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労働力不足対策より「本当に足らぬ人数」の見極めが先だ - 河合雅司(産経新聞 論説委員)

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ただ、気掛かりなのは、労働力が本当はどれぐらい足りないのかという議論が見えないことだ。 現在の社会の仕組みを前提として、 すべてをこれまで通りに行っていこうと考えるのであれば、現在の労働力人口が比較基準となる。 内閣府の推計は、労働力人口は女性や高齢者の就業が進まなければ2030年までに900万人近く減るとしているが、絶対数はこの通り減るとしても、それが不足する人数と一致するとは限らない。

例えば介護だ。プランは高齢化が進むことを織り込んで「25万人の介護人材の確保に総合的に取り組む」としているが、健康寿命の延びによって要介護者の見通しが変われば、介護ニーズの量そのものが変わるだろう。機械化による省力化をどの程度織り込むかによっても数字は大きく異なってくる。介護保険制度とは別に、ボランティアを活用したような保険外の介護の仕組みが普及すれば、必要となる職員数はさらに変わる。

さらに考えなければならないのが、ただ働き手を増やすだけでなく、人口減少下であっても生活の豊かさを実感できるようにしなければならないという点だ。労働力人口が減るということは、「超人手不足」状態が延々と続くということである。すごく単純に考えれば売り手市場であり、賃金は上がるはずだ。ところが、現実には不本意な非正規労働に追いやられている人はなくならない。

こうした状況を少しでも改善し、労働人口が減っていく中でも経済成長させていくには、これまで以上に生産性を向上させなければならない。まず、すべきは安い商品を大量生産する「発展途上国型ビジネスモデル」との決別であろう。高付加価値商品を小人数で生み出すモデルに転換するのである。

発展途上国型ビジネスモデルは、日本が周辺諸国に比べて技術力で圧倒的に勝り、若くて安い労働力が安定的に確保できた時代にあってこそ成り立ってきた。いまや、オートメーション化された近代的な工場を建設すれば、どの国にあっても画一的な製品を作ることが可能だ。発展途上国型ビジネスモデルに固執する限り、日本は賃金が安い国々と勝負し続けなければならず、日本人の賃金をどんどん切り下げざるを得なくなる。とても太刀打ちできず、このような競争は長続きしない。

一方で、女性や高齢者の就労がかなり進んだとしても、労働力人口の絶対数が減っていくことは避けられない。

数少なくなる労働力人口が少しでも厚遇で働くことができるようにするには、日本が人口減少社会に応じた産業構造に転換した場合、どの分野にどれぐらいの人手が足りなくなるのかをしっかりと見極めて、育成する産業分野を絞り込んで投資し、さらにそれに応じた人材教育を行っていくビジョンが必要だ。

経済界には「労働力不足の解決には、外国人労働者を受け入れるしかない」との意見も根強いが、いま日本が取るべき道は、現在の社会をベースに人数の辻褄合わせをすることではない。

目の前の課題にばかり目を向けていたのでは、イノベーションや労働生産性を向上させるための新たなチャレンジを妨げ、結果的に日本社会全体の足腰を弱くすることになる。

労働力人口の減少を必要以上に恐れず、小さくとも〝キラリと輝く国〟を目指して知恵を絞るときである。

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河合雅司(産経新聞 論説委員)

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