mahdi Armyは、米国が支援する政府を不安定化させ、米兵士を殺害するために、グリーン・ゾーンに砲弾を撃ち込み、2005年から2006年の間の残酷な宗派戦争において指導的役割を果たした。議会におけるサドル師の陣営は、2010年のマリキの首相留任を支持するなど、キングメーカーの役割を果たした。そして、サドル派に運営されている省庁は、サドルが今非難している縁故主義のよい例である。
アバディ首相の計画支持するサドル師
2014年にサドル師は政治から手を引くと宣言、それ以来自らを、宗派によらず貧者の味方をする宗教的指導者であるとしている。一年前、サドル師は、有能な大臣を任命し、官僚の数を減らし、汚職と戦うために、民族的割り当てに基づく政府のシステムを変革しようとするアバディ首相の計画を支持した。
これらの変化は何としても必要である。イラクは、毎月30億ドルの予算不足を埋め合わせるために、外貨準備を取り崩している。イラクの二大都市、ファルージャとモスルはISに支配されている。先週、シーア派中心の政府を率いるアバディ首相は、何とか5人の新大臣の承認を議会から得た。他の大臣ポスト指名者に対する公聴会の開催が拒否されたことが、今回のグリーン・ゾーンにおける抗議を引き起こした。
サドル師は5月1日、支持者たちにグリーン・ゾーンから離れるよう指示し、暴力を控え民族主義のスローガンを唱えるよう求めた。サドル師は声明において、議員が政治改革の妨げになり続けるならば、彼の支持者たちは新たな選挙を求めるだろう、と警告した。サドル派がこれまでのところ暴力をかなり控え、彼らの集会が宗派的でないことには勇気づけられる。サドル師がこのやり方を続けるならば、街頭抗議が、政府が必要とする改革を議会に強いるという政治的支援をアバディ首相に与えることになるかもしれない。
出典:‘Turbulent Politics in Baghdad’(New York Times, May 2, 2016)
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http://www.nytimes.com/2016/05/03/opinion/turbulent-politics-in-baghdad.html?ref=opinion&_r=0
予想外の役割果たしたサドル師
イラクのアバディ首相は3月31日、議会内の政党との十分な事前の相談をせず、テクノクラートからなる内閣にしたいとして、閣僚名簿を議会に提出しました。その後、政党の反発があり、政治危機が生じています。
4月30日、モクタダ・サドルの支援者のデモが議会のあるグリーン・ゾーンに侵入、議会を占拠しました。イラク政府はこれに対抗して、非常事態宣言を出しました。しかし、5月1日、サドルはデモ隊に議会占拠を解くように命じるとともに、アバディ首相の新内閣提案などの政治改革を支持する旨の声明を出しました。
アバディ首相が提案しているテクノクラート内閣は理想的ですが、政党の支持がなく、政治的には難しいと言われていました。サドルがアバディ首相の政治改革支持に回るというのは予想外です。サドルがこういう役割を果たすことは全く念頭に置かれていませんでした。
今回の件でイランはどういう役割を果たしたのか、マリキ元首相やシスタニ師はどうしたのか、よくわからないことが多くあります。
このNYTの社説は、今後のイラクの政治の安定にサドルが有益な役割を果たすことに、疑念も持ちつつ期待していますが、サドルには自己の力を誇示することなど複雑な思惑があり、彼に有益な役割を期待するのは時期尚早であると思います。
ただ、イラクが政治的な危機を乗り越え、「イスラム国」への攻撃や経済問題に向き合うことになるのであれば、それはもちろん歓迎できることです。
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