- 2016年05月31日 11:38
「私の行けたが明日の誰かの地図になる」“バリアフリー情報”の共有で誰もが安心して外出できる社会を
1/2子どもたちにパラスポーツの魅力を伝える「出前授業」

「東京2020パラリンピック競技大会」は、日本社会に何を残すのだろうか?
パラリンピックは4年に一度、オリンピック終了後にオリンピック開催都市で行なわれる「もう一つの(Parallel)+オリンピック(Olympic)」だ。すでに「障がい者スポーツの祭典」としての認知度は高いが、残念ながらパラスポーツの競技内容まで知っている人は少ないのが現状だ。
そこで今年4月から、「日本財団パラリンピックサポートセンター(通称パラサポ・2015年5月設立)」が「あすチャレ!スクール」という新たな取り組みを始めている。これはパラサポが全国の小中高等学校にパラアスリートを派遣し、子どもたちが選手と一緒にパラスポーツに挑戦していく体験型出前授業だ。
「あすチャレ!」というネーミングは「明日へのチャレンジ」を略したもので、子どもたち自身が自分の夢や目標に向かって挑戦すること、そして障がいに対する社会的な壁をなくしていくための行動に結びつけてほしいという願いが込められている。
「あすチャレ!」の授業時間は90分で「パラアスリートによるデモンストレーション」「パラスポーツ体験」「講話」の3つの要素からなる。子どもたちはパラアスリートのプレーを生で見ることで、その迫力や技術を肌で感じることができる。また、人間の多様性、強さ、すごさにも気づく。そして実際に自分たちがパラスポーツを体験することで、楽しさ、難しさを体で理解し、パラアスリートと直接対話することで、障がいに対する疑問や誤解を解消することもできる。その結果、子どもたちには「他者のことを自分ごととして考える心」「障がいとはなにか?」「可能性に挑戦する勇気」「夢や目標を持つ力」という4つの学びが残るというわけだ。
第一回目の「あすチャレ!スクール」は、学院全体としてパラリンピック・パラスポーツへの協力を表明している青山学院初等部で行なわれた。講師はシドニーパラリンピックで男子車椅子バスケットボール日本代表キャプテンを務めた根木慎志さん。根木さんは20年以上、子どもたちに“出張授業”を行なってきたベテランで、「あすチャレ!」ではプロジェクト・ディレクターを務めている。
きわめて意欲的な取り組みだが、現在はこうした教育を行えるアスリートがまだまだ少ない。そこで「あすチャレ!スクール」を継続していく中でも人材を養成し、より多くのパラスポーツ選手を講師として迎える予定だ。今年度は100校、3万人、2020年までには1000校、50万人での実施を目指しているという。
遠藤利明五輪担当相、鈴木大地スポーツ庁長官も登場

筆者は4月8日に行なわれた「あすチャレ!スクール」事業開始の記者発表に参加したが、狭い舞台上で行なわれたパラスポーツのデモンストレーションの迫力には驚かされた。ウィルチェアーラグビーの池崎大輔選手が、目の前でタックルを実演してくれたのだ。
幅わずか5mほどの壇上で、池崎選手が競技用の車椅子に乗り、あっという間に車椅子を加速させる。そして根木ディレクターが乗る車椅子に猛然とタックルした。
「ガシャーン!!」 激しい衝突音が会場の空気を一瞬で張り詰めさせた。まさに力と力のぶつかり合いだ。それまで抱いていた「障がい者スポーツはおとなしいもの」という勝手なイメージとはまったく違う、激しいスポーツであるということを一瞬で理解できた。
この迫力には、パラサポの応援団として登壇していたマツコ・デラックスさん(パラサポ顧問)も驚いていた。マツコさんは20年以上前に車椅子バスケットを見たことがあり、その時の印象も交えながら、こうコメントした。
「みんな体がスゴイのよ。格闘技の要素もあるしね。車椅子の選手をサポートしている人の方が細かったり。実際に観ると本当にすごいのよ」
根木ディレクターは言う。
「パラリンピックの競技を知らない人は多いので、まずはいろんな競技があることを知ってもらいたい。(実際に競技を観てもらうと)“びっくりした”とよく言われます。体育館であれば、車椅子バスケの選手は何も障がいにならない。ところが社会に出ると障がいがある。『あすチャレ!』で学び、気付きを感じてもらえたらなと思う」

「パラリンピックの成功を通じて、障がい者も健常者も高齢者も一緒に生活する共生社会、ユニバーサル社会を作るのがレガシーとしてもっとも大きな事業だと思う」(遠藤五輪担当相)
これは筆者もまったく同感だ。