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争点は「カネ持ち増税」の是非

旧みんなの党の渡辺喜美代表は私の元師匠であり、今でこそ絶縁されてしまったが、当時は実に多くの事を教えて頂いた。その言葉の中で最も印象に残っている一つがある。野党の政策は、日頃の国会運営では見向きも審議もされず、報道もされず、埋没してしまう。だから平時は支持率も下がる。けれども選挙の時は違う。有権者は各政党の政策を見較べて投票先を決める。だから優れた政策を掲げていれば選挙前にググーッと支持率が上がってくる。選挙は政策だ。そういう話だった。

選挙の勝敗は争点設定(アジェンダセッティング)で決まると言われている。確かに、わが国の選挙を見ても、郵政選挙、政権交代選挙、何らかのイシューをめぐる是非を問う「国民投票」のような状況に持ち込んだ政治勢力が選挙に大勝しているケースが多い。直近では、府市二重行政の弊害を取り除く「大阪都構想」再挑戦の是非を問う選挙に持ち込んで、ポスト橋下氏のW選挙を予想以上の大勝で制した大阪維新の会のケースもある。私達が選挙に勝つには、私達の側から争点設定を挑む必要があるだろう。

消費税10%への増税実施の是非は、もはや争点から消えた。岡田代表が党首討論で「先送りもやむを得ない」と明言したからだ。これにより、安倍総理が10%の再延期を決めて衆参同日選挙に踏み切ったとしても、これについては与野党とも同じ事を訴えるだけの話であって、「増税先送りなら○○党へ」という選挙にはならなくなった。ならば何を争点化しようとするのか、その結果として何が争点となっていくのか、安倍政権の側も野党の側も考えなければならない。

北海道5区衆院補選の出口調査で示された民意は、明らかに「経済の不安」と「生活の不安」への答えを求めている。道新の出口調査では、有権者が投票にあたり重視した政策として「社会保障」25%「景気・雇用」19%「安全保障問題」11%の3つが挙げられている。「ふつうの人から豊かになろう」という池田まき候補のキャッチフレーズが響いたのも、現状の民意の求めるものが何かをはっきりと指し示している。

ならば、私達は、「公正な再分配」を明確に打ち出すべきではないだろうか。「再分配による格差是正は経済成長を阻害する」と長らく信じられてきたが、それとは逆に、所得格差の是正によって経済成長は活性化されるというのが、OECDやIMFの最新の研究成果として示されている。そして、格差是正において最も重要なのは「教育」であり、格差が経済成長を損なう主な要因は「貧困層への教育投資不足」であるとOECDのレポートでは指摘されている。

先日、安倍総理のいわば家庭教師役を務めたノーベル賞経済学者のスティグリッツ教授も、「所得上位1%は下位の99%に比べて収入を消費に回す比率が低い。だから所得再分配した方が経済を刺激できる」「再分配は経済を刺激し、成長させるための有効な手段の一つである」と語っている。そして、次に家庭教師役を務めたクルーグマン教授も「富裕層をさらに太らせる事が国全体を豊かにするという証拠はなく、逆に、貧困層の貧しさを緩和する事にはメリットがあるという確固たる証拠がある」とニューヨークタイムズ紙で語っている。

所得再分配を口にすれば「社会主義的だ」と言われた時代は終わり、今や「公正な再分配」が経済成長の源となる時代を迎えているのだ。それは「社会保障」と「景気・雇用」を求める出口調査の民意の声を同時に満たす政策ともなる。ピケティ氏が指摘したように、今や日本においても上位10%の富裕層の所得は、国民所得全体の30~40%まで広がっている。にもかかわらず所得1億円以上の富裕層になるほど所得税の実質の負担割合は下がっていく。株式売却益等にかかる所得税率が20%と低い水準になっているからだ。こうした富裕層に所得税率の負担増を求めてはいけないだろうか。

税引前純利益に対する法人税負担は、資本金1000万円未満の中小企業で47%なのに、資本金10億円以上の大企業では26.3%でしかない。2兆円もの純利益をあげているトヨタが、租税特別措置により1000億円もの税負担の優遇を受けている。大企業ほど法人税の負担は低いのだ。しかも「パナマ文書」のようなタックスヘイヴンを使った租税回避も行なわれている。日銀の統計ではケイマン諸島だけでも日本からの直接・証券投資の総額は66兆円にのぼっている。その一部でも日本国内で納税されていたらどうだろうか。

こうした担税力のある大企業や富裕層に応分な負担を求め、そこからあがる税収を原資として、教育、子育て、医療、介護、貧困対策といった「公正な再分配」を行なう。スティグリッツ教授流に言えば、「1%から取って99%に回す、それこそが経済成長への道だ」とはっきり打ち出すべきではないだろうか。「カネ持ち増税だ、アンチビジネスだ」と自民党は猛反発するかもしれない。読売新聞と朝日新聞で評価は正反対になるかもしれない。国民の間でも賛否両論に分かれるだろう。だからこそ選挙での「イエスかノーか」の争点になる。

大事なのはこれをはっきり言う事だ。うしろめたさを抱えてムニャムニャ言っていたら国民に響かない。もうアベノミクスには期待できない、アベノミクスでは幸せになれないと思いつつ、じゃあそれ以外に何があるのか、国民は迷っている。「これが答えだ」とはっきり確信をもって示す事が、国民の迷いを断ち切る事につながる。担税力のある大企業・富裕層からは増税し、国民・庶民の生活の安心に回す。トリクルダウンではなくボトムアップ。つまりは「ふつうの人から豊かになろう」だ。何だかんだ言っても大企業・富裕層の方を向いている自民党には絶対に言い出す事のできない政策だ。

アベノミクスは今や行き詰まりが明確となり、株高と円安の右肩上がりももはや過去の話となった。国民・庶民の生活実感は苦しく不安なものであり続けている。そこで今、にわかに行なわれているのが、「一億総活躍」と称する野党の掲げてきた政策の露骨なパクリだ。同一労働同一賃金、長時間労働規制、最低賃金引上げ、待機児童対策、保育士給与引上げ、給付型奨学金、どれもこれも安倍政権は当初は否定的だったのが、今になって臆面もなく私達の政策をパクっている。アベノミクスでなくパクリノミクスだ。それは私達がいかに正しいかの証しであり、安倍政権がいかに「ネタ切れ」に陥っているかの証しでもある。

そう考えてみると、安倍政権がやろうとしてきた事は、ことごとく、国民の半数以上が反対している事であるのが分かる。国家統制色の強い自民党憲法草案に基づく憲法改正しかり、粗雑で憲法適合性を欠いた安保法制しかり、原発依存回帰のための再稼働推進しかり。個別具体の政策で見れば安倍政権は支持されていないのだ。彼らも本当はそれが分かっている。

相手は恥も外聞もないパクリノミクスで「争点消し」を試みてくるだろうが、私達が対立軸となる政策をはっきり正面に押し出して「イエスかノーか」を問う事ができれば、必ずや勝機が見えてくるはずだ。何となれば、元師匠が教えてくれたように、選挙は政策であり、争点設定の戦いだからだ。

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