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【読書感想】人工知能は人間を超えるか

リンク先を見る 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)

Kindle版もあります。

リンク先を見る 人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書)

内容紹介

グーグルやフェイスブックが開発にしのぎを削る人工知能。日本トップクラスの研究者の一人である著者が、最新技術「ディープラーニング」とこれまでの知的格闘を解きほぐし、知能とは何か、人間とは何かを問い直す。

 先日、NHKで、『天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る』という番組が放送されていました。

 将棋界の第一人者・羽生善治さんが、「人工知能」の最前線を取材した番組で、僕はこれを観ながら、「医者の仕事も、あとどのくらい人間が必要とされるかわからないな……」と思っていたんですよね。

 もちろん、コンピュータを制御する技術者は必要とされるかだろうけれど、そのうち、コンピュータがコンピュータを管理するようになって……

 行き着く先は、自我を持ったコンピュータと人間による戦争?と、いわゆる「中二病」的な妄想に浸ってしまうのですが、この本は、日本でトップクラスの人工知能研究者によって、「人工知能の歴史と現在」そして、「人工知能が、人間を滅ぼすということがありうるのか?」という不安への現時点での回答が、わかりやすく書かれています。

 序章で述べたように、世間を賑わせている人工知能だが、実は、人工知能は2015年現在、まだできていない。このことは、多くの人が誤解しているのではないだろうか。

 世の中に「人工知能を搭載した商品」や「人工知能を使ったシステム」は増えているので、人工知能ができていないなどと言うと、びっくりするかもしれない。しかし、本当の意味での人工知能―つまり、「人間のように考えるコンピュータ」はできていないのだ。

 人間の知能の原理を解明し、それを工学的に実現するという人工知能は、まだどこにも存在しない。したがって、「人工知能を使った製品」や「人工知能技術を使ったサービス」というのは実は嘘なのだ。

 僕は小学校の頃、「人工知能」というのに憧れていたマイコン少年で、「女の子と会話ができるソフト」の広告やレビューをみて、「これから、人工知能というのは、どんなふうになっていくのだろう?」とワクワクしていたんですよね。

 それが、1980年代の話。

 ところが、その後の人工知能というのは、なんだかあまりパッとしないというか、単なる音声ガイドみたいなのが「人工知能」呼ばわりされて宣伝に利用されている時期が長かったのです。

 実は、人工知能のは、これまで2回のブームがあった。1956年から1960年代が第1次ブーム。1980年代が第2次ブーム。私が学生だったのは、ちょうど第2次ブームが去った後だた。

 過去の2度のブームでは、人工知能研究者は、人工知能の可能性を喧伝した。いや、喧伝する意図はなかったのかもしれないが、世の中がそれを煽り、そのブームに研究者たちも乗った。多くの企業が人工知能研究に殺到し、多額の国家予算が投下された。

 パターンはいつも同じだ。「人工知能はもうすぐできる」、その言葉にみんな踊った。しかし、思ったほど技術は進展しなかった。思い描いていた未来は実現しなかった。人工知能はあちこちで壁にぶち当たり、行き詰まり、停滞した。そうこうするうち、人は去り、予算も削られ、「人工知能なんてできないじゃないか」と世間はそっぽを向いてしまう。期待が大きかった分だけ失望も大きかった。

 この本のなかには、これまで、人工知能を実現するために、研究者たちが行ってきたさまざまなアプローチが紹介されており、その思考のプロセスは大変興味深いものでした。

 コンピュータは「限定された条件下」であれば、人間よりはるかに速く計算をし、状況に対応することが可能です。

 ところが、その「条件設定」そのものが、とても難しい。

 逆にいえば、人間というのは、「曖昧なものを、意識せずに処理してしまえる能力」がきわめて高いのです。

 ひと口に「part -of 関係」と言っても、実際には、さまざまな関係があることがわかっている。

 たとえば、自転車と車輪の関係「車輪 part-of 自転車(車輪は自転車の一部)」だが、自転車のほうは車輪がなくなってしまったら、もはや自転車とは言えない。しかし、車輪のほうは自転車があってもなくても車輪のままだ。

 一方、森と木の関係は「木 part-of 森(木は森の一部)」で、森から木を1本抜いても森は森のままで、木も木のまま。「夫 part-of 夫婦(夫は夫婦の一部)」は、夫がなければ妻でもないし、妻がなければ夫ではない。「ケーキ(ひと切れ) part of ケーキ(ホールケーキ)」はどちらもケーキで、どこまで細かく切ってもケーキのままだ。

(中略)

「part-of 関係」ひとつをとっても、実は細かな違いがある。われわれはこのようなことをいままでに意識したことがあっただろうか。このように、人間が自然に楽々と扱っているような知識でも、コンピュータにとって適切に記述しようと思うと、非常に難しいことが徐々にわかってきたのである。

 こうして、あらためて言われてみると、人間って、すごいのだな、と感心してしまいます。

 この「part-of 関係」だけでも、プログラムで再現するのは、かなり難しそうです。

 著者は、現在は「人工知能研究にめぐってきた、三度目の春」だと仰っています。

 でも、浮かれてばかりいるわけでもない。

 「ディープラーニングという『50年ぶりに起こったブレイクスルー』で、人工知能研究は大きな進歩を遂げているが、急速に発展するか保証はない。だが、この技術には、賭けてみるだけの価値と可能性がある」という、極めて冷静な現状分析も述べておられます。

 この「ディープラーニング」という言葉、人工知能に興味を持つ人であれば、耳慣れているのではないでしょうか。

 しかしながら、「じゃあ、どんなものなのか説明して」と言われたら、うまくやれる人は、そんなにいないと思うのです。

 コンピュータが自主的にデータを集め、学習するシステム、だと僕はぼんやり認識していたのですが、「そんなこと、どうやったらできるんだ?」とさらに問われたら、ひとたまりもなかった。

 正直なところ、この本のなかでもちょっと難しい話で、僕も理解しきれた自信はないのですが(「ノイズ」について、なぜそれを入れることが合理的なのか、それでデータがぶれることにならないのか、何度か読んでみてもわかりませんでした)、この本のなかでは、人工知能に革命をもたらした「ディープラーニング」というのは、どういうものなのか、というのが、素人にもわかりそうなラインで、かつ、簡略化しすぎることもなく、丁寧に説明されているのです。

 そして、「ディープラーニング」を実現したのは、コンピュータの処理速度の上昇や扱えるデータ量が増えたためで、アイデアだけではなく、技術の革新というのが効いていることがわかります。

 この50年の試行錯誤は、けっして無駄ではなかった。

 ちなみに、著者は(現時点では)「人工知能が人間を征服すると想像するのは難しい」と考えておられるようです。

 その理由を簡単に言うと、「人間=知能+生命」であるからだ。知能をつくることができたとしても、生命をつくることは非常に難しい。いまだかつて、人類が新たな生命をつくったことがあるだろうか。仮に生命をつくることができるとして、それが人類よりも優れた知能を持っている必然性がどこにあるのだろうか。あるいは逆に、人類よりも知能の高い人工知能に「生命」を与えることが可能だろうか。

 自らを維持し、複製できるような生命ができて初めて、自らを保存したいという欲求、自らの複製を増やしたいという欲求が出てくる。それが「征服したい」というような意思につながる。生命の話を抜きにして、人工知能が勝手に意思を持ち始めるかもと危惧するのは滑稽である。

 ああ、それはたしかに、そうだよなあ。

 ただ、人工知能が勝手に「意思」を持たないとしても、ある人間の「意思」を優秀な人工知能が遂行してしまう可能性、というのはありそうな気がします。

 もちろんそれは、「人工知能のせい」ではないのだろうけれど。

 そもそも、人間が「勝手に意思を持ち始めた人工知能」みたいなものなのかもしれませんね。

 「人工知能って、どんなものなの?」という、初学者にとってわかりやすく、それでいて手を抜かずに書かれている良書だと思います。

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