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経産省主導“日本LNGハブ”市場 盛り上がらないのはなぜ? - 石 雄太郎

5月1日から2日、北九州市でG7エネルギー大臣会合が開かれ、「LNGに関する価格指標の確立、LNG基地等のインフラの開放といった包括的な取組を通じ、国際的なLNG市場の確立を目指す」と、合意した。

 これに合わせて経済産業省は5月2日、『LNG市場戦略Strategy for LNG Market Development ~流動性の高いLNG市場と“日本LNGハブ“の実現に向けて~』を発表。日本は、LNG市場の実現に向けた取組を進め、日本で開催されるLNG産消会議も活用して生産国、消費国双方との連携を強化する、と表明した。

 日経新聞も同調している。「硬直的な取引慣行を見直し、いつでも需給で決まる価格で調達できる市場を整える必要がある。G7が連携し、LNG生産国に慣行の見直しを求めていきたい」(日経新聞社説 5月4日)

 本稿はこの動向にコメントするものである。最初に経産省の『LNG市場戦略』を引用しながら国のめざす市場の姿を紹介し、後段でその実効性を考える。

経産省が描く“LNG市場戦略”

 経産省は、「LNGハブ」をめぐるアジア諸国の動きを注目する。シンガポールはハブの獲得に向け政府主導で取組が進み、上海でも天然ガス取引所が開設された。我が国は東京商品取引所(TOCOM)が、LNG店頭取引市場を開設した。競争が起こっている。我が国がハブになれれば、日本に有利な条件でLNG調達ができるのではないか。そこで「日本LNGハブ」を形成したい。曰く、

 「我が国としては、流動性の高いLNG市場の実現を目指すと同時に、世界最大のLNG需要国という優位性を活かし、LNG取引の集積や価格の形成・発信の面で国際的に認知された「ハブ」となることを目指すべきである。これにより、より需給調整や価格裁定を行い易くなり、国全体としての調達安定性や価格交渉力の向上も期待できる。当面の間は、我が国がLNGの最大消費国である可能性が高く、かつ、内外の市場環境がダイナミックな発展を遂げると見られるため、我が国としては、2020年代前半までに、「ハブ」の地位を占めることを目標とし、あらゆる取組を加速させていくこととする」

 具体的にどんな市場を作るのだろうか。

 LNGはタンカー輸送だ。気体の天然ガスとは異なり、取引はカーゴ単位で行われている。そこで当面、事業者間、すなわちLNGカーゴの売り手と買い手間の、現物スポット取引市場を育成したい。成約した取引が他の関係者の知るところとなれば、市場らしきものが出来始める。

プレイヤーは民間に託される

 取引情報を取材するのは、プラッツ、アーガス、リム情報開発等の価格報告機関(PRA:Price Reporting Agency)の記者たちで、当事者からインサイド情報を聞き出し、メディアで発信するのが生業だ。経産省はこの種の情報発信は、「LNGハブ」形成に不可欠だとし、価格報告機関(PRA)を積極的に支援する。曰く、

 「市場参加者が「LNG価格指標」を確立させ、指標を育てていくという意志を持ち、積極的な情報開示や課題の指摘などを実践することが重要である。取引価格の対外的な公表は契約上の秘密保持義務の観点から困難であるとの指摘もあるが、今後は指標を育てるために、双方が合意するPRA等への情報開示については匿名性を守りながら許容することも重要ではないかと考えられる」

 おや、これは……と思われるだろうが、経産省は「プレイヤーは民間(Private First)」と書き込んでくれてもいる。曰く、

 「売り手・買い手等LNG市場に参加する民間事業者の意志とイニシアティブが何よりも重要であり、国の役割はそのための環境整備や市場監視に徹することである。……国による過度な介入は、健全な市場発展の阻害要因にもなりかねないことに留意したい」

 現物スポット市場が形成されれば、次は先物市場だ。曰く、

 「加えて、単なるLNGの取引に加え、先物取引等を含む関連ビジネスが発展していく可能性が高まる」

さて、近い将来「日本LNGハブ」市場ができるのか? 機能するか?

 筆者は、国際石油価格は、市場取引の中で“発見される”という実態を書き続けている。価格とは売り手と買い手が折り合い、成約したレベルで決まるものである。

LNG市場における価格の決まり方

 ここで、売り手と買い手が違った相場見通しを持って市場に臨むから、取引が成立する。今後の世界石油需給は緩むのか、不足気味なのか。「余る、相場は軟調で推移するだろう、だから今、高いうちに売ります」という人と、「いや、そうは思わない、米国経済が持ち直すだろうから、不足」という人が、市場で出会い、売買が成立する。それぞれ相場の根拠に需給を参照するが、見通しが異なった。他方で先物市場には、現物需給を見てもいないトレイダーたちがいる。「当面ドル安だ。よし、手持ちドル先物は、売り。値上がり期待の原油先物を買おう」

 逆に言えば、市場参加者が全員、今後は上げ相場、と見通してしまうと売り手が消える。市場に売り手と買い手がいないと、価格は見つからない。

 さて、「日本LNGハブ」市場である。

 一年半前2014年9月、経産省の肝いりでLNG先物市場が開設された。なにしろ、アベノミクス「第3の矢」で、「エネルギー先物市場の整備等の取組を、着実かつ早急に進める」と書いてもらったので大いに貫禄がついた。そこで、Japan OTC Exchange(JOE)というところがLNG店頭市場を作った。

 JOEは東京商品取引所と、シンガポールを拠点とするギンガエナジージャパンの合弁だ。この市場では2種類の、日本着LNG船渡し商品が取引される。ひとつは取引単位25万mmBTUで、最少約定単位が5ロット(約2万5000トン相当)の大口取引、もうひとつは5万mmBTU単位の通常取引だ。現物LNGカーゴを受け渡しせず、売り手と買い手が相対で差金決済をする。

 LNGの先物市場ができれば、日本・アジア域でのLNG需給に基づいた合理的な価格形成が始まるのです、と役所が説明してきた。

多様なプレイヤーが必要

 ところがこの市場では、目下、“なんにも”起こっていない。市場に参加登録しているのは主に買い手たち。日本の都市ガス会社や電力会社や総合商社だ。みな世界のLNG情勢に詳しい。とりわけ米国天然ガス動向を勉強しつつ、今後の日本着LNG価格は軟調、先安、と、一様に見通してしまう。だから、だれも先物を買わない。だから価格が見つからない。だいたい“よそ者”を簡単には入れない仕組みです。JOEの取引要綱に、「各取引参加者が他の取引参加者に対して与信を設定し、取引可能な者同士でのみ取引が成立する」と書いている。鞘抜きや、投機売買を生業にしている小規模トレイダーたちが参加できない。

 これは、つまらぬ話ではないか。ワクワク感が全然ない。カネを掴め! 英雄譚とホラ話、愛と冒険にあふれるトレイディングビジネスに、公益企業の社員がキャリアを賭けるとはなかなか思えない。日本勢と外国勢、生産側と需要側、ヘッジャーとスペキュレイター。「日本LNGハブ」市場では、多様なプレイヤーが市場で取引しなければ、いけない。

 総括しておこう。

 経産省は、日本国内でLNGを取引する市場の形成をめざす。この市場で「需給で決まるLNG価格指標」を作り出し、日本から発信するのが「日本LNGハブ」市場構想である。

 さて、この市場つまり「場」はどこに建つのか。価格報告機関が発信するメディアの上の仮想空間に成立するのか。それとも、既にあるJOEのLNG店頭市場の取引要項を手直しすれば、活性化するのか。

 多様なプレイヤーを包摂できるのは後者だろう。取引単位をさらに小さくし、参加資格要件も緩めればよい。だが、化粧直しとなった店頭市場が、日々発信しはじめるLNG価格指標が、現物LNGの需給を材料にして変動するのかどうかは、また別の話なのだ。

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