- 2016年05月30日 10:00
なぜドン・キホーテには“中国で認知度ゼロ”でも訪日客が集まるのか
2/2戦略進化3:地域連携で街を目的地に
インバウンド戦略に本格的に取り組んでから1年後、中村氏は山梨県の石和温泉組合の幹部から提案を受け、一歩踏み込んだ取り組みに挑戦する。幹部いわく、「訪日の宿泊客は午後7時過ぎには何もすることがなくなる。そこで、旧正月(春節)に、ドンキさんのいさわ店と温泉街を結ぶ夜間シャトルバスを走らせたい」。組合側の熱意に応え、店舗では中華圏の縁起物の水餃子や甘酒を用意し、中国人スタッフも泊まり込みで対応。シャトルバスは大好評を博した。
「当社対関係先という関係ではなく、地域で共生し、共栄していく。これが地域連携の原点になったのです」(中村氏)
11年旧正月のドン・キホーテ全体のインバウンド売上高も飛躍的に伸び、過去最高を記録する。ところが、翌3月11日、東日本大震災発生。震災の影響で、地域の事業者に広告出稿してもらう方式は難しい。
そこで中村氏は行政との連携を模索する。地方が広域で連携する訪日プロモーション事業に国が補助金を出す仕組みを活用したのだ。例えば、店舗のある広島地域の周辺5県をワンセットにした「ようこそ!マップ」を作成。エリア内の好きな街に行ってもらうよう、仕かけたりした。
「広島の店舗の訪日客数は目に見えて増えました。ただ、行政との連携事業は入札制で単年度主義。補助金を得る公共事業方式のプロモーションは持続性を担保できない問題がありました」(中村氏)
戦略進化4:大型店もスクラム「街を売る」
広告方式でも、公共事業方式でもない新しい方式へ。進化のきっかけは意外なところから到来した。13年暮れ、三越伊勢丹ホールディングス幹部から新宿エリアでの連携企画を持ちかけられたのだ。
「伊勢丹さんも訪日客の自然増に応える受動型でなく、積極的な戦略を打つべきだという議論が社内でわき上がったようで、新宿で実績のあったわれわれJ.I.S.に声がかかったのです」(中村氏)。
名門百貨店の伊勢丹新宿店と激安のドン・キホーテが組み、ほかに京王百貨店、マルイ、東急ハンズ、ビックカメラ、ルミネの7社12店舗が「相互送客」の理念を掲げて共同販促の実行委員会を組織。スクラムを組んで翌14年1月31日から2カ月間、「新宿ショッピング・キャンペーン2014春」を開催した。
店舗情報と訪日客向け特典を掲載した4カ国語のガイドマップを作成し、J.I.S.の提携先の海外の旅行会社と域内20のホテルに計8万部配布。期間中、通りには多言語フラッグが掲げられた。この年の旧正月のドン・キホーテの域内2店舗のインバウンド売上高は前年比400%を超えた。
リンク先を見る(上)中国人客に人気の商品を集めた一角。農薬や防腐剤などを取るために野菜を洗う粉など、日本人にはなじみの薄い品も。(下)新宿店にある「免税館」。訪日客からニーズの高い商品をまとめているため、効率よく買い物ができる。
その後も継続を求める声が高まり、新宿観光振興協会と組んだ常設の「新宿インバウンド実行委員会」が発足。中村氏が会長職に就いた。高島屋や小田急百貨店なども参加して13社に増え、年2回発行のガイドマップ「新宿エクスプローラー」は発行部数が累計100万部を超えた。外国人が日本人に道を尋ねるときのため、地図には日本語表記もあり、旅人目線が徹底されている。
中村氏は同時に、従来品目が限られていた消費税の免税対象を一定条件下で全品に拡大する法改正を求める働きかけにも参画。これを実現に導き(14年10月から拡大)、訪日消費増大へと結びつけていった。7年間でドン・キホーテをインバウンドの勝ち組へ押し上げ、斯界の第一人者となった中村氏は戦略のポイントをこう話す。
リンク先を見る図を拡大
全商品が消費税免税対象になり、右肩上がり
「街を楽しむアーバンツーリズムを求める訪日客に価値を提供するには、ドン・キホーテ単独では原資もなく限界がある。事情はどの事業者も同じです。そこで行き着いたのが実行委員会方式でした。日頃のライバル同士が共通の目的に向かって、お金、労力、知恵を出し合い、地域で訪日客を呼ぶ。インバウンドという新しい市場の成長力を取り込むには、Win-Win関係をいかにつくれるかがカギです」
中村氏は新宿と同様の組織を主要都市で設立もしくは準備中で、全国連絡協議会も設置した。
地域連携について、前出の村山氏もこう指摘する。
「東京ディズニーランドは単独で訪日の目的地になりえても、例えば、百貨店も、エルメスで世界一の品揃えを誇る伊勢丹新宿店でさえ目的地になりえない。一方、“お台場にある○○”のように、地域にひもづけすると、外国人には響く。連携してエリアを売る発想がより重要になっていくでしょう」
日本人客相手では競争しても、訪日客相手では連携する。ドン・キホーテの成功法則は、戦い方の転換がインバウンドの成否をわけることを示しているといえるだろう。
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