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焦点:ロンドン前市長のヒトラー発言、EU離脱派に逆効果か

[ブリュッセル 22日 ロイター] - 欧州連合(EU)たたきで名をはせたが、時に事実をゆがめるとの批判もあった元ジャーナリスト、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、読者の気を引くにはヒトラーを引き合いに出すより簡単な方法はないことを知っている。

だが、力ずくで欧州大陸を支配しようとしたナチス・ドイツ総統やフランス皇帝ナポレオンの方法と関連付けて、EUの限られた、交渉による超国家的権力を批判しようとするジョンソン氏のやり方は政治的な危険に満ちている。

このようなやり方は第1に、ジョンソン氏が属する保守党の2人の英雄、チャーチル、サッチャーの元両首相の戦略的ビジョンを無視している。2人は統合された欧州を、ヒトラー主義への答えとして、また、何世紀にもわたる流血の時代を経て平和と安定を確かなものとする方法として考えていた。

ジョンソン氏は歴史をゆがめているだけではない。EUに加盟する民主主義国28カ国は、主権の一部を共有することに自由に同意しており、ジョンソン氏が現在英国に使うよう求めている自主脱退を可能とする条項さえ設けている。

ジョンソン氏のヒトラー発言は、英国のEU離脱の是非を問う6月23日の国民投票で、離脱派にとって裏目に出るかもしれない。さらには、キャメロン首相に取って代わるという同氏の野望を狂わす可能性もある。

EUに不信感を抱き、その行動が十分な民主的管理下にないと、多くの欧州市民のように感じている英国民でさえ、高圧的な独裁者やユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)などとEUを同一視はしないだろう。

最新の世論調査では、来月の国民投票で、保守党支持層の間で残留支持が増加傾向にあることが示されている。

ジョンソン氏は英紙サンデー・テレグラフとのインタビューで、2000年前のローマ帝国時代から「平和と繁栄の黄金時代」を築こうとしてきたあらゆる試みのように、EUは失敗する運命にあると発言。「ナポレオンやヒトラーなど、さまざまな人たちが試してきたが、悲劇に終わる」と語った。

<民主主義の空白>

ジョンソン氏は「EUは異なる手法による試みの一つだが、欧州という概念に対する潜在的な忠誠心がないことが永遠の課題となっている。皆が尊敬し、理解できるような権威が存在せず、このように民主主義の大いなる空白が生じている」との持論を展開した。

同氏はまた、2014年のロシアによるクリミア併合などをめぐり、同国のプーチン大統領ではなく、EUを非難。「EUのその場しのぎの外交政策立案や、自信を持って遂行した防衛政策が実際に問題を起こしている例が欲しいなら、ウクライナで起きたことを見るがいい」と、ジョンソン氏は9日の記者会見でこう述べている。

チャーチルの伝記やローマ帝国に関する本の著者として、ジョンソン氏は、自分の好きな政治家が第2次世界大戦後に、ナショナリズムと戦争の時代に絶対に戻らないよう統合された欧州を熱烈に支持したことを知っているはずだ。

帝国ゆえ、英国が実際にEUのような機関に参加することは想像していなかっただろうが、チャーチルは欧州評議会の生みの親である。欧州評議会の下、欧州人権条約やそれを適用する欧州人権裁判所が設立された。

しかし現在、多くの保守党議員は、欧州人権条約を英国の裁判所に対する受け入れがたい主権侵害と考え、ベラルーシ以外のロシアを含む全ての欧州諸国が批准する同条約から脱退したがっている。

<平和と安全>

さらに目を引くのは、欧州史の教訓に対するジョンソン氏とサッチャー元首相の対照的な見方だ。

EUの前身である欧州経済共同体からの離脱の是非を問う1975年の英国民投票において、サッチャーは保守党の「残留」キャンペーンを打ち出したスピーチのなかで、欧州の統合と平和を直接的に結び付けている。

自分の子供たちが過去2世代の子供たちとは違って欧州の内戦に巻き込まれなかったことに感謝の意を評し、「共同体は私たちに、自由な社会のなかで、過去2世代で得られなかった平和と安全を与えてくれた」と語った。

実用主義的な戦後保守党の政治家にとって、英国が16世紀以降に追い求めてきた、欧州大陸の勢力バランスを維持しようとする政策が、2つの大戦を回避できずに悲惨な結果をもたらしたことは明らかだった。

チャーチルやその後継者たちが学んだ戦略的教訓は、英国が孤立主義や拡大勢力の誘惑に屈したりせず、北大西洋条約機構(NATO)の軍事同盟だけでなく、統合された欧州を構築することに積極的に関与しなければならないということだった。

欧州での英国の立場をめぐるジョンソン氏の見方は、第2次世界大戦中にナチス・ドイツによる侵攻から果敢に国を守ろうと備える高齢の市民兵を題材にした、BBCの人気コメディーシリーズ「ダッズ・アーミー」に近いように思える。

同番組の主題歌は次のように始まる。「ミスター・ヒトラー、われわれが逃げ回っていると考えているなら、誰をからかっていると思っているのか」

これは、ジョンソン氏にも向けられる言葉かもしれない。

(Paul Taylor記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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