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イデオロギーに根ざさないサンダース人気 若者から支持される理由 - 土方細秩子 (ジャーナリスト)

米大統領選予備選挙の「最後の山場」と言える6月7日のカリフォルニア州の投票。それを前に、共和党候補に決定したドナルド・トランプ氏(69)と、民主党候補のバーニー・サンダース氏(74)がテレビ討論会を開催するというのが話題となった。

 元々この討論会はサンダース対クリントンが予定されていた。両氏は党員集会までに行う討論会の数をあらかじめ合意していたが、ここに来てヒラリー・クリントン氏(68)が拒絶、その理由は「対トランプに専念したいから」だという。民主党もほぼクリントン氏に決定してはいるものの、まだ選挙戦を続けているサンダース氏を「もう相手にしない」と切り捨てたも同然で、サンダースはこれに対し「Insulting(侮辱している)」と発言。サンダース氏自身に対してだけではなく、投票を控えるカリフォルニア州民にも候補者の意見を聞く権利はあり、有権者全体への侮辱、と非難した。

 その代わりに名乗りを上げたのがトランプ氏だ。ただし「テレビ局は出演料として10-15万ドルを支払うこと、その金額は慈善団体に寄付すること」という条件付きだ。トランプ氏には珍しく殊勝な発言だが、その裏には「ヒラリーの失礼さを強調する」「民主党支持者の投票をヒラリーではなく自分に引き寄せる」という深謀遠慮も伺えた。

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サンダースを支持するロサンゼルス市民(筆者撮影、以下同)

トランプが最も苦手な相手

 ところが、討論を受け入れる、と宣言した翌日には手のひらを返し「すでに共和党候補に決まった自分と民主党の二番手であるサンダース氏が討論するのは『不適切』」と返答。

 実際のところ、トランプ氏にとってサンダース氏は「最も苦手」な相手でもある。トランプ氏はこれまでライバルのクルーズ、ルビオ、ブッシュ、ポール、フィオリーナと様々な候補者をこき下ろしてきた。現在はクリントン氏を攻撃している。しかしサンダース氏に対しては「クレイジー・バーニー」と呼ぶ以外の表だった攻撃はしていない。攻撃する材料に乏しいのだ。

サンダース氏とトランプ氏の間には奇妙な共通点がある。スーパーPACに頼らず独自資金で選挙戦を展開していること、共に「極端な思想主義者」と捉えられていること、支持者の熱狂的支持を受けていること、所属する党の主流とはかけ離れ、それゆえに上層部の支持が得られない、などだ。ただしその方向性は正反対である。

 トランプ氏が排他的な発言で米国人の「怒り」を煽っているのに対し、サンダース氏は「未来への希望」を語る。そしてサンダース氏の姿勢は過去50年間ぶれていない。


カナダを羨む米国人
民主社会主義と社会主義の違いに気付かない

 サンダース氏はシカゴ大学の学生だった1963年、公民権運動により当局に逮捕されている。当時のシカゴでは黒人と白人の通う学校が区別されており、これに怒った黒人児童およそ20万人が学校をボイコット、という騒ぎに発展した。これに関連した座り込み運動により、逮捕され罰金刑を受けた。この一連の騒動は来年ドキュメンタリー映画として発表される予定だが、そこには若きサンダース氏も写っている。

 1960年代に白人が黒人の権利を求めて戦う、というのは大変なことだった。平等を訴える姿勢はその後も一貫して変わらず、その中から民主社会主義、という考えを持つに至った。

 米国人の多くがサンダース氏を支持しない理由として「社会主義者だから」というのを挙げる。冷戦を経験した米国人にとって共産主義、社会主義というのは悪そのもの。しかし、民主社会主義と社会主義の違いに気付かない米国人はあまりにも多い。

 例えば隣国のカナダは民主社会主義を標榜している。カナダの手厚い社会保障制度を羨む米国人が、社会主義という言葉に過剰反応するのは不思議だ。サンダース氏はバーモント州バーリントン市の市長時代、公立保育所の設置など、信念に従った政策を実施してきた。

 日本では保育所の激戦問題が取りざたされるが、制度として比較的安価で子供を預けられる保育園が存在する。しかし米国にはこうした制度がなく、働く母親は高額の私立保育所かベビーシッターを利用する。一部企業は企業内保育所を提供しているが、そうした一流企業に勤められない母親にとって、子供の保育問題は頭痛の種だ。米国では健康保険も保育所も「自助努力」と位置付けられているが、これは世界でも稀な制度と言える。

連邦上院議員になってからもサンダース氏は常に「選挙戦の資金集め方法の改革」「企業の福利厚生の充実」「地球温暖化問題」「収入格差の是正」「LGBTの権利拡大」「育休制度の推進」などを訴えてきた。2003年のイラク戦争の際にも、当時上院議員だったクリントン氏は賛成したが、サンダース氏は真っ先に反対した。

 サンダース氏が訴えているのは「普通の国」になる、ということだ。国によるユニバーサル健康保険制度がない先進国は米国のみ、公立大学でさえ年間100万円を超える学費、というのも米国のみのシステムだ。一方で大企業のトップが年間に数十億ドルを稼ぎ、最下層の社員がフルで働いても低所得しか受けられない、という格差は広がる一方である。これを是正し、欧州各国が実現している無償の公立大学社会保障の充実を目指そう、と訴えているのだ。

イデオロギーに根ざしていない、純粋なもの

 米国人は「サンダースの理想を実現するには金がかかりすぎる。金持ちへの課税を強めればタックスヘイブンに逃げる」という。しかし現状への不満は募る一方で、改革を求める声は強い。改革には痛みを伴うが、その先により不満のない社会が実現できるのであれば、サンダースに託しても良い、と考える若い層は増えている。

 サンダース人気で特筆すべきは、その人気がイデオロギーに根ざしていない、純粋なものだ、という点だ。

 サンダース氏はユダヤ系米国人である。ユダヤ系としては2000年の大統領選挙でアル・ゴア氏が副大統領候補にジョー・リーバーマン氏を指名し、「ユダヤ系初の」と話題になった。多民族国家である米国では、このように人種の問題が選挙では重要視される。オバマ大統領も黒人初、ということで多大な支持を得た。2008年当時はオバマを支持しない、と言うだけで「人種差別主義者」と言われたものだ。現在もヒラリー・クリントンは「女性初」であることが支持の大きな理由とされる。

 しかし、不思議なほどにサンダース氏に関してはユダヤ系であることが話題にならない。その人気は人柄、信念、政策によるもので、それゆえに求心力が大きい、とも言える。

 サンダース対トランプの討論会が実現すれば、高い視聴率をはじき出しその反響は大きいと予想されていた。それだけに土壇場でのトランプ氏の心変わりには批判が飛び交う。また討論を拒絶したクリントン氏はすでにネット上で叩かれており、自らを不利な立場に導いたとも言える。この討論拒絶が果たしてどんな結末へとつながるのか、目が離せそうにない。

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